第15話
その日の日曜日、僕は遅い朝食を取った後、チャリで晴希の家に出かけた。晴希の家はチャリで10分ほどの所にある。古くからの高級住宅地の一角だ。
僕がインターフォンを鳴らすと、晴希の「どちら様ですか?」という声がした。
「あ、俺」
「亜土、鍵は開いてるから入って来て」
僕は家の門扉を開けて中に入り、石と砂利が敷かれたアプローチを歩いて、晴希の家の玄関を開けて中に入った。
すると晴希が出て来た。
「亜土、今日はありがとな。じゃあ、上がって」
「うん、おじゃまします」
「今、うち誰もいないから、気兼ねしなくてもいいよ」
「そうなんだ」
晴希の部屋は2階にあるので階段を上がる。そして晴希の部屋に入った。壁一面に本棚があり、ぎっしりと本が並んでいる。
「じゃあ飲み物でも持って来るよ」そう言って下に降りて行った。
僕は晴希が戻るまで、本棚をぼんやりと眺めていた。晴希このマンガ全巻揃えたんだ。帰りに借りようかな。
そんなことを考えながら、本棚を見て行くと、端の方に2冊だけ背表紙を裏にして本棚に入れてある本が2冊あった。
前に遊びに来た時にはなかった。僕はエロい本だと思い、思わず手に取って見てしまった。
一冊は『 「ふつう」ってなんだ? LGBTについて知る本』で、もう一冊は『13歳から知っておきたいLGBT +』という本だった。
僕はそれを見て、晴希はいろんなことに関心を持っててすごいなと思った。
僕はLGBTに関する知識なんてほとんどない。性同一性障害という言葉は知っているけれど、それがどういうことで、その人たちが何に苦しんでるいるのかわからなかった。
でも今の時代、それに関する知識がないといけないのだろう。コンプライアンス的にまずいことを言ってしまうこともあるかもしれないし。
僕がその2冊の本を手に取っている時に、晴希がペットボトルのお茶を2本持って部屋に入って来た。
「何、見てんだよ」尖った声がした。いつもの冷静な晴希の声ではなかった。
「ごめん、背表紙を裏にして本棚に入ってたから、絶対エロい本だと思って。それもすっごいエロいやつ」僕は正直に言った。
僕のその返しに晴希はいつもの晴希に戻って笑った。予想外の言葉だったのだろう。
「エロい本は机の鍵のかかる引き出しに入れるだろ、フツー」
「まあ、そうだね。俺もそうしてるし」
晴希は僕を見つめて、「その本を見てどう思った?」と言った。
「どう思ったって、晴希はいろんなことに関心があるんだなって、思った」
「そっか」
晴希はそう言うと、ペットボトルの一本を僕に渡して、「この本は両親が見つけて、手に取ってくれるように、わざと背表紙を裏にして本棚に入れてあるんだ」と言った。
「なんでそんなことするの?」
「親に見つけて欲しいからだよ。子供のことをちゃんと知って欲しいんだ。だからわざわざ見つかりやすいように入れてあるんだよ」
「だから、なんでそんなことするんだよ?」僕が言った。
「俺がLGBTだからだよ」と晴希は言った。
僕はそれを聞いて、思考が止まってしまった。
そんなこと今まで考えたこともなかったから。
晴希を見た。
僕にカミングアウトしたことで清々しい顔をしているような気がした。
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