第3話 魔王様に謁見した。とさ
大通りには人っ子一人も歩いていない寂しい通りだ。魔王に乗っ取られる前は
それに俺は、この旅が始まった時から、ずっと解けない糸を手繰り寄せようと考えていた。
なぜ魔王はこんな小国を攻めたりしたのだろうか。もっと条件のいい国ならば、隣国にある大国を占拠すればいいのに。目立った産業もなく、観光名所すら少ない、こんな小国なんてもらってもお断りしたいぐらいなものだろう。
魔王は廃業をしてから二〇〇年もの間、放浪の旅に出ていると聞く。
その間は、人間だけでなく様々な種族とも仲良くしており、魔王が立ち寄った国々では、新しい産業が生まれたり、観光名所ができたりして、魔王が執筆したとされる『万国放浪記』は、世界中でベストセラーにもなっている。
そんな人間味あふれる魔王が、こんな小国を攻めるとなると、よっぽどのことがあったに違いないと、俺は勝手にそう感じている。
そうこう考えているうちに王宮へと到着した。
ここにも城壁の一部が破損し、戦闘の痕跡が残っている。
王宮内への扉も半分壊れかけていたため、簡単に侵入できた。
こちらの王宮内は今の王宮とは違い、たいそう広い作りになっていた。庭から建物内部へは結構な距離があり、ほとんどが庭なのだが手入れがされてなく、雑草が目立つ。
建物に到着したころは、昼を過ぎたあたりだった。
早速内部にそっと潜入をする。いつ魔王が現れてもおかしくない状態だ。全員に緊張が走る。
潜入をしたが魔王どころろ過ここも人気は全くなかった。だがそれ以上に内部では何やら良い香りだ漂っていた。匂いを辿るとキッチンと思わしき部屋に入ると、誰かが料理を作っているのだろう、大きな鍋からはグツグツと煮えたぎっている。匂いの元はこれだ。
「あら、お客様ですか?」
キッチンの出入口に居た俺達の背後から、何の気配もないのに小さな女の子が立っていた。
「ちょっとすみませんね」
そう言うと我々をの隙間を縫って、キッチンの内部へと進むと、さっきの大鍋をかき混ぜている。
背後に気配なんてみじんも感じなかった。俺はこの子も相当戦闘能力が高いと見た。
「あの、君はこの王宮でシェフをしてるのかな」
「ええそうですよ。ココルといいます。それからご主人様のお世話を少々。なのでとっても忙しいのです」
そういいながら、大鍋からスープをすくい出すと、スープ皿に丁寧に注いだ。
香草とチキンの風味が絶妙に絡まって、とてつもなくいい香りだ。
魔王はグルメだとも聞くか本当らしい。
「皆様、ご主人様に謁見されるんですよね?」
「あぁ、そんなところだ。どこにいらっしゃるか教えてくれないか」
「もちろんいいですよ。お食事をお運びしますので付いてきてください」
「ココルちゃん、助かるよ」
せっせと料理をワゴンに詰め込んでた。
小さな体で大きなワゴンを押しながら、長い廊下をひたすら歩いた。
するとある大きな扉の前で、ココルちゃんの足が止まった。
「ご主人様はこちらです。ただし注意してください。ご主人様はお食事を邪魔されるのがとてもお嫌いです。戦闘でしたらお食事が終わった後にしてくださいませんか?」
ココルは、すでに俺達が魔王討伐のパーティーだとわかっていての助言だった。それに部屋まですんなり通すとは、相当魔王は強いのだろう。
ココルは部屋をノックして、扉を開けた。
料理の乗ったワゴンを押して入っていく。我々もそれに続く。
室内は長いテーブルに燭台が乗っており、高級感あるダイニングである。一番奥の主賓席に一人の女性が座っていた。
ターゲットを確認し終えると、クリストフが動いた。
刹那。呪文詠唱はすべて終わっている。魔法使いのクリストフから、力ある言葉が放たれ、魔法陣がクリストフの足元に展開され、青白い光に包まれた……かに見えたが、シュンと魔法陣が消え去った。呪文はキャンセルさせられていたのだ。
「言ったではありませんか、ご主人様のお食事を邪魔しないって!」
「なっ……くっ……」
クリストフの攻撃呪文のキャンセルをしたのは、魔王ではなく小さな女の子のココルちゃんだった。
それを知ったクリストフは、焦りと冷や汗をかき、固まってしまった。
相当高度な攻撃呪文だった様子だ。それをあっさりとメイド見習のような小さい女の子に、キャンセルさせられてしまったのだから、言うまでもない。
ここはココルちゃんの言う通り下手に食事の邪魔をして怒らせるよりも、話し合いから始めたほうがよさそうだ。
「魔王様、とんだ失礼をいたしました。私はリコス・バンディと申します」
「…………」
魔王は先ほどの出来事に無関心だった。ココルちゃんは料理の乗ったワゴンから、テーブルへ料理をせっせと運んでいた。
まるで攻撃を受けてもノーダメージだからだろうか。だからあえて避けることも防ぐこともしない無関心なのだろうか。
ココルは魔王を守るよりも、作った料理がめちゃくちゃにさせないために、呪文をキャンセルしたのだろう。俺達は想像以上に力の差を見せつけられた。
これからそんな相手と戦わなくてはならないのか。つい手が震えてしまう。
「先手必勝……そんな言葉もあったな……だが、手を出してきた奴から謝罪を受けたのは初めてだ」
魔王はワイングラスを傾け、初めて言葉を発した。
「本当に申し訳ございません。お食事の邪魔をするつもりは毛頭ありませんでした。彼がしたことをお許しいただけませんでしょうか」
俺は心から魔王にお詫びをした。
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