第25話 エルフに護衛を頼みに行く。とさ
元魔王であるフリソスにとっては護衛など滑稽であると思っていたが、実はそうもいかないらしい。魔王である時の能力のほとんどを封印しているとのことだ。
それでもそこら辺の野盗なんかよりもずっと強い。傭兵上がりの俺もあっさりと負けちゃったしね。
とはいえ数人程度ならいいが、大多数の軍勢を相手にしなければならないとすると話は変わる。
もちろんフリソスのかつての部下である、腹心達の四姉妹を護衛としてつけたいが、頑なに強張ねられた。
俺も当然加勢はするが、それでは足りない可能性だってある。
ダニエルさんの自警団には、フリソスがいない間の国の警備を担ってもらう必要があるからね。力を分散するわけにはいかない。
そこで護衛役をダニエルさんの知り合いのエルフ族に頼むのだ。
エルフ族の彼らも肉塊の被害者であり、苦しめられた種族なのだ。貢物が少ないとして領主が多数の仲間たちを奴隷として売られたそうだ。酷い話である。
もちろん領主は即解雇し、エルフ族の森は彼らが領主となって今は治めている。
今回は、ダニエルさんの紹介で元レジスタンスを雇いに来たわけだ。
彼らの領地に入った途端、すごく警戒されていた。
女性や子供たちはすぐに家へと入り、男たちが集まってきた。もちろん軽く武装している。
「私は危害を加えに来たわけじゃありません。話がしたいだけなんです」
私の声に答えるように、エルフの族長と思わしき人物から質問をされた。
「私がこの地を収める族長だ。人間よ、何用で我が領地に入る」
「ダニエルさんの紹介で来ました。元レジスタンスのメンバーと会いたいのですが」
「ならぬ、もうこれ以上一族の血が流れるのは御免被りたい」
族長は首を横に振り、我々にかかわりたくない姿勢をみせた。
「ただ護衛を頼みたいだけです。戦争をする気は毛頭ございません」
「護衛だと。お前のか」
「いや今の国家元首のです」
「魔王様のか!?」
その名前が出ると、まわりは騒めきだした。
「そうなんです。彼女の護衛を勇敢なるエルフの元レジスタンスに、頼みたくて来ました」
男たちに囲まれた輪の中から、一人の少女が飛び出してきた。
「じいちゃん、魔王様は自分の危険に顧みず、我々を救ってくれたお方だ。助けを求めているのであれば、あたいは行く」
「アルフロッテ!」
人間であれば一〇代後半に見えるが実際は、俺より年上なんだろうな。
銀色の髪の毛はポニーテールに束ねられ、ひざ丈の白いワンピースに銀の胸当てや小手を装備し、手には弓を持参している。革でできたヒール付きのブーツで、少々短い伸長を高く見せている。
「あなたがアルフロッテさんですか、ダニエルさんからお話は伺っております」
「ダニエルとは一緒に戦った仲だ。あたいの手を必要とするならば、あたいは行く」
「アルフロッテ、それは無い。我々は もう血を流さないと決めたではないか!」
「じいちゃん、私たちを助けてくれた魔王様の手足になれるなら、あたいは進んでなる」
「一族の結束を乱すつもりか」
「じゃあ、魔王様が来てくれなかった方がよかったったていうの。そんなはずはない」
「魔王様には大変感謝しておる。だが族長としてだな……」
「おっほほほほほほほ。お話はすべて聞かせてもらったわ」
「だれだ、その声は……まさか!」
「聞いて驚け、見たら買いなさい! 小さな幼女を愛する商売魂の塊、人呼んで商人エルフのフェリスとは私のことよ」
木の上から叫んでいたのは、エルフの商人であるフェリスさんだった。
フェリスさんはゆっくりと木から降りてきた。そこはさっそうと飛び降りるんじゃないんだ。なぜ上ったんだろう。俺たちは淡々と降りてくる彼女を待った。じっと耐えていた。
「ごほん。話は聞かせてもらいましたわ。アルフロッテちゃん」
「フェリスさん近づかないでくださいよ。なぜ抱きしめるのですか?」
フェリスさんは木から降りるとすかさず、アルフロッテさんの元へと駆け寄るだ。すぐに彼女を抱きしめた。幼女好きって宣言していたしな。
「アルフロッテちゃん、かわいいわ。こんな高いヒールを履くことなんてないのに。べったんこのブーツにしなさい。おねえちゃんが買ってきてあげる」
「いいですってば、それより胸で苦しいです。溺れてしまいます!」
「ごめんねごめんね」
「フェリスさんはいつだって、私を子ども扱いするんですから!!」
彼女らしい納得の愛情表現だ。ティミィやティナも嫌がっているが、ほかでも嫌がられているんだな。
「ごほん、族長。私も魔王様の地方巡業に同行しますわ。まだ私の配下の者が行っていない地方もありますので、参加して商売範囲を広げようと思っていたところです」
「お主まで行くとなると、余計アルフロッテが心配になるわい」
「それはどういうことですか!?」
そりゃー心配するだろうな。別の意味でアルフロッテさんが危ないと感じるだろうな。
「私の愛は本物ですから! じゅるり」
「フェリスさんよだれが出てますよ」
俺の指摘にフェリスはよだれをハンカチで拭く。
「フェリスさんは私が監視しますので、安心してください。それともしも戦闘になってもアルフロッテさんは後方支援が目的ですから、前線は私が率先して出ますので」
「もしもとは言ったが、戦闘は可能性としてあるのだな」
「旧国王派が地方にはまだいると聞きます。なので可能性としては捨てきれません。ですが戦いでねじ伏せるつもりはありません。あくまでも話し合いと復興支援に向かうためです」
「じいちゃん、このままだと前の私たちの様に、苦しんでいる人がたくさんいるんだよ。ならばできる限り助けに行かないと」
「うーむ……」
「お願いです。どうにかフリソスの力になってはくれませんか?」
「私からもお願いをする。アルフロッテは私が守るから」
「一番心配なのはフェリスが居ることなのだがね」
「えっ!? うそ、私? なんかショック……」
「冗談は置いておいて、わしの一存だけでは決められん。村の者と相談をする必要がある。今日のところはお引き取り願えないか」
「分かりました。来週出発する予定です。それまでに決めてくれれば大丈夫です」
「よかろう。それまでに結論を出そう」
ショックを受けているフェリスさんを連れて俺達はエルフの森を後にした。
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