第24話

「なんだよ、これ!」翔人が画面を見て言った。

「顔出しするなんてありえない」紗奈が怒った。


 僕はその生徒にスマホを返す時に、

「今日、全校集会あったんだね」と言った。


 彼は「あった。でも咲良美笛に失踪届けが出されたことと、誰か連絡が来たら学校側に知らせてくれってだけ。拉致とかそういうことは言ってなかった」と言った。 


「ありがとう」僕は彼にそう言ってから、 

 晴希たちに、「とりあえずこれをなんとかしよう」と言った。


 僕らは駅のベンチに座って、4人でスマホを出して、そのツイートをしたアカウントを全員が通報した。

 

 多分、塾の奴の裏垢だろう。


 そのいいねは更に増えていき、コメントの数が100を超えていた。見てみると、


『こえー中坊が拉致監禁って、ありえないんだけど』

『拡散しますたー』

『こいつ見たことある。◯◯○○って塾に行ってる』

『この極悪中学生の家、まだ見つかんないの?捜索隊』

『氏ね』

『家見つかったら、突撃だね』

『こいつキモい顔してる。いかにもやりそうだ』

『拉致監禁顔』

『こいつ今ごろ、女子中学生とやってるのかよ!裏山』

『童貞捨てたんか』

『童貞が、女拉致るか、ボケ』

『ど田舎じゃ大騒ぎだろうな』

『でもそんなニュース出てないけど』

『デマか?』

『ソース何?』

『美咲の仲間乙』

『女の顔写真出せや』

『急げ、捜索隊。住所見つかったら即、家突撃。ユウツベ生配信!』

『再生回数、稼げそうだ』

『俺も突撃する!』

『突撃!』

『突撃!!』


 まだまだコメントは続いたが、もう読む気にもならなかった。僕はいつの間にか犯罪者にされてしまった。それも顔まで晒されて。


 これで住所まで晒されたら家族にまで危害を加えられるかもしれない。


「一度、家に帰るわ」僕は言った。

「うん、その方がいいな。顔も晒されたしな」と晴希が言った。

「こんなことになるなんてな。ひでえ世の中だよな」翔人は駅の柱を蹴った。


「大丈夫。噂なんかすぐに消えるっしょ。だって、亜土は何もしてないんだし」と紗奈が俺を見た。


「みんな、ありがと。じゃあ、また後でLINEするよ」

「うん、俺も何かあったらLINEするから」晴希が言った。


 僕はみんなと別れて、家に向かって歩いた。


 誰かとすれ違うと、自分の顔を見られている気がした。被害妄想だってわかってる。


 みんながあのカキコミを見てるわけじゃない。それはわかってる。でも僕は顔を見られないように、うつむきながら歩いた。


 そして家に着くと、母があわてて、

「テレビ見て、テレビ」と言った。


 僕が居間のテレビに目をやると、画面の上にテロップで、

『北海道◯◯市で女子中学生連れ去られる』

 画面には美笛の家の近くのコンビニの防犯カメラの画像が映っている。


「11月4日、午後9時20分ごろ、O中学の制服を着た女子生徒が無理矢理、シルバーメタリックのワンボックスカーに押し込まれ、そのまま車は走り去ったと、目撃した近所に住む50代男性が110番通報しました。


 その後、娘が帰って来ないと警察署に父親から連絡があり、その特徴とさらわれた場所などから、○○市N町に住む咲良美笛さんと断定し、誘拐事件として捜査していましたが、身代金の要求がないことと、コンビニの防犯カメラの映像の状況から、美笛さんの安全を考えて、美笛さんの両親と警察が協議して、警察は公開捜査に踏み切りました。


 これが咲良美笛さんと、その時着ていた服装です」


 美笛の写真と、O中学の女子の制服が映された。「そして咲良さんを連れ去ったと思われる車の同一車種の写真です」


 シルバーメタリックのワンボックスカーの写真が映され、


「コンビニエンスストアの防犯カメラの映像から車のナンバーは……」と車のナンバーをアナウンサーが告げた。


「犯人は女子中学生を連れ回したまま、N市方面に向かったと、目撃情報もあります。もしこのナンバーの車両を見つけたらすぐに警察署まで連絡お願いします。女子中学生1人の命がかかっています」とアナウンサーが言った。


 だからあの刑事は、シルバーメタリックの車を持ってる人を探していたのか。


 美笛はその車に押し込まれ、N方面に向かっているのか。警察も公開捜査に踏み切ったのだから、各地で厳しい検問をしているだろう。絶対に捕まえてくれるはずだ。そう願った。


 そしてニュースは一旦、別のニュースに変わった後、突然アナウンサーが「先程、女子中学生連れ去りの犯人と思われる男から局に連絡があり、『この女を殺して自分も死ぬ』と電話をしてきたそうです。


 地元のみなさん、何でもいいです。犯人に繋がらなくても何か情報がありましたら、すぐに警察署に連絡してください。彼女の身に何かあってからでは遅いのです」アナウンサーは苦渋の表情を浮かべて言った。


 なんなんだこいつは。美笛を連れ去って何をしようというんだ。金銭目的の誘拐ではない。

 

 それ以外の目的があるとしたら、わいせつ目的ではないのか。


 僕は自然に拳を握りしめていた。


 ぶっ殺す。目の前にこの男がいたらぶっ殺す。

 

 美笛に何かしてら、ただではおかない。絶対に許せない人間が、美笛のそばにいる。

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