第27話 地方巡業に出る前にすることをしましょうか。とさ
あれから数日が経ったが。脅迫状はあの一通だけだった。そのほかの郵便物の取り扱いに注意していたが、それらしいものはなかった。
やはり嫌がらせだろうか、それとも来てほしくない人物が居る可能性もある。不正や横領、人には見せられない恥ずべき行為とか、想像したらきりがない。
憶測だけで物事を判断しても何も解決しないのはわかってはいる。そこでダニエルさんの自衛団メンバーから情報を集めることにした。
自警団は首都を中央部隊として、東西南北に支部を設けている。とはいっても支部長を除けばほとんどのメンバーは兼業団員がほとんどだ。
宿屋のおやじであったり、酒場のマスターだったりと職業も様々。
今回の巡業に関して各支部長が集まるというので、その会合に参加させてもらうことになった。
場所は自警団本部の小さな会議室だ。
五~六人程度が話し合うのにぴったりの環境の一室ではあるが、屈強な男たちがこれだけ集まるとちょっと狭くも感じる。だがコソコソ話をするのには、うってつけの環境であるのには間違いない。
「魔王様の地方ご訪問については以上でいるが、一つ頼みがある。これから紹介するのはリコスと言って、魔王様の側近だ。力になってもらいたい」
そういうと一歩下がり俺と交代する。
「ご紹介にあずかりました。リコスと申します。時間も限られているので単刀直入にお伺いします」
俺はいきなり本題に突き立てることにした。遠回しにしたところで、時間ばかりがとられるだけで成果を得られない可能性があるからだ。
「魔王フリソスへの邪魔たてを企てている人物が居ます」
みんな一斉に騒めく、その中でじっと聞いていた北の支部長であるロマノフが口を開いた。
「それは我々の中に反逆者が居るとのことか?」
「いいえ、その可能性は低いと考えています。皆さんには今日初めて、魔王フリソスが地方巡業を知ったわけですから、事前に知っていた可能性はないのではと思います」
「みんなリコスさんの言うとおりだ。だが護衛が必要なのは事実」
またしても騒めきだした。本来であればとてつもない力を持った魔王が、人間のによる護衛を頼みたいなどということはありえないことだと皆が考えているからだ。
「なるほどな、何らかの理由によって魔王様は本来の力が出せない……間違いないか?」
「ロマノフさんのおっしゃる通り、そんなところです。少々の制約を課されているといった方がいいでしょう」
騒めきは治まらない。絶対的な力を持っていると思っていた魔王が、ある制約によって力を出せないと知ったのだから。
「もう一ついいか、俺の部隊が監視てしているところは、元国王が居座っているのだが、いわば最前線になる。今でもぎりぎり抑えている状態だ。正直に手が回らない。他から護衛を回せないのか?」
「東は無理だな、国境付近に元国王派が居座っている。にらみを解くわけにはいかない」
「南が一番いいんでないか。西は危ない連中は少ないが、元々兼業者が多くてな、仕事を離れるわけにはいかないんだ」
「俺のところか。港の警備が疎かになる。元国王の密輸品が大量に持ち込まれていて、それらの検品でてんやわんやだ。あいつら戦争する気満々だぜ。武器を毎日大量に押収しているさ」
要するに、護衛に避ける人員はどこのエリアにもないとのことだ。
これはなんとなく予測できていたから、仕方ないだろう。そのための保険としてエルフの森に出かけたわけだし。
「リコスさんよ。これだけ言っておく、自分のエリアに来た魔王様は、何としても守り抜く。それだけだ」
ロマノフがそういうとほかの支部長も納得している。
「よくわかりました。人員がギリギリのところも申し訳ないのですが、滞在中の警護はお任せします」
「任せいおいてくださいね、リコスさん。魔王様に指一本触れさせませんから」
「おうよ、任してください!」
これで会合は終了となった。俺は自警団本部を一人出た。
実は言うと、護衛部隊はもうそろっていた。エルフ族のアルフロッテさんが参加することになったからだ。ダニエルさんを騙すかたちになってしまったが、この中に裏切り者が居るのではないかと踏んでいる。
支部長は直接かかわっていなくても、部下が寝返っている可能性もあるからだ。
組織は大きくなると反面、見えない部分が多くなってしまう。
これで地方巡業の話が確実に国中に伝わった。
さぁ、脅迫状の差出人とやらはどう出るのかが楽しみだ。
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