生業 1話 献身
「足りぬ…足りぬ…」
何者かが薄暗い路地で呟く。
「この世は腐っている。命を奪い、平然としている輩も…自身に与えられた人生を投げ捨てる輩も…許せぬ…私は許せぬ…ゴホッゴホッ…」
肺が悪いのだろうか。老人は倒れこむ。
老人「私のように弱き老人も…生きている…皆生き延びている…儚き命よ、我らに祝福あれ…」
そこへ…
「師匠様…大丈夫ですか…?新人が居ます。今こちらへ向かっていると…」
老人「わかった…私も向かう…少し手助けしてくれないか。」
「もちろんです。新人の方、とても師匠様を崇拝していると…!」
少し自慢げに女は言った。
老人「私は…崇められたいのではない…ただ…命を…ゴホッゴホッ…」
女「師匠様!やはり病院に行かれた方が…」
老人「私は犯罪者だ。そのような資格はない…病院は生きたいと望む者が行くところだ。私はもう人生に悔いはないよ…君たちのような弟子がいて…」
女「あなたの救いを待っている方々はたくさんいるんです…!もちろん私たちもサポートします…車椅子を持ってきますね。」
女はその場を離れ、車椅子を持ってくる。
老人「すまない…不甲斐ないね…」
老人は咳き込み、血を吐いた。
女「師匠様は長くない…私たちが継承しないといけないんだ…'贖罪'を…!」
彼らは人を騙したり、傷つけたり、他の命を粗末にするもの…悪人を、彼らは許さない。
被害を受けた人々に贖罪を振るう権利を与え、悪人に贖罪を受けさせる…それが彼らの生業だ。
女「アンナさんの贖罪は無事完了したようです。彼女…かなり傷ついたようですが…師匠様にお礼を言っていましたよ。『彼を許すことができた。人生を生き直す』と…」
老人「そうか…アンナさんには…幸せに生きてほしいねぇ…もう、私たちと関わることがないように…」
車椅子に乗り、ある場所へ向かう。
女「師匠様が帰ったよ…あまり体調は優れないけど…」
老人の弟子たちが駆け寄る。
「ダリア、師匠様の具合は?」
老人のそばにいた女はダリアという。
ダリア「あまりよくないよ、ダグラス。あんたは仕掛け用意できた?」
ダグラス「ああ、上手く作動したよ。あれなら一撃で命を絶てる。」
老人「今までの罪を後悔して、人生を終えられるようにしてあるか?恐怖を与えるだけでは駄目だぞ。」
ダグラス「はい、師匠…命の危機を感じる時だけに、人間は贖罪することができる。その教えを元に、俺たちは師匠のそばにいます。」
老人「わかっているならいいんだ…命を絶つだけでは駄目なんだ…贖罪こそが、我々の生きる意味…私は身に染みたよ…」
老人は、数年前に事故にあった。生死の境をさ迷っている時に、彼は思ったのだ。今までの人生の罪を。老人は全てを後悔し、贖罪をした。
その後、老人は救助され、助かったが…その出来事は、老人の価値観そのものをねじ曲げてしまった。
死が迫る瞬間こそが、最大の悔いを改める時間だと。
その考えを支持する者が、ダリアとダグラスだった。
老人は始めたばかりのころ、麻薬中毒者や自殺未遂を起こした者などに贖罪の機会を与えていた。
老人「命を粗末にするものは許せぬ…生きたくても生きられない者が大勢いるこの世界で…君らは今一度考えるべきだ。自身の人生について…」
そして選ばれたのがダグラスとダリアだった。
ダリアは麻薬中毒、ダグラスは自殺未遂と条件に当てはまっており、最初の贖罪者となった。
二人に生きのびるチャンスと、同時に死を与えた。
彼らは見事チャンスをつかみ取り、老人の考えを支持するようになった。
そして…今に至る…
今でも人生を無下にするものに贖罪とチャンスの機会を与えている。
今一番力を入れているのが、被害者の救済、罪人の贖罪というわけだ。
ダグラス「次は複数人を一気に贖罪するための仕掛けを作りました…」
老人「どれ…見せてくれ…」
その装置は…円状に椅子が連なっている回転マシーンのようなものだった。
ダリア「それで…どんな仕組み?」
ダグラス「上から回転する刃が降りてきて、順番に人が死ぬ仕組みなんだが…これは集団心理戦でな。外から刃をコントロールできる。外の人間がボタンを押すと、選らばれた人間は死を回避できるってことだ。」
ダリア「罪人の人間性が試されそうね。いい仕組みだわ。」
老人「生き残った者はどうする?逃がすか、その後の仕掛けに嵌めるか。」
ダグラス「それは決めかねています。師匠に決めていただきたく…」
すると老人は…
老人「それは君たちが決めてくれ…私は長くない。君たちが継承する日は近いだろう…だから…」
ダリア「わかりました。師匠…あなたが死ぬまで、私たちが全力でお手伝いいたします。」
ダリアとダグラスは跪く。
まるで神を崇めているように…
ダリア「新人の件ですが…今、到着したと…」
「どうも…ベルリアと申します…これからよろしくお願いいたします。」
老人「やぁベルリア…君も私による贖罪の生き残りだね。歓迎するよ…」
ベルリアと名乗る者は深々とお辞儀をする。
彼も老人による贖罪の生き残りで、ダリアたちと交流をとっていた…その後、老人のことを神のように崇めるようになり、ぜひ協力させてほしいと願い出た。
ベルリア「あなたは救世主です…なんとお呼びすればよろしいですか?」
老人「私のことは…好きに呼ぶといい…ダリアとダグラスからは師匠と呼ばれているがね…」
ベルリア「では…僕にも師匠とお呼びさせてください。」
老人「わかった…これから忙しいぞ。新たな罪人を迎える準備をする。手伝ってくれるかい?」
ベルリアはとても嬉しそうに頷いた…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます