第4話 勇者は魔王様とお食事会だ。とさ

「まぁ、よかろう。ちょうど食事の時間なんだが、君たちもいかがかね」

「いいんじゃねぇか。腹が減っては戦はできないしな。リコス」

「それではお言葉に甘えて、いただきます」

「結構。ココル、あと四人分を用意できるかしら」

「かしこまりました、ご主人様。すぐに準備をいたします」

ココルはワゴンを押して、部屋を退出した。それを見送ると俺たちは席に着いた。

魔王の主賓席からみて右側に俺とリリィ、左側にドンザレスとクリストフが座った。

座るとすぐに魔王は口を開いた。

「ところでは元気にしているかね」

「えぇ、国の西側の山岳地帯に新たな都を作って、暮らしております」

「あきらめの悪いやつだね」

「風の便りで、より太ったと聞くが、さらに醜い姿になっておろう」

「雇われの私の口からはなんとも、ご想像にお任せします」

ドアがノックされ、扉が開いた。小さな体でココルは大きなワゴンを押して、一生懸命料理を運んでくれた。出来立ての熱々の料理がテーブルに並ぶ。さらに葡萄酒も配られた。

リリィは小声で『毒とか入ってないよね』と尋ねてきたが、『相手は魔王。殺す気になれば毒なんてまどろっこしい方法ではやらないさ。自分の手で下すよ』そう答えた。

「食事もそろったとこだし、乾杯といくか。リコスよ、何に乾杯する?」

「そうですね。この国の平穏と繁栄に」

「いいだろう。このベルデルグ王国の平穏と繁栄に、乾杯」

食事会が始まった。

前菜にスープ、ロールパンが並び、メインは子羊のロースト、アルベルべの実のシャーベットと一通りのランチコースを堪能した。

「すごくおいしい。この料理はすべてココルちゃんが作ったのかい?」

俺は興味津々にココルへ聞いた。

「はい。ご主人様のシェフは私一人なものですから、これぐらいの料理でしたらすぐにご用意できます」

「この葡萄酒も逸品ですな、すっかり気に入ってしまったよ」

「気に入ってくれたかね。それはあの肉塊が残していったものだ。葡萄酒はいい趣味をしているがな……」

──ドン。

突然魔王は机をたたいた。

「ただ、葡萄酒の趣味とは違い、その他の趣味は野蛮でな。民が泣いておった。だから追い出したまでだ」

最初は声を荒立ててはいたが、次第に冷静さを取り戻していった。

「国王によって民が泣いていたとは?」

「この国は、先代の国王までは豊かであった。大した産業もなく、観光名所もなかったが、民は飢えることなく収穫期には大量の作物を実らせて、他国へ売却できるほど実り豊かな土地であった」

魔王は淡々と語る。

「だが世代は変わり今の肉塊に変わった時から、政策を変えてしまい。作物は徐々に実りを減らしていった。さらに収穫が減った分、重い重税を科せたのだ。それに耐えられられぬ民は去っていき、逃げることができぬ民は飢えていった」

溶けかけのアルベルべの実のシャーベットを残しても、語りは終わらない。

「私のことは知っての通り、二〇〇年前に魔王業は廃業した。神々との無駄な殺戮合戦に飽き飽きしていてな。そのあと私は旅に出た。世界を知りたかったのだ。戦闘の遠征で各地を回ることもあったが、観光なんて呑気なことはできなかったものでな」

「俺も知ってますよ。廃業をした後で世界中を巡り巡って、万国放浪記を書いたんですよね。俺も読んで旅に出たくなったのを思い出だしますよ。そうこうしているうちに今はこのパーティーに入ったわけだが……」

俺は思い出話に目をキラキラさせて語りだした。魔王はにっこりして、うんうんと頷いた。

「昔話はその辺にして、さてと食事も終わったことだし、我々の目的を果たさせてもらおうか」

ドンザレスとクリストフは、席を立ち後ろの中庭への扉を開けた。

「どうしても、やりたいのかね」

「私達は食事をしに来たわけではありません。ここの国王から命じられてあなたを倒すために来たのですから」

「いいだろう。中庭に出るといい」

中庭に出ると、そこは血なまぐさい空間になっていた。

あちらこちらに錆びついた拷問器具や処刑道具が散乱している。

なんて悪趣味な中庭だ。魔王の趣味か。にてしてはこんなに錆びついていたら使い物にならないだろうに。

「けっ、どれもこれも錆びついてやがる。使い物にならんな」

「そこで殺された者たちの魂が、拷問器具やらを錆びつかせているのさ。さてと何をして遊ぶ?」

「真剣でどうだ。首を打ち取ったほうが勝ちって言う、いたってシンプルなルールだ」

魔王は少し考えている。我々四人をどう料理するのか考えているのかもな。

「リコス、そなたの眼は今まで来た連中とは違うものを感じる。一つ頼まれごとをしてはもらえぬか」

「俺に!? 何をしてほしいのですか?」

「なっ! 待て待て待てリコス。魔王に耳傾けてるんじゃねぇよ」

ドンザレフは慌てて話に割って入った。

「そこの二人は討伐が失敗したら、すぐに帰って来いと言われているのよね。前回の討伐パーティーにも居たもんね」

ココルは料理を片付けながら、中庭のメンバーに聞こえるように言った。

「クリストフ、バレてるみたいだぞ」

「前回の討伐パーティーにも居た? どういうことだ」

俺は手を剣にかけ二人に問いただす。

「そこのお嬢ちゃんが言った通りだよ。俺達はリコスとリリィとは別の任を受けていてね」

「リコスの討伐が失敗したとき、国王様に報告するのが俺達の役目なんだよね」

「全滅するよりかはましだと思うけどさ」

リリィが感じたドンザレスとクリストフの負のエネルギーとはこのことなんだ。駄目だとわかったらそっと戦闘を抜け出して、国王に報告をする。

最初から分かっていたことだ。どうせ俺らは国王にとっては捨て駒に過ぎない。ならば

「頼みごとを聞こうじゃありませんか。ただし私は国王に雇われの身、勝負は勝負です。最後までやらせてもらいますよ」

こうして魔王との戦いが始まるのであった。

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