一の贖罪 記者の男
男「今日もスクープないな…また上司に怒られる…」
男は週刊誌の記者である。
男「また誰かが不倫でもしてくれたら楽なんだけど…」
男は週刊誌のいわゆる暴露記事担当。俳優やタレントの不倫であったり、パワハラなどのスキャンダルを記事にする。彼の記事は一般人にウケがよく、早く次をとなるため、多忙な毎日を送っている。
男「でも、家に帰れば妻が待っている…あと少し、頑張るか。」
男が俳優の尾行を続けていると…
バサッ
男の頭に布袋が被せられる。
男「離せ!やめろ!俺が何を…」
男は抵抗し、犯人に肘をお見舞いしたが…それもむなしく、男は意識を失ってしまった。
男は数時間ほどを意識を失っていた…
男「いっつつつ…何が…起こったんだ?」
男が目を覚ますと…そこはまるで深海のように暗く淀んでいて、ゴポゴポと何かの音がし、錆びた鉄のような臭いがする場所だった。
男「地面がびちゃびちゃ…いやこれ…まさか…」
ブツッ…ブー…
部屋に一つの灯りが灯る。
男「これは…ビデオか?」
視線の先にはテレビがあり、ビデオが流されている。
「やぁやぁ…君のことを'死ぬほど'待っていたよ…なにも怯えなくていい。君が罪を償えばいいだけの話だ。何の罪かって?君が犯した最大の罪。君も、私も、わかっていることだ。己の罪を…自覚しろ。」
男「俺の…罪?頼む…'あの'ことだけはやめてくれ…もう…十分罪を償った…思い出したくもない!」
そう言い終わるとテレビは消えて、部屋の電気がつく。
男「ひ…ひぃ!!なんなんだ…これ…!」
部屋は血で染まっていて、あちこちに人骨が置かれていた。
男「嫌だ…向き合いたくない…'あの'ことだけは!」
男はパニックになってしまい、体が震えてしばらく動けなかった。
一時間ほどして、少し落ち着いてきただろうか?男は探索を試みる。
しかし…
男「なんだ?足枷…?これじゃなにもできな…い…」
足枷に気づいた数秒後、男はあるものを見つけた。
男はまたパニックになる。
男「じ…自分の足をってことかよ!?そんなの無理だ…!嫌だ…!嫌だ…!」
視線の先には、錆びた刃物が置かれていた。
そう、自分の足を犠牲にしてこの部屋から出ろ。というメッセージだと男は受け取った。
男「冗談じゃない!なにか…他のものは…」
他のものを探していると、これ見よがしに針金が置かれていることに気づいた。
男「これなら…鍵をはずせる…!」
男にはピッキングの技術があった。
男の中で、ある記憶が蘇る。
男「よし、開いたぞ。今から始める…強盗スタートだ!」
「おう!任せとけ!」
他の二人組と共に、宝石や金品を盗む。男は元強盗犯だった。
今は足を洗ったものの、犯した罪にかわりはない。
男「これも…自分の罪を自覚しろってことかよ…クソッタレ!」
男は泣きだす。自身の罪を思い返したのだろうか…
男「ごめん…ごめんよ…本当にすまない…アンナ!」
アンナとは彼の妻。彼の犯した罪と深い関係にある人物だ。
しばらく泣き叫んだ後、男は決意する。
男「必ず、生きて帰る…!アンナに伝えないといけないんだ…俺の犯した罪を…!」
男は錆びた刃物を握りながら部屋を出て、先へと進む。
次の部屋はガラスの破片が散らばっていて、部屋の中央に箱が置いてあった。
男「痛ぇ…足にガラスが…」
歩みを進める男の足に、ガラスが食い込む。
激痛に耐えながらも中央にたどり着き、箱を開ける…
男「これは…何でこんなところに…!?」
箱の中には、一つのぬいぐるみがあった。
男はぬいぐるみを抱いて泣き叫ぶ。
男「アンナ…アンナ…すまなかった!全て俺が悪いんだ…君はなにも悪くないのに…!」
記憶の中で、アンナが笑っている。
アンナ「見て!このぬいぐるみ…私が赤ちゃんのときに使ってたやつなんだよ!私たちの子が産まれてきたら…これをあげたい。うふふ…どう思う?」
男「すごくいいと思う!きっとお腹の子も喜ぶぞ…」
アンナのお腹を撫でながら、男は言う。
場面はかわり、病院でアンナが泣いている。
アンナ「ごめんなさい…私のせいで…私たちの子供が…!」
男「アンナはなにも悪くない…俺が…一緒にいなかった俺が悪いんだ…!」
記憶は薄れていき、現実に引き戻される。
男「俺は…俺の罪を償わないといけない…待っててくれ。」
男は再度、部屋を見回す。そこには一つの焼却炉があり、メッセージもついていた。
「記憶を燃やせ」
男「これを…燃やすのか…」
手に持っているぬいぐるみを焼却炉に入れ、スイッチを押す。
燃えていく思い出を呆然と眺めている。
焼却が終わり、扉を開けると鍵があった。
おそらくぬいぐるみの中に入れられていたのだろう。
その鍵をとり、部屋にあったもう一つの扉を開ける。
その先にはまたテレビが置かれており、ビデオが流れる。
「このビデオを見ているならば、君は足を失わなかったということだろう。
次はお前と、お前の仲間たちの贖罪だ。己の罪を…自覚しろ。」
男「仲間…?もしや…!」
急いで次の部屋へ進むと、誰かの声がする。
「誰か!助けてくれ!胸にナイフが…」
男「ウィリー!?大丈夫か!?」
男は声の主に心当たりがあった。
ウィリーとは強盗仲間で、よく一緒にサツに追いかけられたものだ。
ウィリーと思わしき人物の元へ駆け寄る。手足を拘束され、動けない状態にあった。
男「ウィリー!なんでここにいる?」
ウィリー「そんなのわかんねぇよ!さっきビデオが流れて…お前が鉄板の上の鍵を取れば逃げられるとかなんとかって…」
視線の先には鉄板と、鉄板に囲まれた鍵が置かれていた。
ウィリー「あれをとってくれ!頼む、俺たち仲間だろ!?」
男はすぐに動くことができなかった。もしあの鉄板に触れて手が使いものにならなくなったら、アンナとの生活はどうする?抱きしめるとき、手が使えなかったら…と。
ウィリー「早くしろ!ナイフがこっちに来てるんだよ…!」
男「あ…ああ、急いで取るよ!」
迷いがありながらも、男は鉄板に囲まれた鍵へと手を伸ばす。
ジュッ
男の手が鉄板に触れる。
男「っっっっ!!」
声にならない悲鳴をあげ、男は座り込む。
触れた部分は皮膚がただれ、皮が剥けている。
ウィリー「くそ野郎!最高のチームだったろ!?お前が開けて、俺たちが盗んで…完璧だった!お前が辞めるなんて言わなきゃ…」
男「頼むから黙ってくれ…!俺は…もう罪を背負いたくない…!」
男が叫ぶ。
ウィリー「頼むから…助けてくれ…家族が…い…がぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
耳をつんざくような悲鳴に男は耳を塞ぎ、地面にうずくまる。
男「すまない…ウィリー…でも…俺には…アンナが…」
耳にこびりついた悲鳴を忘れようとしながら、千鳥足で次の部屋へと進む。
そこには誰かがおり、泣き声が聞こえてくる。
?「ごめんなさい…もう許してください…」
男「その声は…アルバートか!?」
?「え…?」
声の元へ向かうと、床に貼り付けにされた人物がいた。
男「アルバート、大丈夫か?テレビかなんか見なかった…」
アルバート「わからない…でも…ギロチンが…」
アルバートの手首は装置で固定されていて、逃げられないようになっている。
すると…テレビがつき、ビデオが流れ始める。
「…お前たちは罪を犯した。一つの小さな命を亡きものにした。単純なことだ。その命を奪った手を砕け。己の罪を…自覚しろ。」
アルバート「手を砕けって…これのことか…?」
男は、恐る恐る手の方を見る。そこには機械で挟まれて、血が滴り落ちているアルバートの手があった。
男「これで…上から叩けってことか?」
男は近くにあったハンマーを手に取り、アルバートに見せる。
アルバート「無理だ…俺にはできない!手が無くなったらどうすればいいんだよ!?痛みになんか耐えられない…」
震えながらアルバートは言った。
アルバートが諦めたとき、ギロチンが彼の首を跳ねた。
あまりにもグロテスクな光景に男は嘔吐する。
男「おえっ…アルバート…」
かつての親友たちの死を弔いながら、男は先へ進む。
扉を開けた先には…
男「アンナ…!」
泣きながら前に立っていたアンナを抱きしめようとする…が…
ドンッ
アンナ「……………」
アンナに押されて、男は倒れる。
バシャッ
男は何かの液体をかけられる。
男「アンナ…どうして…?俺には伝えないといけないことが…」
アンナは無言で男へライターを投げつける。
男にかけられたものは…ガソリンだった。男はごうごうと燃え、悶える。
男「アンナァァ…!どうじて…アン…ナ…」
アンナ「復讐の人に教えてもらったよ。私たちの子供は、あなたが流産させたって。あなたは強盗犯で…私が買い物している店に押し掛けた。」
男「ごめん…よ…」
アンナは喋り続ける。
アンナ「ドアの裏にいた私はドアがお腹に当たって…あの子は…流産して亡くなった…!全部あなたのせいだった…信じていたのに!」
アンナは泣きながら燃える男を抱きしめる。自身の肌が焼けていく。
アンナ「だから…死んで。あなたを愛している。だから死んでちょうだい。それであなたの罪は無くなるわ…」
燃え行く男を、アンナは見届けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます