第6話 "役立たず"改め"最強付与術師"デュー

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 禍福は糾える縄の如し――幸福と不幸は交互にやってくる、という意味だったっけ。

 正にその通りだな、と僕は実感していた。




 僕がリチャード王子のパーティーから追放されてから、もう3年くらい経つ。

 思えば僕の人生、そこまではずっと不幸続きだった。

 シンディア王国の地方貴族の三男として生まれた……というのが人生で最初の幸運だったが、以降はずっと不幸続きだ。

 容姿は並 (だと自分では思ってる……)、運動能力も並、魔術の腕も並、頭の出来も並……。

 長兄と次兄が優れた容姿と能力、頭脳を持っていただけに、『並』の自分はミソッカス扱いだった。全く教育を受けさせてもらえないというわけではなかったけど、父親も母親も僕には何の期待もしていなかっただろうと思う。




 次に幸運が巡って来たと思ったのは、僕がリチャード王子の供として選ばれたことだ――とその時は思っていた。

 唯一得意と言えた付与魔術エンハンスの力を見込まれて、レイモンド王子直々に命じられたのだ。

 兄たちがいるし、どうせ僕が家を継ぐことはない。

 だったら、リチャード王子と共に旅をして『冒険者』として名を挙げる。それしか僕の生きる道はない。

 これは人生最大のチャンスなんだ。

 ……そう思っていたんだけど……。




 幸運が巡って来たと思っていたけど、結局は不幸が続いていただけだった。

 僕のエンハンスが大したことがないとリチャード王子にはバカにされ、怒鳴られ、『役立たず』と罵られる日々が続いていった。

 主な役割は『荷物持ち』。そして戦闘があれば申し訳程度のエンハンスでリチャード王子を支援する……。

 辛いとは思ったけど、家に戻っても仕方がない――それどころか役目から逃げ出した、と追及されかねない――から我慢するしかなかった。




 そんな辛い旅の癒しは、『奇跡の聖女』フィオナ様と『茨の大魔女』マゼンタ様だった。

 ……僕なんかに見向きもしないだろう高嶺の花だというのはわかっていたけど、美しい二人を見るだけで心が沸き立つものだった。




 不幸のどん底だったのは、リチャード王子のパーティーから追放された時だ。

 リチャード王子が僕のことを『役立たず』だと常々言っていたし、僕自身もずっとそう思っていたから追い出されるのは仕方のないことだと思っていた。

 少しショックだったのは、フィオナ様とマゼンタ様も同じ意見だったことかな……リチャード王子の意見に反対できなかっただけだと思うんだけど……。

 とにかく、僕は反論の余地もなしに追放されたのだった。




 ――悔しい。見返したい。

 それが、僕の原動力となった。

 確かに当時、僕は自分が力不足だと思っていたしそう言われ続けてきた。

 『洗脳』に近いものかもしれない。今にして思えばだけど。

 フィオナ様とマゼンタ様はともかく、リチャード王子は聖剣が使える以外に秀でた点はなかった。

 

 次第に僕を追い出したことへの『怒り』が湧いてきた。

 僕を追い出したリチャード王子を見返す。

 『冒険者』として名を上げ、リチャード王子よりも有名になる。

 それが僕の目的となるのにそう時間はかからなかった。




 でも、リチャード王子たちを見返すことは永遠にできなくなってしまった。

 僕が追放されてから数か月――半年は経ってなかったはずだ――後、リチャード王子たちが死んだという報せがシンディア王国から知らされた。

 『聖剣の勇者』とその仲間たちの葬儀は国葬として行われたらしい。

 らしい、というのは、その時には僕はシンディア王国から別の国へと移動していて詳しい話を聞いていないからだ。

 後から聞いて本当に驚いた――そして自分の人生の目的を一つ失ってしまった、と肩を落としたものだ。




 自分を見下していた相手を見返す、という目的は永遠に達成できなくなってしまったけど、だからと言って何もしないわけにはいかない。

 僕は別に死ぬ気はないのだから。働いてお金を稼いで生活しなきゃならないのだ。

 だから『冒険者』は続ける――家には戻れないし――そして僕にできるのはエンハンスだけだ。

 ならばやるべきことは、エンハンスを徹底的に鍛えることだけだろう。

 リチャードみたいに物事が理解できないバカは別として、エンハンスの価値がわかる人はきっといるはずなんだから。

 自分の価値を正しく理解してくれる人と共に成り上がる。僕の新たな目的は決まった。




 そこから約3年――もうリチャードたちの顔も思い出せないくらい、彼らに興味はもうない。怒りも消え、むしろ『僕が一緒にいれば死なさずに済んだ』という思いさえあるくらいだ。

