第26話

 車で連れ去られた女子中学生が無事に保護されました。車はS湖近くのキャンプ場の駐車場で、被害者自身が110番通報しました。


 犯人の30代の男は拳銃で頭を撃ち死亡。現場の状況から自殺とみて捜査をしています。


 連れ去られていた咲良美笛さんは犯人と手錠で繋がれていて、レスキュー隊に手錠を切断してもらい、近くの病院に搬送されました。目立ったケガはないようですが、かなり衰弱してる模様です」


 犯人の男は手錠で美笛と繋がったまま、ピストルで頭を撃って死んだ。美笛のすぐ隣で。

 

 美笛が精神的にどれだけ衝撃を受けたか、想像したらいたたまれなくなった。


 血しぶきだって飛んだだろう。脳漿が顔中にかかったかもしれない。そんな状態だったら、精神的に危うくなってもおかしくない。


 犯人はなぜ自殺するのになぜ美笛を連れ回したのだろうか? 1人で死んだら、美笛をこんな目に合わせなくて済んだのに。

 

 でも美笛を道連れにしないでくれたことだけは感謝する。僕はすぐにグループLINEした。

        

         美笛が見つかった


 晴希

 うん、今ニュース見てた。無事で

 ほんと良かった

 

 紗奈

 犯人やばいよね、拳銃持ってたなんて

 美笛ちゃん怖かっただろうね


 翔人

 そりゃ怖いよな。マジな拳銃だぜ。

 犯人何者なんだろう。ヤクザか半グレ

 か?

         

     そんな感じだろうな。拉致って

     銃で脅すなんて絶対カタギじゃ

     ないよ


 晴希

 まだ犯人の名前、出てないな。

 特定されてないのかな


 紗奈

 あれだけ被害者の名前バンバン

 出してるのにね。美笛ちゃん 

 かわいそう


 翔人

 ほんと死んで当然のクズだな

        

      でも美笛を道連れに死ななく

      て良かったよ


 晴希 

 犯人の最後の良心だろう。

 それくらいじゃ、許されない

 けどな


 紗奈

 ニュースで見たけど、犯人って死ぬと

 起訴されないって本当?


 翔人

 マジか


 晴希

 うん、犯人死亡で捜査はするけど、

 検察には送れない。死んでるから。

 だから罪を裁けない


      ひでえよな、それ


 晴希

 うん、犯人の罪は問われない。

 救われないよな


 紗奈

 でも裁判になって、美笛ちゃんが

 事件のことを根掘り葉掘り聞かれるのも

 つらいと思うよ。一瞬でも思い出した

 くないことだから

 

    たしかに、そうだね。傷をえ

    ぐるような証言をさせられるだ

    ろうし


 翔人

 何が正解かなんてわかんないけど、

 とにかく美笛ちゃんに逢えたら、

 みんなで癒やしてあげようよ。何も

 出来ないかもしれないけど


     そうだね。心の深い傷が浅く

     なんてならないだろうけど、

     俺らに出来ることはしよう


 莉緒

 賛成。みんなで美笛ちゃんを

 支えてあげよっ、ね


       えっ、莉緒? 莉緒なの?

       今、病院だよね?


 莉緒

 病院のスマホを使える部屋。

 グループLINE見てたら私も

 何か書かなきゃと思って


 晴希

 体は大丈夫なの?


 莉緒

 うん、いつものことだから


 紗南

 びっくりしたでしよ。美笛ちゃん

 のこと


 莉緒

 びっくりしたなんてもんじゃないよ。

 そんなことに巻き込まれる子じゃな

 いのに


    犯人のこと、まだ何も報道されて

    ないね。美笛のことは知ってたの

    か。それとも通りすがりの犯行な

    のか


 晴希

 夜のニュースまでには詳しいこと

 わかるんじゃないか


       そうだね


 莉緒

 私たちは私たちに出来ることを

 してあげようね、美笛ちゃんに


 翔人

 うん、そうしよう

          

       うん


 紗奈

 じゃあ莉緒も自分の体のこと、

 気をつけて。また何かあったら

 ここに集まろっ


 晴希

 OK

           

        オケ

 翔人

 オケ


 莉緒

 オケ


 グループLINEを閉じて、僕は気分を変えたかったので風呂に入った。


 美笛も風呂に入れてるのだろうか。ずっと車で連れ回されて、検問もかいくぐられて、すごくすごく怖い思いをして。


 ゆっくり風呂にでも入って癒やされてることを願う。今は願うことしか無力な僕には出来ないのだ。


 風呂から出ると母が、

「あの女子中学生、無事に保護されて良かったよね」と言った。

 

 僕が美笛と付き合ってることを母は知らない。


「そうだね、近くの中学だしね」僕は無難に答えた。

「でも同じ塾じゃないの? 顔くらいは知ってた?」

「うん、見たことはある」


 そして僕は母の作った夕食を食べ、自分の部屋に戻ると、何もせずにただ考えた。

 

 もう美笛と約束してたマリンパークには行けないな、ということ。


 お互い、勉強頑張って一緒に行って、いっぱい遊ぼうって言ってたのに。


 美笛が学校や塾にすぐに戻れるとは思えなかった。僕は美笛と一緒の高校に行けるのだろうか? 

 

 せっかく一緒に頑張ろうって言ってきたのに、全部あの犯人に台無しにされた。絶対に許せない。


 僕は壁の時計を見た。

 

 夜のニュースの時間だった。僕はテレビをつけた。最初のニュースが美笛が無事に保護されたことだった。そしてアナウンサーが事件の経緯を話し、そして犯人の詳細が明らかになった。

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