第27話
犯人はN市在住の無職、山城和貴35歳。
11月4日の午後9時20分頃、コンビニから少し離れた路上で、わいせつ目的で美笛に声をかけ、車で無理矢理連れ去り、検問をかいくぐって、
美笛の腕と自分の腕に手錠をしたままS湖まで行き、そのキャンプ場で山城は車内で拳銃自殺をして、残された美笛は奪われていた自分のスマホで警察に通報し、レンジャー部隊が山城と美笛の腕を繋いだ手錠をレンチで切った。
事件の内容はそう伝えられた。
わいせつ目的。そう思ってはいたが、あらためてその言葉に胸が痛んだ。美笛はその山城って奴に何かされてしまったのか?
でもどうして美笛は1人でコンビニ近くなんて歩いていたのだろう。あの日も塾の後はお父さんに車で送ってもらったはずだった。
そのコンビニは美笛の家から近いから、1人だけ車を降りて買い物をしたのだろうか? それ以外、1人になる理由がない。
美笛は今、どこの病院にいるのだろう。連絡は取れるのだろうか?
今はまだ無理だけど、しばらくしたら連絡してみようか。それか美笛からの連絡を待った方がいいか。
もし心がつぶれそうになって、誰かに頼りたくなったら連絡して欲しいと思う。
美笛が頼れるのが僕であって欲しいと思う。男がみんな山城みたいなケダモノではないから。
僕は風呂から上がっても、何もやる気がしなかった。美笛のことを考えたら、何も手につかない。
同じ高校に行く約束も、美笛の心の傷が癒えない限り難しいと思う。入試どころではない事件に巻き込まれてしまったのだから。
僕はYouTubeのザッピングを始めたが、今まで楽しめていた動画がまるで無意味な物に思えて、まったく楽しめなかった。
ピアノの速弾きも、子猫も、トランプ氏の陰謀論も、まったく心に刺さらない。
すべての感触を失くしてしまった肌のように、何も感じない。僕はスマホを閉じた。
するとスマホの着信音がした。誰だろう。僕は画面を見た。信じられなかった。
電話は美笛からだった。
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