第22話
僕は警察署のテーブルを挟んで、捜査第一課の刑事と向かい合っていた。
夕方、うちに刑事が2人やって来た。母親が応対したが、咲良美笛さんのことで任意で僕の話を聞きたいということだった。参考人聴取のようだ。
エアコンで暖められた部屋で、僕はこの30代くらいの紺のスーツを着た脇田という刑事にいくつかの質問をされ、僕が答えたことをパソコンに入力する人がいた。
僕はまず美笛との関係を聞かれ、同じ進学塾に通う受講生だと答えた。
「一緒に帰るような仲だと、咲良さんのお父さんが言ってましたが」
「それはたまたま友達のパーティーで一緒だったからで、帰る方角も同じだったからです」
「その友達と咲良美笛さんはどんな関係ですか?」
「僕の中学の友人です」
「みんな中学生?」
「そうです」
「その友達の父親か兄弟にシルバーメタリックのワンボックスカーを所有してる人はいますか?」
「友達のお父さんにはいないと思います。あと友達には兄や姉がいる人はいないので、車の免許を持ってる人はいません」
「その友達の知り合いで、そんな車を持ってる人を見たことはありませんか?」
「僕の知ってる限りないです」
「話を変えましょう。美咲くんと咲良美笛さんとはお付き合いをしていましたか?」
僕は少し考えて、「ただの友達です」と答えた。
「少し間がありましたね。何か考えたのですか?」
「そんなことないです。適切な言葉に迷って」
「適切な言葉に迷うくらいには親しい関係だと」
「ええ、まあ」
詰問に近い。僕は何を疑われているのだ。
僕をストーカーか何かと思われて父親が警察にでも相談したのだろうか? でもそれとシルバーメタリックのワゴン車は関係がないだろう。
「昨夜の9時20分頃、どこにいましたか?」
「塾を出て自転車で家に帰って、自分の部屋で制服から部屋着に着替えて時計を見たら、それくらいの時間でした」
「どういう経路で家まで帰りましたか?」
僕はいつも帰る道順を説明した。あの通りを曲がり、コンビニの前を通って、細い路地に入って……と細かく説明した。
「それを証明出来る方は誰かいますか」
「母親が家にいました。父は交代勤務で仕事に行ってました」
「お母さんだけですか。それで家に着いてから、眠るまでの美咲くんの行動を知りたいのですが」
僕はその日は風呂に入って夕食を食べて、2時間ほど数学と英語の勉強をして、眠る前にYouTubeをザッピングしてから1時ごろ眠ったと答えた。
「昨夜は咲良さんから連絡ありましたか?」
「なかったです。塾の教室で別れてそれきりです。いつもお父さんの車で帰っていたので」
「咲良さんとLINEはされてましたか?」
「はい」
「それを見せてもらうことは出来ませんか? もちろん断ってもらっても構いませんが」
僕はスマホを出して、美笛とのトークの所を見せた。トークは一昨日の夜で途切れていた。
「協力していただいて、ありがとうございます。もし咲良美笛さんから連絡が来たら、必ず署の方へ伝えて下さい」
なんだかわけがわからない。
僕がストーカーとして調べられているなら、美笛から連絡が来たら警察に伝えてくれなんて言わないだろう。誰がストーカーしてる相手に連絡などするか。
僕は大きな違和感が湧いて、刑事さんに聞いた。
「咲良さんに何があったのですか?」
「今は何もお教え出来ません。捜査中で情報が規制されています。申し訳ありませんが、この状況を察していただいて、ご協力お願い出来ませんか」
絶対、美笛の身に何かあったのだ。美笛は大丈夫なのか?
警察が何も教えてくれないなら、自力で調べるしかない。
両親は警察署の廊下の長椅子に座ってずっと僕。待っていた。
僕は父の運転で家に帰ってから、スマホのグループLINEに書き込みをした。もう美笛と呼び捨てで書くと決めた。
やばい、美笛に何か
あった
晴希
なんだよ、急に
紗奈
どうした?
警察に呼ばれて、色々
聞かれた
翔人
警察に呼ばれた?
紗奈
なんで亜土が?
前に俺と一緒にいるところを
父親に見られたから
何か知ってると思われたのかも
紗奈
それで美笛ちゃんに
何があったの?
警察は何も教えてくれない
情報が規制されてる
晴希
こんなこと言っていいか
わからないけど
何?
晴希
美笛ちゃん誘拐か拉致でも
されたんじゃないか?
警察に言ったことが犯人に知られると
美笛ちゃんの身が危ない
だから、情報規制してる
翔人
マジか
紗奈
もしそうだとしたら
美笛ちゃんマジやばいよ
俺、どうすればいい?美笛の
背中を塾で見送った時、
すげえ切なくなったんだ
今思えば、何かの前兆
だったのかもしれない
晴希
ネットで情報調べ
られないかな
うん、調べてみる
翔人
俺も調べてみる
紗奈
何かわかったら、
ここに書き込むこと
いい?
わかった
僕はLINEを閉じて、ネットニュースを見てみた。
女子中学生が誘拐されたという記事はなかった。
当然だ。情報規制されてるのだから。
僕は『女子中学生、誘拐、拉致』で検索してみた。すると過去の事件ばかりが出てきた。
中には誘拐されて、ひどい殺され方をした女子中学生の事件も出てきて、僕は見ていられずにすぐにその記事を閉じた。
何か誘拐や拉致を匂わせるものがないか、美笛のインスタを開き、200件近く投稿されてる写真に付いてるコメントを一つ一つ見ていった。
何か手がかりがないか、ストーキングしてる奴がいないか調べた。
でもすべての写真のすべてのコメントを見たけれど、そんな怪しいコメントは一つもなかった。アンチもいなかった。
ふと美笛に連絡したらどうなるだろうと思った。
電話でもLINEでもインスタのDMでも、なんでもいいから送ってみたらどうなるか考えてみた。
でももし犯人が美笛のすぐそばにいて、その着信音なり通知音なりを聞いたら逆上して、美笛に何かするかもしれない。命の危険にさらされるかもしれない。
そう思うと何も送れなかった。
僕は巨大掲示板のスレッドを見てみた。◯○市の女子中学生誘拐でスレッドが立ってないか調べた。でもそんなスレッドは立っていなかった。
僕は誘拐や、拉致、極悪、でそれぞれ検索して、最近立ったスレッドのコメントを見ていった。
犯人が女子中学生を拉致ったなどとイキって書いてるかもしれない。
僕はその膨大なコメントを見ているうちに、気がつくと窓には朝日が差していた。
一睡も出来なかった。
僕はまぶしい朝日に目を細めながら、美笛の無事を心から祈った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます