第二章
第6話 魔王とお茶会をした。とさ
中庭の一角にテーブルが用意されており、二人分のティーセットが用意されていた。三段式のトレーには、上段と中段にケーキやスコーン、一番下の段にサンドイッチが豪華に盛られていた。
「不思議で仕方ない様子だなリコス」
「腑に落ちん。リリィは魔王の仲間だったのか?」
「どちら側にもリコスは
「嵌められていた?」
「そう肉塊の国王からは、捨て玉として放り込まれてたわけで、私は仲間になりそうな人をリリィを使って探していたんだ」
「仲間になれる人物を?」
いまだに魔王が何を言っているのはわからないし、国王から騙されていたことはドンザレスとクリストフの行動からよくわかる。
魔王はティーセットが準備されている椅子に腰かけると、ココルはそっとひざ掛けをかけていた。
リリィはもう片方の椅子を引き笑顔で、俺を座るように促した。
突っ立ってるのも不自然だし、さっきの 戦闘でのども乾いたことだし、アフタヌーンティをご相伴にあずかることにする。
「つまりだね。国王はリコスを使って私の特徴や技の研究用に差し出された駒ってこと」
「それはずいぶん前から察しがついていた、リリィの助言によってね。わからないのは、魔王が仲間を探していたってことだ」
「ところでリコスよ。私のことを魔王って呼ぶのはやめないか。仲間になったわけだしさ」
「誰が、何時、どこで、仲間になるといった!」
「あっれーおかしいなぁ。戦いに負けた願いを聞いてくれるんじゃなかったったけー」
「「ご主人様のおっしゃる通りでございます」」
リリィとココルの二人は、声を重ねて言う。声を重ねるぐらいよく手なずけられていることだ。
「確かに戦闘前に言ったが、仲間になるとは言ってない」
「願い事は……どうでしたっけ?」
「あぁ、そーだよ。願い事は一つかなえるんたよな。いいさ、俺も行く当てもない身だしな。魔王の仲間になってやるよ」
「よしいい子だ……が、さっきも言ったけど魔王というのはやめないか」
「なぜだ。魔王には変わりないだろう」
「だってさ。二〇〇年前に廃業しちゃったしさ。いまだに魔王を名乗るのも変じゃない」
「確かにそれも一理ある。なら俺もリリィみたいにご主人様と呼べばいいのか」
「ぷっははははは」
「俺、そんなにおかしなこと言ったかな?」
「またしても悪い悪い、メイドや執事じゃあるまいし、ご主人様はないだろうって」
「だって魔王の配下になるわけだろ、そうしたらご主人様とか旦那様とかのほうがよさそうじゃんか」
「私は仲間を求めているのであって、配下はいらないのさ。だから、フリソス・スコタディ・ライゼン、フリソスと呼んでほしい」
「それって、万国放浪記を書いたときのペンネームじゃないのか」
「本名だ。本を書くときにペンネームを使うとかは知らなくて、出版社にそのまま伝えてしまったんだ」
「マジか」
「一〇〇年前に書いたものだから、もう今さらだけどね」
ぶっちゃけてすごい人なんだか、ボケているのかもうわからなくなってきた。
「ところで話を戻すが、こんな傭兵上がりの俺なんかに頼み事ってなんですか? フリソスさんの役に立てるとは思えませんが」
「呼び捨てで構わんよリコス。単純な話だよ。一緒に国を作ろう」
「はいっ!? なんていいましたか」
「だからこのベルデルグ王国を私達の国として、国家運営をしようって話だ」
あぁ、あれだ。隠居してから二〇〇年経って、暇を持て余して、思いついたのが国家乗っ取り……頭痛くなってきた。俺は
「人間が住まう国の国家運営を元魔王が行うとか前代未聞ですよね」
「誰もやったことないし、試してみてもいいかなぁとか思ってさ」
「試すにしても規模がデカいでしょうが」
その時、街人が複数人やってきた。
魔王はすぐに立ち上がり、街人に寄り添うように向かっていった。
「魔王様、こちらにおいででしたか。うちの畑でとれた作物です。よかったら食べてください」
「うちの豚も本日解体をしたので、いい部分をお持ちしましたよ」
「私は狩りに出かけたのですが、今回は収穫がなかったのですが、状態のいいキノコが手に入りましたのでこちらをご賞味ください。味は保証しますよ」
各々魔王への貢物を手にして集まってきた。
なぜこうもして、魔王が慕われているのかさっぱりわからない。
街人は嫌々献上していることはなさそうだ。皆笑顔で献上をしている。
「リコス様、なぜご主人様は慕われているとお思いですか」
「それは魔王だから……」
「いいえ、この国を救ってくださったからです」
「国を救った?」
「はい。こちらの国の民は昔は大した産業もない中でも国王の力で豊かで、裕福に暮らしておりました。しかし、国王が変わったとたん暴挙にでたのです」
「良くある話だな。権力がないものが突然権力を持ち始めたらそれをいいいことに、散々やらかしたんだな」
「はいそうでございます。王に従わないものは処刑され続けておりました。それがこの中庭でございます」
錆びついた処刑道具はすべて国王のものだったのか。魔王の趣味かと思った俺は恥ずかしい。
「何百、いえ何千との命が、ここで処刑されていったのです」
「そこに現れたのがご主人様です。よいしょっと」
ココルは街人からの貢物を籠に入れて屋敷に運び入れてている途中だった。
「この作物だって、戦争で使い物にならなくなった田畑を開墾し、やっとできた作物なのです。民は飢えております。それでもご主人様への感謝としていただいているのです」
「リコス様、ご主人様と一緒にこの国を運営してはくれませか」
フリソスはこちらに振り向くと、俺にこっちにこいと手招きをしている。
仕方あるまい。行くしかないらしい。
「皆の衆、新しい仲間を紹介する。リコスだ。この国を発展させるためにやってきた男だ。大いに期待してくれ」
「おっおおお、これは頼もしい。ぜひともこの国を復活させてくださいまし」
「どこまで力になれるかわからないけど、頑張らさせていただきます」
俺は頭を下げて挨拶をする。
聴衆は歓喜の声を上げて歓迎をする。
「これだけみんなが期待しているんだから、頑張って働くんだぞ勇者リコス!」
「なんだか俺だけ働くわけないですよね。フリソスもやるんですよね」
「私も忙しいからね、どうしようかなぁ」
「人を巻き込んでおいて、それはないでしょう!」
俺の魔王討伐は失敗に終わったが、国を再建するという新しいミッションが今から始まる。
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