第19話 事件が起きたのだ。とさ
エルフの商人たちが扱っている品物は、どれも品質が良く街の人からも評判も上々だ。価格も前よりもグッと抑えてくれ、本当にこれで商売が成り立つのかと思うほど。
どうやら商売上、特殊な仕入れルートがあるらしく、仲買人を通さず生産者から直接買い付けを行っているとのことだ。また仲買人が多く抱えている在庫を安値で引き取っているとも聞いた。
しかも加工品は別のエルフ族が行っているので、コストをどこよりも抑えられるらしい。
これはなら一時的ではなく、定期的に開いてもらいたいと願うばかりだ。
ただし、ある事件が起きる前までは……。
「なんだよこれ、買ってすぐに腐ってしまったじゃないか!」
「うちのもそうだよ。こんなひどいものを売りつけるなんて、ひどい!」
市で騒ぎになっていると、ティミィとティナからの情報をもらい行ってみることになった。
「ちょっと待ってください。売っている物は新鮮そのものですよ」
「じゃあこれはどういうことだ。昨日買ったばかりだぞ!!」
「ちょっと待ってください。みなさん落ち着いてください」
「リコスさん、あんたが連れてきたエルフの商人は、最初はいい品物を提供していたのに、ほら見てくださいよ」
手には腐敗した燻製の魚が握られていた。
「これはひどい状態だ」
「確かにうちで販売している品物だが、リコスさんご覧ください。うちで販売しているのはどれも新鮮な物ばかりです。何かの間違いです」
「おばちゃん魚を見せてくれない」
買った品物をティミィとティナの二人は調べてみることにした。
「これ、どうもおかしいよ。腐り方が変なんだ」
「変ってどう変なんだ」
「この品物は燻製になっているんだ。だからこんなに均一的な腐り方をしない」
「なにか臭うよ。リコス」
「そりゃ腐ってるんだしな」
「そういう意味じゃなくてさ。誰かが手を加えていることってことさ」
「いったい誰が」
「それを調べる方法がないかな、リコス」
この件は一旦、俺らが預かることにした。そうでもしないと収拾がつかなくなるからだ。俺達はバフ効果に関する魔術に詳しそうな、リリィを訪ねるため王宮に戻ることにした。
リリィはベッドメイキング中で忙しそうにしていたが、少々時間をもらうことに成功。
「この腐った魚の燻製を私が調べるのですか?」
「これには何か魔法が使われているようなんだ。リリィなら何かわかるかなって思ってね」
「そうでございますか」
リリィはそう言うと腐った魚の燻製に触れた。
「たしかに術式が書かれております」
「ほんとうか?」
「はい。難しいものではありません。これは時を進める術式ですね」
「なるほど、時間を進めて腐らせたんだ」
ティナは納得して出かける準備をしている。
「さっきのおばさんに聞いてみるよ。何かわかるかも知れないし」
俺たち三人はさらに情報を聞き出すべく、魚を買ったおばちゃんのものに向かった。
おばちゃんは、中流階級層が住むエリアの一家に住んでいた。
「おばちゃん、さっきの魚のことで聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「なんだい、何かわかったのかい」
おばちゃんは庭の手入れをしており、ちょうど外に居た。
「いえ、今はなんとも。そこでお尋ねしたいのですが、魚を買った後で誰かに接触しませんでしたか?」
「そうだね、誰かにあったかね……」
おばちゃんは特段ケチをつけて、さらに何かを引き出そうとするようなタイプには見えない。
「そうだ、黒いローブ姿の男にあったよ。フードを深く被っていたから顔までは覚えてないけどね。なんでも魚がよりおいしくなる方法があると言って、魔法みたいなものをかけていたね。そしたら魚からすごくいい香りがしたのを覚えているよ」
「そいつだ。リコス、そいつが魚を腐らせた犯人に違いない」
「どうして魚が腐ったのか分かったのかい?」
「うん、そんなところ。おばちゃんありがとうね」
そう言い、おばちゃんの家を後にした。
おばちゃんの話が本当であれば、黒いローブ姿のフードを深く被った男に間違いないだろう。
俺たちは市場に戻った。そして魚を買った人物を徹底的にマークして後をつけた。だが黒いフードの男は中々現れなかった。
だが、六人目の買いもの客の後を追っていた時のことだ。路地に入ると買い物客に黒いローブ姿の男が接近していたのだ。
「おばちやんその男から離れて」
「なんだい、魚をおいしくしてもらっていたところだよ」
「その通りほら、いい香りがしてきたでしょ」
「本当だわ。いい香りがしてきましたわ」
「おばちゃん、明日にはその魚は腐ってしまうよ」
「えぇ、何ですって」
「最近頻発している魚を腐らせていた犯人は、お前だ。黒いローブの男」
俺には見覚えがある姿だった。黒いローブに深く被った男に。
「そして観念するんだな。クリストフ」
「おや、俺のことを覚えてくれていたのかい。うれしいね勇者さん」
クリストフはフードを深々とかぶり直すと、口元をにやつかせながらそう言った。
「なぜこん真似をするんだ」
「そんなの決まっているだろうが、王様の命を受けてのことだ!」
先制攻撃を仕掛けてきたのは、クリストフからだ。
赤い魔法陣を展開すると、大きな炎に包まれた槍が出現した
「
クリストフの力ある言葉と共に、炎の槍はこちらに飛んでくる。
こちらも負けていない。ティミィは青い魔法陣を展開すると、
「
俺たちの前に水の壁を作り炎の槍を相殺した。
間髪入れずに次に動いたのはティナだ。すでに蒼白い魔法陣を展開しており、
「
力ある言葉と共に氷でクリストフの足元を凍らせた。
「くそ!」
「観念するのです。悪い魔法使いさん」
刹那。大きな槍をもった大男が、クリストフ目指して屋根から降下してきた。
大男が着地するとともに、クリストフの足かせになっていた氷が砕け散った。
「ばかやってねーで、ずらかるぞ」
空から降りてきたこの男は、ドンザレスだ。
俺はすぐに間合いを取った。奴の槍の方がリーチが長いからだ。
その時こちらも援軍が到着した。
「リコスさんこの騒ぎは何ですか?」
自警団長のダニエルさんだ。
「気を付けてください。奴らは魔法だけでなく、槍の使い手です」
だが、彼らは戦闘を継続せずに、すでに逃げる体制をとっていた。
煙幕玉を数発こちらに投げ込むと、我々の視界を完全に奪われた。
「大丈夫か、ティミィ! ティナ!」
「大丈夫だけど、けむいよー」
「ゴホゴホ、この煙いつまで出で来るのよ」
煙は一分程度で消えた。それにクリストフとドンザレスもそこには居なかった。
王の命令で動いているとなると、厄介だな。
あの肉塊のことだからセコイ攻撃で、こちらをかく乱させる気だろう。
はぁ、せっかくうまくいきかけていたのに、めんどいことが一つ増えた夕暮れの出来事だった。
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