第8話 【竜狩りの旅団】団長・ベンジャミンの手紙、他

★  ★  ★  To Isabelle From Benjamin  ★  ★  ★




『イザベルへ




 手紙なんて書いたことがないから、俺が話した内容を代筆させている。


 お前がこの手紙を読む頃には、俺たちは町を離れているだろう。


 お前を冒険に誘ったのは俺たちなのに、黙って離れることは本当に申し訳なく思うが許してほしい。


 ウィル、ミゲル、ローラ、ジュリアはまだ年若い。


 レオナルドとエマは結婚したばかり。


 俺とイヴァも冒険者としてはロートルに近づいているが、まだ若い後進たちの助けとなることはできる。







 頼む、


 







 お前が俺たちの命を狙っていることはわかっている。


 お前の『理想』が崇高なものだというのも、感情では理解できねぇが理屈では理解できたつもりだ。


 その上で重ねて願う。


 もう俺たちを狙うのは止めて欲しい。


 こちらの勝手な願いでお前を冒険に引っ張りだして、こちらの都合で逃げ出すことを許してほしい。


 せめてもの詫びとして、俺たち【竜狩りの旅団】の貯めた財産、そのほぼ全てをお前に譲る。研究費が欲しいと言っていたのを覚えているので、その足しにしてくれ。


 それと、お前の本性は誰にも話さない。約束する。ギルドの書類、記録に関してはこちらが責任を持って抹消する。


 だから、




 ……勝手な願いで申し訳ないが、もう一つだけお願いしたいことがある。聞けたら聞いて欲しい。


 


 お前の『理想』は確かに素晴らしいと思う。


 だが、そのために人を犠牲にするのはやはり間違っていると俺たちは思う。


 


 だからお願いだ。これ以上冒険者を――




 思い返せば、お前の技術には随分と助けられた。


 高位神官の癒しの奇跡でも治せないような大怪我を、お前は最低限の奇跡だけで治療していたな。


 千切れた指を針と糸でつなぎ合わせて傷口を癒しの奇跡で塞ぐ――そんなことができるのはお前くらいだろう。


 だが、その治療も――きっと犠牲者がいたからこそ実現できたものなのだろう?


 お前のやろうとしていることは、おそらく100年、200年経った先で役に立つものなのだろう。


 それでも、だからと言って生きている人間の身体を斬り裂いて中身を調べて、その知識で他の人を救うというやり方には賛同できない。




 すまない。勝手なことを言った。幾つものお願いをするのは筋違いだとわかっている。




 最後にこれだけは言わせてくれ。


 たとえ寝ている最中であっても、俺たちにお前を殺すことは出来ない。


 けれど、もしお前が本気でこの後も俺たちへと関わってくるのであれば――何人かの犠牲は出てしまう、あるいは全滅するかもしれないが、お前に研究がしばらくできないくらいの傷を負わせることはできるだろう。俺たちは死に物狂いで抵抗する。


 ……そうならないことを願う。




 ――ベンジャミンより







★  ★  ★  Information : Brigade of Dragon Hunters  ★  ★  ★




■【竜狩りの旅団】

・冒険者ランク:S

・構成員:

 団長 "竜狩り"ベンジャミン

 副団長 イヴァ

 団員 レオナルド

    エマ

    ウィリアム

    ミゲル

    ローラ

    ジュリア

    ■■■■ (塗りつぶされていて読めない)




■Sランクに昇格した経緯、および名の由来について

・アルガイアー共通暦371年、大陸東部において存在が確認された竜種討伐により、Sランク昇格となった。

 パーティー名もその功績により、現在の【竜狩りの旅団】と変更された。

・当時30名の大規模パーティーであったが、竜種との戦いにより半数近くが死亡。他に多くの負傷者を出したものの、竜種討伐には成功。

・現在は上記9名 (注1)での活動を行っている。




■備考

・竜種討伐には他パーティーも参加。

 大陸東部の国家連合による依頼であり、参加したパーティー及び負傷者、死亡者本人及び家族への手当は、東部国家連合より支給。

・竜種による竜の祝福ドラゴンブレス(注2)の影響はなし。

・竜種討伐後にメンバーの入れ替えもあったが、活動実績により継続してSランクとなっている。




注1:資料作成時点で9名であったが、のちに1名がパーティーから除名されている。除名された者の名は公文書には残されておらず、また【旅団】関係者からも聴取できておらず不明。除名済みのため以降の調査は不要と判断する。

注2:竜種による周辺生物の眷属化行動。





■ (手書きの付箋が数枚貼られている。いずれ正式な書類へと書き足されるであろう)

・375年4月22日、冒険者ギルドからの依頼で『はぐれ魔族』及び使役する魔獣の討伐依頼を請け負う。

・375年5月10日、同依頼において補給のためアルカドの町に立ち寄る。

・375年6月2日、再度アルカドの町にて補給に立ち寄ったのを最後に消息を絶つ。

・375年6月6日、はぐれ魔族の住処にてメンバーのものと思われる遺体を発見。原型を留めぬほど損壊しているため詳細は不明だが、全滅したものと思われる。

・375年6月8日、はぐれ魔族の住処から回収した人間の遺体を検分。

・375年6月12日、全ての遺体の検分を完了。はぐれ魔族との戦いにより全滅したものと思われる。残されていた衣服、所持品等から【竜狩りの旅団】メンバーと断定。

 なお、依頼のはぐれ魔族の死体も多数発見。生き残りがいるかは不明のため、冒険者ギルドへと追加の依頼を発注すること。

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