第三章
第17話 街おこしをしようか。とさ
「美術館を開くですって!」
ここは王宮の執務室。フリソスのデスクを中心に、みんなには俺の資料に目を通してもらっている。
資料を見て最初に異議を唱えたのは意外とリーファであった。
「そう、この国には観光名所はないと言っていい。そこで、箱物にはなるが、美術館を作って、みんなに来てもらうのさ」
「拝観料だけで儲かると思っているの?」
リーファさんは半信半疑であった。
「それだけじゃない。観光業は手っ取り早く稼ぐのには丁度いいんだ。旅行者が来れば宿泊しなければならず、宿屋にお金が落ちる。お腹が空けば食堂や酒場にお金が落ちる。移動手段が徒歩でなく乗合馬車になれば、運賃が取れる」
「要するに、街全体が潤うんだな」
「その通り、もちろん名物料理の開発も必要だし、土産になるものも作る必要があるが、街のみんながお金に潤えば、飢えることもなくなる」
「いいじゃんかそれ。あたいはいいぜ」
フリソスは二つ返事で許可を出した。
「ちよっと無責任に、人間は絵画なんてみんな見たいの?」
「時価数十億リッキーになる絵画や美術品たちだ、みんな観に来るさ」
「ふーんならいいけど、建築費はどうするのよ」
「それも用意済みだ。王宮の不用品を処分した金で建築するよ。それでも有り余る」
「まぁ、リーファの言いたいこともわかる。だがやり方次第だな。街のみんなにも協力してもらわないと」
「実はフリソスがオーケーしてくれると信じて、もう先に動いていいるんだ」
「なら決まりだな。観光業に関してはリコス中心で動いてもらうことにする」
以上、解散となった。
大それたことをするのに、早々に切り上げたのには訳がある。国家元首であるフリソスは書類の山に苦戦していた。付き合いの長いリーファと一緒に片付けてはいるが、次から次に書類が増えていった。事件は執務室で起きているのだ。
俺は俺にしかできないことをする。まずは街のことに関しては自営団のダニエルさんを中心に動いてもらうことにした。
彼は街中に顔が利く、宿屋や食堂、酒場に名物料理の開発を頼んでもらえるそうだ。
美術館の建築には以前、王宮の門を修理してくれた親方に頼むことにした。職人たちは仕事がなくて、仕事に飢えていたそうだ。
建築場所は街の負の遺産であった、公開処刑場跡地にすることにした。
もう使われることのない広場を真新しい美術館に生まれ変わらせることで、街の空気を換えたかった。
だが最後の人をどう集めるかが解決していない問題があった。フリソスには黙っていたが、いくら箱を用意しても広告宣伝しなければ、周知することはできない。各国を回って巡業するにしても経費をこれ以上投資するわけにもいかず、頭打ちの状態だ。
ロワーフ族に頼むことも可能だが、金を必ずとられるしな。
結局は金だ。世の中を渡るためには、お金が必要なわけ。
もはや動くに動けず、建築現場をのんびり見学しているだけの俺。情けない。
「リコス順調に進んでいるようだな」
「フリソス、こんな現場まで足を運んでいる時間なんてないだろう」
建築現場を視察しに来たフリソスは満足そうだ。
ただ俺の顔が浮かない。その様子に気づき声を掛けに来てくれた。
「何か問題でも起きたのか?」
「いや順調に進んでいるよ。建築も順調だし、自警団のダニエルさんのおかげで、名物料理や宿屋の客室の改修も進んだし、お土産品もそろいつつある……」
「……人をどう集めるかだろ」
「なんだバレてたか。その通り、あとはどのようにして人を迎えるかが問題だ」
箱物を作れば人が来るなんて、そう簡単ではない。しかもここは辺境の小国だ。
少し前まで、処刑の国やら、貧困に苦しんでいる国と汚名がはびこってた。そんな国に人が観光に訪れるだろうか。
「ならさ、あたいの力を使いなよ」
「えっ!?」
「こう見えても二〇〇年も放浪してたんだぜ。人間の国王だって貴族にも知り合いぐらいいるさ」
「だが、書類の束はどうするんだよ。投げ出して回るわけにはいかんだろう」
「お前はよくやってくれている。ただ、一人で頑張るんじゃなくてさ、あたい達ももっと使いなよ。国家元首が遊んでるなって言ったのは、リコスだぜ」
俺は国家元首として頑張っているフリソスに、今回の件で迷惑を掛けないようにとしてた。
一人で回していようとしていたことが恥ずかしい。俺達は仲間なんだ。
仲間を信じれなくてどうするんだ。
「最後の大仕事を任されてはくれないか?」
「いいぜ。お前のためならな」
起伏の良さは、さすがは元魔王様だけのことはある。
過去にはとんでもない部下もいただろうに、それでも彼女なら笑顔で笑って許していたに違いない。だから魔王業を廃業しても、人々は彼女を受け入れてきたのだろう。
「簡単なことだ。とりあえず国王やら貴族にちょいと書簡を出すだけさ」
「そう簡単に来るかな。お偉い方なんだろ」
「全員は無理だろうけど、あたいに恩がある奴らは来るさ。それに本人が来なくてもいいのさ。
使いの者が来るだけで十分宣伝にはなるだろう」
「確かに……良いところだと広まれば、そのほかの人々も自ずと動き出すだろうな」
「めんどくさい書類は一旦リーファに任せて、手紙を書くか」
フリソスは、腕を左右に振りながらストレッチを始めた。
「ありがとう」
「感謝されるのは人が来てからだ。本当に来るかわからんしな」
そんなことをよそに、建築現場を遠くからしかめっ面で眺めている黒いローブ姿の人物がいたのに、俺は気づかないでいた。覗いていたのはクリストフだ。
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