第23話
僕は2階の自分の部屋を出て、階段を降りて、居間のテーブルの上に置いてあった北海道新聞の地元のニュースの欄を見てみた。
そこにも女子中学生誘拐の記事は載っていなかった。
「おはよう、どうしたの? 今朝は早いね」と母が言った。
僕はテレビをつけて、朝の情報番組を見てみたが、それらしいニュースはない。
当たり前だ。情報規制がしてあるのだから。もしそのニュースが流れて、犯人が見たら逆上して、美笛に危害を加えるかもしれない。
「もう朝ごはん食べる?」母が言った。
夜勤の父は警察署から僕らを送り届けて、そのまま会社に行ってまだ帰っていなかった。
「食欲ないからいい」僕はそう言って、自分の部屋に戻ると、学生服に着替えた。
スマホを見てみる。グループLINEを見たが誰からも情報は書き込まれてなかった。
「もう学校行くの?」母が言った。
「一度、帰ってくる」そう言って僕は家を出ると、チャリに乗って、美笛の通うO中に向かった。
チャリで15分ほどかかって、やっとO中が見えてきた。
すると校門の前の通りにパトカーが2台停まっていて、耳にイヤホンをした警官が2人、校門の前に立っていた。
僕はその反対側の路側帯を走っていたので、そのまま素通りした。止まってジロジロ見ていたら挙動不審で警官に止められてしまうだろう。
やっぱり美笛に何か起こってるんだ。そう確信した。
僕は一度家に帰ってから自転車を置いて、カバンを持って、再び家を出た。学校に着いて、仲間が来るのを待っていた。
「亜土、早っ」翔人が教室に入って来て行った。
「うん、今朝は行くとこがあってさ」
「おはよー」紗奈がそう言って教室に入って来た。
「みんな早いね」晴希が続けて入って来て、充血した目で言った。あまり眠ってないのかもしれない。
みんなが席に着いたので、
「今朝、美笛の学校に行って来たんだ」と僕は言った。
「それで?」晴希が言った。
「校門の前にパトカーが2台停まって、警察官が2人立ってた」
「それ、マジでやばいやつじゃん」翔人が言った。
「うん、絶対何かあったはず。じゃなかったら、警官なんていないよ、校門の前に」僕が言った。
「それが何かわからないのが、モヤモヤするよな」
晴希が言った。
「もしかしたら全校集会とかやってるかもよ、体育館で」紗奈が言った。
「放課後にでもO中の奴らに聞いてみようか? シメれば吐くんじゃね?」翔人が言った。
「手荒なことはやめようよ。こっちに警察の目が向くし」晴希が言った。
「じゃあ穏やかに聞くから。それならいいだろ」
「ほんと穏やかにな」
「じゃあ学校終わったら、みんなでO中に行こうか」と僕が言った。
「そうしよう」晴希が言って、紗奈と翔人も賛成した。
放課後、僕ら4人はO中に向かった。S中からO中までは歩いて30分ほどかかる。ちょうど両校の間にはJRの駅があり、そこからまた15分ほど歩かなければならない。
その駅ナカにはコンビニがあり、駅ビルの通路にべったりと座ってしゃべってる生徒がたくさんいた。
中にはコンビニでお湯を入れてもらってカップ焼きそばを食べてる高校生カップルもいた。
僕はその中にO中の制服を着た生徒を見つけた。数人で駅の柱の周りにたむろっている。
「あいつらに聞いた方が早いんじゃね?」と翔人もO中の生徒を見つけて言った。
「じゃあ聞いてみようか」と晴希は言った。物おじしないのが晴希という男だ。
晴希はそのたむろってる一人に、「あの、ちょっと聞きたいんですけど」と言った。
ああ? という顔でそいつは晴希を見たが、晴希の後ろに翔人の姿を見て、表情を変えた。
翔人はこの辺ではわりと有名なのだ。高校生のヤンキーをタイマンでぼこぼこにしたこともある。運動神経の良い奴はケンカも強い。
「今日、学校で全校集会とかなかったかな?」
「なんで知ってんの?」と彼は言った。
「バカ、言うなよ。他校の奴に」隣にいた奴が言った。
そのたむろってる中心にいた生徒が、僕の顔をマジマジと見てから、スマホをポケットから出して見た。
そしてしばらく画面を見た後、
「これ、あんたじゃね?」と言った。
僕はそのスマホを受け取って見てみた。そこには『拡散希望! O中3年咲良美笛拉致監禁犯、S中3年一之瀬亜土! 重要参考人で警察に任意同行!』と書かれていて、その下に僕の顔写真が載っていた。
背景に見覚えがあった。塾で撮られた写真だ。美笛とは塾で写真など撮らないから、誰かが隠し撮りしたのだ。
ならこれを投稿したのは塾の奴か?
僕がスマホの画面を見てると、その投稿は秒でいいねの数字が増えていた。
僕はまるで容疑者として、顔写真と名前がさらされて拡散されている……
これはネットタトゥーだ。いくら消しても誰かが再投稿して、永遠にネットから消えないのだ。
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