第22話 美術館が焼けた。とさ

何もかもが焼けてしまった。

俺は頭に包帯を巻いて、守ることができなかった焼け残った美術館を見ているだけだった。

明日は大事なオープンだというのに、招待客がこれを見たらどう思うだろうか。これではフリソスの面子は丸つぶれになってしまう。

俺は完全に途方に暮れるしかなかった。

すると大工の親方が弟子と共に丸太を運んでいる。


「親方、すみません。せっかく作っていただいたのに、守ることができませんでした」


俺は頭を下げることしかできない。何もできない人間なんだ。魔王であるフリソスの配下になって、現を抜かしていたにすぎない。


「半分焼けちまっただけだからな、明日までには終わらせるさ」

「親方……」

「野郎どもベルデルグの大工の腕の見せ所だ」

「「へぃ!!!!」」

「なに、心配なんてするな。お前さんはやるべきことをやったから、半分も残せたじゃねぇか」

「ありがとうございます!」

「俺らだけじゃねぇ、見てみろや」


街の人々が焼けた美術館に集まってきた。そこには魚が腐っていたと言って怒っていたおばさんまでも居た。


「手伝いにきたよ。明日のオープンまでには間に合わせなくちゃね」


街中の人々が集まり、その数は巣数千人を超えている。


「私達、商人からは炊き出しをさせてもらうわ」

「数千人分になるので、エルフの皆さんにも協力してもらうことにしたの」


義理堅い商人達だ。

美術館の外装部分は石造りのため焼け跡が残っているぐらいで、損害はない。床面や一部壁に木材を使用しているので、そのあたりを大工集団は修復を開始した。

女性たちは焼けてしまった絨毯や、タペストリーを編んでいる。

みんな不休で作業にあたっている。疲れた者は、商人たちが用意した炊き出しを食べて休憩してもらった。そして一休みするとまた作業に戻っていく。本当に頭が上がらない。

フリソスはこれだけじゃ足りないと、自分の腹心地を呼び寄せて、作業の手伝いをさせてくれた。腹心はなんとかわいい四姉妹だった。

彼女たちは、それぞれ属性があり、その特徴を生かして働いてもらった。


長女のエクリクスィさんは大人な魅力満載の赤髪で、年のころなら二〇歳中盤のきれいなお姉さんといったところだろう。革地のツーピースでヘソ出しルック。淵にファーが付いているちょっと派手めな服装だ。炎属性で鍛冶屋の手伝いをしながら、炊き出しのウェイトレスをしている。元々も酒場バイトをしているから得意なんだとか。


次女のネロさんは水属性、透き通るような水色の髪の毛でポニーテール、水色のロングスカートに上は、明るい黄色のブラウスを着用。美術館の周りの草木の手入れをテキパキとこなしている。こちらもバイト先が花屋さんなのだそうだ。


三女のテッラさんは土属性を活かしてゴーレムを操り大工の重たい木材や石などの運搬をする傍ら、美術品の説明書きをしている。しかも現役の小説家とのことだ。髪の毛は伸び放題なので腰まである長いに、顔の左半分が髪の毛で隠れ素顔をあまり拝めないが、艶々でお手入れを怠っているようには見えない。服装も地味で黄土色のシャツにデニム地のプリーツスカートを履いている。だからなのか四姉妹の中では地味な印象を受ける。


そして俺を助けてくれた四女のアネモスさんは風属性、あの時は死ぬかと思ったよ。助けてくれてありがとう。彼女は風の力を利用し、焦げてしまった外壁などを磨きあげてくれている。


「こんなに頼もしい仲間が居るのに、俺んて必要なのか?」

「あたりまえだろ、この企画はリコスのものだからな。細部まで熟知しているリコスに居てもらわないと困るんだよ。ほら早速」

「リコスさん。床材のミンクル材でよかったですよね?」

「はい、歩く音が静かになるののと、美術品を湿気から守ってもらうために湿気の吸収率の高いミンクル材でお願いします」

「リコスさん、絨毯のサイズだけどこの長さで足りるかね?」

「これはですね。あともう一〇センチ長くお願いします。それでぴったり床にはまります」

「ほらな。お前さんなしにはこのプロジェクトは動かせないんだよ」


「…………」


「リコス? 泣いてるのか」

「だって……人生で……こんなにも人として、必要とされたことないんだ」

「ぷっ、いいじゃねぇか」


泣いているリコスの傍でフリソスは笑って見せた。彼女なりのやさしさなんだなと思う。

深夜に及ぶ工事の結果、当初の予想よりも早く完成した。

フリソスの腹心たちのおかげもあって完全に修復作業が完成。祝賀行事として城の食糧庫から、酒をもってきては前夜祭として大いに盛り上がった。

俺達は朝まで飲み明かした。


えっ!? 燃えてしまった美術品はどうするのかだって?

実は、ティミィとティナと試しに美術品を運ぼうとしたんだけど、ダンジョンまで取りに戻るのがめんどくさくて、王宮内の贋作を飾っていたんだ。

だから本物の絵画や美術品は全部が無事だってわけなんだ。

怪我の功名というか、災いを転じて福となすとでも言うのかな。

これでオープニングセレモニーを開始できる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る