 救えなかった命のためにも、僕はエンハンスをより研ぎ澄ませなければならない。

 そして今、僕は『幸福』の絶頂にいることを確信している。




 追放からしばらくの間は、様々なパーティーを渡り歩いてお金を稼ぎつつ修行を積み重ねていった。

 1年後くらいから徐々にメンバーが集まり、今のパーティーが完成していったという感じかな。


「デュー君、まだお勉強してるの?」

「あ、うん」


 今僕がいるのは、僕が買った家の一室だ。

 今のパーティーは最高だった。かつてのリチャードたちと組んでた時よりも遥かに速くAランク冒険者へと昇格、Sランクも目前というところまで来ていた。

 冒険者のランクが上がればそれだけ難度は高いが報酬の高い依頼が舞い込んでくる。

 それらを全て解決したため、僕は今や大金持ち……とまでは言えないけど、実家の貴族家並に資産がある。

 そんな資産を使ってとある町に『冒険の拠点』として購入した家である。

 同居しているのはパーティーメンバーたちだ。




 『ゴーレム使い』のマキナ――大小様々な『ゴーレム』を造り、あるいは操作して戦うだけでなく、手先の器用さを生かして様々な普段使いの道具とかも作れる万能型の冒険者。

 魔狼フェンリルの獣人であるメア――人間同等の知能や技術と、魔狼の身体能力や感覚を備えた戦士。あらゆる武器を使いこなす上に魔術さえも使いこなすという、これまた万能型の冒険者。

 そしてもう一人、今僕の部屋に入って来た少女――


「真面目だねー。えらいえらい♪」


 にっこりと微笑み僕の頭を撫でて揶揄ってくる。

 ……が嫌な気分ではない。

 彼女も、今この場にいないマキナもメアも――僕の能力を正当に評価してくれているし、『僕個人』を認めてくれているのがわかっている。

 それに――彼女は僕の恋人なのだ。

 だからこういう『おふざけ』も日常茶飯事だ。




 困ったことに、恋人である彼女は当然のこととして、マキナ、メアも僕のことを好きだと言っている。

 同じパーティー内での色恋沙汰はトラブルを生むだけだ、とどこかで聞いたことがあったけど……彼女たち三人の仲は少なくとも僕が見えている範囲では良好だと思う。

 ……嫌だなぁ、僕の知らないところでバチバチやり合ってるとしたら……。




 それはともかくとして、だ。

 久しぶりに3年前からのことを思い出していたわけだけど、今僕はエンハンスを更なる高みへと至らせるための『勉強』をしている。

 彼女のアドバイスを受けて、『人体を正確に知る』ことでより効率的・効果的なエンハンスをやろうとしている最中だ。

 一時期は頭で考えすぎてしまうせいで逆に効果が落ちてしまったのだが、次第に効果は上がっていった。

 自分自身の身体や、メアたちのように人間であれば、今の僕ならば3割ではなく5割ほど元の身体能力からデメリットなしに強化することができる。

 幸いなことに、彼女は『治癒術師』であり、しかも魔術――いや『奇跡』に頼らずとも薬や道具を使っての治療さえも行えるという『医者』という特殊な職業ジョブだった。

 彼女の持つ知識や資料を元に、僕は勉強をしている最中だというわけだ。家を購入したのも、こうした資料を保管する場所が欲しいからというのもある。

 もちろん、本業は『冒険者』なのでゆっくりと勉強できるのは依頼を受けてない間だけど。




 僕は頭を撫でる彼女の手を掴むと引き寄せ、きつく抱きしめる。


「デュー君……もう、エッチ」

「へ、へへ……」


 まだ抱きしめただけだけど、これから僕が何をするつもりなのか、何を求めているのか彼女にもわかっているのだろう。

 でも拒否はされない。むしろ、彼女の方も僕のことを抱きしめ返してくる。







 ――ああ、僕は今『幸せ』だ。

 リチャードのバカに追い出された時はどん底だったけど、そのおかげで今の幸福があるのだ。

 。心の底からそう思う――

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