第20話 美術館が完成した。とさ

待望の美術館が完成した。

教会風の美術館は、内部を迷路のようにクネクネとさせて、テーマごとに展示を分けるようにした。

とりあえず王宮の絵画を試しに配置してみたが、しっくりくる。

俺は一つ一つの絵画に目を通したが、じっくりと一つの絵画を鑑賞できる空間に仕上がっていた。目的通りだ。大工の親方には感謝をしなくてはならないな。

明後日はついにテープカットをして、お披露目パーティを開く予定だ。招待客も明日に着くスケジュールでいるらしい。気が早い国賓や貴族はすでに到着していた。よっぽどフリソスに恩があるのだろう。

俺は夜の館内を一回りしていた。ここで失敗は許されないからな。

一つ一つの絵画を見ながら角を曲がると、そこには会いたくない人物が待ち構えていた。

ドンザレスとクリストフの二人組だ。

「よっ、相棒。会いたかったぜ!」

「何しに来た?」

「俺達は昔の仲間だろ」

「いや、今は違うね」

気軽に挨拶をしてくるが、俺は先日の一件の事もありその気になれなかった。

「目的はなんだ。美術品の鑑賞とは違うようだが」

ドンザレスが手に持っている瓶が気になる。あれは火炎瓶。

「お前さんが想像している通りだ」

「絵画は惜しいが、すべて燃やしてしまえとの命令でね」

「おいおい、一枚数億リッキー以上の値が張るものばかりだぜ」

「俺もそう思うよ。だが命令じゃ仕方ないさ」

命令に忠実な奴らだな。嫌だけど商談をしてみるか。

「何もせずに、一枚ずつ持ち帰ったほうがお得じゃないか?」

「俺も考えたさ。でもあの国王のことだから、絵が世の中に出るとバレるんでね」

へぇー何も考えてない奴らではないらしい。それ相応の対価も貰っているんだろうな。でなきゃ数億リッキー以上する絵画を燃やしたりはしなさだろう。

「交渉決裂だな」

「そうなるね」

そう言うと、クリストフはドンザレスが持っていた火炎瓶に火を付けた。

「あばよ、相棒」

そう言うとこちらに火炎瓶を投げ込んできた。

俺は背中の剣を抜くとともに火炎瓶をかわして体制を整えた。

火炎瓶は俺の後ろの絵画にヒットし燃え始める。

狭い空間でのトゥ・ハンド・ソードは、少々厄介だ。

それを見越してドンザレスの装備に槍は持っていなかった。

「火炎瓶なんて姑息な方法でセコイな」

「魔法で攻撃することも考えたさ。だがお前の仲間に察知されやすいからな。こうした物理攻撃のほうがいい時もあるんだよ」

火炎瓶がもう一本投げ込まれた。俺は切るわけにもいかず、避けるのが精いっぱいだった。次は通路に割れ散った。ついでに退路も断たたれた。

こうしている間に、数億リッキーの絵画が燃えてゆく。

「もう逃げ場はないぜ」

「お前らを殺るまでだ」

俺は床を蹴り出して、ドンザレスめがけて剣を振るう。

だが腰に隠していた短剣で一撃を受け止めた。

「新しい剣だな、腕も相変わらずいいぜ」

そう言うともう片方の手から火炎瓶を取り出すと俺達の真下に投げた。

俺は避けるため、後ろに退避する。

「あっははははは、これぐらいにして俺らは退散するよ」

「逃げる気か、絵はすべて燃えてないぞ」

「時期に燃え広がるさ、じゃあな」

通路を進み消えていく二人。

後を追うにも床は火の海だ。

「くそ! 逃がしたか」

反対の通路も火の海だ。完全にアウトである。

遠くからガラスの割れる音が聞こえた。二人は脱出したに違いない。また逃げられた。


────


そのころダニエルは自警団の数名で街の警備をしていた。

「なぁ、何か焦げ臭くないか?」

「えっ!? 焦げ臭いですかね……ダニエル団長、言われてみればそんな感じがします」

ダニエルは火の元を確認するため、あたりを見回す、ここは王宮近くの広場だ。夜は静かに時を刻んでいるが、何かおかしい。

すると元処刑場があった現在の美術館から、ガラスの割れる音が聞こえた

「なんだ、盗賊か!?」

「いやそれだけじゃない……美術館が燃えているんだ!!」

ダニエルはかけ走り美術館へ向かった。すると割れたと思わしきガラス戸から煙が出ているのがわかった。

「火を消すぞ、ニッキーお前は仲間を集めて来い。できるだけ多くに声を掛けろ」

「わかりました団長!」

「残りは俺についてこい」

窓から二人組が出てくるのが見えた。

「おい、お前らそこで何している!!」

「自警団か、ずらかるぜ」

ドンザレスは残りの火炎瓶を走ってくる自警団に向けて投げ込んだ。

すると反対側に駆け出し路地裏に逃げ込んだ。

火炎瓶によって、自警団は散り散りになったが、運よく誰にも当たっていなかった。

その隙に二人組を見失った。

「追っても無駄だろう。それよりも消火だ。消火を優先するぞ!」

広場の井戸から水をくみ上げるとバケツリレーで消火活動をする自警団。

そこにニッキーの話を聞きつけた仲間が徐々に集まりつつある。

「よし、消火は任せた。俺は生存者が居ないか中を見てくる」

ダニエルは、井戸水を被りずぶ濡れになった。

「団長、気を付けてください」

「あとは頼んだぞ」

ダニエルは入口から内部へと足を進める。


────

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