第23話 美術館がオープンした。とさ
ついにこの時を迎えた。待望の美術館がオープンする日だ。
この日は、招待客としてざっと二〇〇〇名を招待した結果、なんと約千一八〇〇名も来てくれたのだ。国家元首も複数名含まれており、しかも残りの約二〇〇名は当日は来れないが、後日来館を予定しているというから、フリソスの人脈の深さを物語っている。
俺は先日の件もあるし、ダニエルさんに警備を徹底するように、お願いをした。
もしかしたらあの肉塊のことだから、放火が失敗に終わったので、新たな手を出してくるかもしれない。
だが、フリソスはワインを飲みながら、「大丈夫ちゃんとくぎを刺しておいたから」と言う。どういうことだろうか。
まぁ、肉塊以外にもスリやら置き引きなどにも警戒する必要があるからいいけど。
何せここに集まっているのは、大陸でも盟主ばかりなのだからあらゆる粗相は許されない。
フリソスの腹心たちの四姉妹も、各自華やかなドレスに身を包み、招待客たちの接待をしてくれている。
その中でも意外と人気なのは、地味で目立たないテッラさんだ。なんでも小説家だと言ってたな。
だからなのか大勢のファンに囲まれてプチサイン会やら、愛の告白合戦になっている。しかも大陸での指折りの国王様までも虜にしている。恐るべし小説家。ペンは剣よりも強しってことで。
ちなみに書いている小説のジャンルを聞いたら
「……ひみつ……でも、二人っきりになったら……後で教えてあげる」
とのことだ。そんなにすごい内容の小説なんだろうかと、息を呑んだ。
ちゃっかりしているのはティミィとティナである。ロワーフ族の血が騒ぐと、このチャンスを活かすべく商談を始めていた。
相手は世界でも有名な宝石ブローカーだそうだ。俺が売った宝石類を売りにかけるらしい。二人は逞しい精神力だね。
俺は招待客との接点もないし、暇を持て余している。
さてと、ココルが一生懸命作った料理をいただくとするか。最初はこれにするか。どんな料理かはわからないけど、握った白米の上に生魚を乗せたシンプルな料理だ。
白米はお酢を利かせていあり、生魚も臭みがなくておいしい。小さなプレートには『東方の異国の伝統料理寿司』と書かれていた。
道理で初めて食べる料理なわけだ。
この料理は人気で、どんどなくなってしまっていく。
心行くまで食べたいが、招待客優先として、これ以上食べるわけにもいかんな。
ほかにもお馴染みの地元料理が数点見かけられ、異彩を放っているのはやはり異国の理料理たちが所狭しと並んでいる。
俺は一通りの料理を堪能すると、時間を見てアナウンスをかけた。
「お集りの皆様、当国が誇る美術館のテープカットのお時間です。入口へお集まりください」
このアナウンスと共に、着飾った紳士淑女の皆さんが入口へと集まってきた。
「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます」
フリソスの演説と共にテープカットの儀式が始まろうとしてている。
俺は陰になるように端っこに姿をひっこめた。
「当美術館を企画から設計まで手掛けたのは、リコスと言う者でして、当国が誇る名参謀です。彼からも一言を」
フリソスの拍手と共に俺が出るように手で訴えてくる。みんなの視線が徐々に俺と向けられ始めてた。
仕方なく壇上に上がることに……。
俺はこっそりフリソスへ話しかけた。
「フリソスどういうつもりだ。俺なんかが出ても意味ないだろうが」
「今日の主役は君だ、リコス。なんか喋れよ」
「急に言われてもな……」
全員の視線は俺に向けられている。何かしゃべるしかない。俺は意を決して語り出す。
「当美術館を企画いたしました。リコス・バンディと申します。当美術館は王宮で非公開となっていた、絵画や美術品を一部の方だけが楽しむのではなく、幅広い方にご覧いただくことで、美術への関心と発展を王国を上げて盛り上げていく一存であります。それでは開館します!」
盛大な拍手と共にテープカットがされ、白い鳩が一斉に飛びっ発った。
最初の招待客たちが美術館内へ入っていく、ここでも関心を集めたのは、テッラさんの説明書きだ。美術評論家も納得のいく内容で書かれており、辛口で有名な美術愛好家である、アルロッテさんも舌を巻くほどだそうだ。
さすがは小説家のテッラさん。本当にどんな小説を書いているんだろう。
なぞは増すばかり。
そうそう自警団のおかげもあって、肉塊の横入れやスリ、置き引きと言った犯罪も起きず、恙無い状態で終焉を迎えることができた。
明日は一般公開日だ。市民並びに一般の旅行者も集まることだろう。
大忙しになるに違いない。
俺は今日の疲れもあるのかパーティ会場の後片づけを済ませると、自室に戻り泥のように眠ってしまった。
翌日、ココルちゃんに起こされるまで俺は知らなかった。
「リコスさん、起きてください」
「ふぁ、ココルちゃんどうしたんだい、こんなに朝早くから?」
「外は大変なことになっていますよ」
それを聞き俺は装備を揃えて外に向かった。
肉塊が攻めてきたのか、それとも盗賊か。
王宮の外門を開けると、そこは人の行列ができていた。
その行列の先にはあの美術館へと繋がっていた。美術館に入るための長蛇の行列である。俺は胸を撫でおろしたのと同時に美術館スタッフだけでは手が足りないだろうと、美術館へ駆け出していた。
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