第13話
僕らはハロウィンパーティーの片付けをして、仮装もメイクも落として、いつもの格好に戻った。
美笛と莉緒はまだクッションを枕に横になっていた。
テーブルを拭いていた紗奈が、
「美笛ちゃんが言ったこと本当なの?」と僕に言った。
僕は迷った。今、本当のことを言えば、嘘をつき続けずに済む。楽になれる。でも僕はこう言ってしまった。
「そんなわけないよ。知り合ったばかりだし。酔っ払ってハイになったから言ったんじゃないかな」
「それって、嘘じゃないよね? 私、莉緒を傷つけたら許さないよ」紗奈はきつい口調だった。
「だって俺と莉緒はただの幼なじみだし」
「莉緒もただの幼なじみだと思ってると思う?」
「えっ」
「もういい。とにかく莉緒を傷つけたら許さないからね」
「まあまあ、酔っ払った勢いでバカなことを言っちゃうことって、よくあるから。うちの親父だって酔っ払ってテキトーなこと言って、朝になると言ったことすらも忘れてるから。そんな感じじゃないかな」翔人が僕らを仲裁してくれた。
片付けが済む頃に、美笛と莉緒が目を覚ました。
「莉緒大丈夫?」と紗奈が心配そうに言った。
「うん、これが二日酔いってやつなのかな、ちょっと頭が痛いけど大丈夫だよ」
それを聞いた紗奈が「もう、心配したんだからね。でも大丈夫で良かった。あとさ……」
と言うか言うまいか迷ってるような顔をした。そして、
「美笛ちゃんさっき言ったこと本当?」と言った。
「さっき言ったことって?」美笛が驚いたよう声を出した。
「何も覚えてないの?」
「うん、覚えてない。私なんか言ったのかな」
「亜土と付き合ってるって」
「えっ」
「亜土と付き合ってるって、美笛ちゃん言ったの。それって本当のこと?」
美笛はとまどった表情になって、
「私、そんなこと言ったの?」
美笛はちらっと僕の表情をうかがった。僕も困った顔をしていたのだろう。
美笛は「そんなことあるわけないよ。だって、莉緒ちゃんと出会ってから、亜土くんと知り合ったんだし。こんなに短期間に付き合ったり出来ないよ」
「まあ、たしかにそうだけどね」紗奈はまだ納得出来てない様子だ。
「な、俺が言った通り、酔っ払いの言ったことなんて、受け流せばいいんだってば。わけわからないこと言うんだから」と翔人が紗奈をさとすように言った後、
「全部、俺が悪いんだよ。ごめんな、ビールなんか買って来たから」
「そんなことないよ、スーパーのレジの人がノンアルビール1本1本スキャンしてればこんなことにならなかったんだし」と今度は紗奈が翔人をなぐさめるように言った。
頭を振りながら起き上がった莉緒が、「あっ、そうだ。亜土、ちょっと来て」と言った。
「えっ、どうしたの?」僕が莉緒のそばに寄ると、莉緒は僕の着ていたシャツの胸元を下に引っ張った。すると首に掛けていたネックレスのチェーンが見えた。
「してくれてるんだ。じゃあ、いいよ」と莉緒が言った。
僕は莉緒がいる時は、莉緒がくれたネックレスを付ける。あのハートの片方の、莉緒が名付けたOne Heartのネックレスを。それは美笛がいる時でも付ける。僕が決めたルールだ。
「何、どうしたの?」紗奈が言った。
「なんでもない。亜土の首筋を見たら安心した」
「なによ、それ」
「幼い頃から亜土とは一緒だから、ただの幼なじみだけど。
亜土の体の一部でも見たら気持ちが落ち着くの。だけど、ほんと私たちただの幼なじみだから」と莉緒はやけに幼なじみを強調していた。
美笛に気を遣ってるのかもしれない。
子供の頃からずっとそばにいるから、莉緒は薄々感じているのかもしれない。美笛と僕が付き合ってることを。
「じゃあみんな、帰ろうか。美笛ちゃん歩ける?」
晴希が言った。
「歩けなかったら、翔人がおぶって行きなよ」と紗奈が言った。
「うん、俺がおぶってく」なんだか翔人がうれしそうに言った。
「いつもみたいに俺が送ってくよ。同じ方角だし」
と僕が言った。
「でも、それじゃあ」紗奈がまた訝しむように言った。
「いいよ亜土、美笛ちゃんを送ってあげて。何かあったら大変だから」莉緒がそう言った後、
「One Heart!」と叫んだ。
それは多分、僕に向けてだ。あのネックレスを付けているから安心してる、そういう意味かもしれない。
それを聞いた紗奈が「ワンハートって何?」と言った。
「みんなの心が一つになるってこと」
莉緒が言った。誰も傷つかない優しい嘘だ。One Heartは僕の首にぶら下がっている。それは美笛も知らない。
「うん、ワンハート。いいねえ。じゃあ、せーので一本指を突き出して、みんなで言おうか、心を一つにして」と晴希が言った。
「じゃあ、せーの」
「ワンハート!」全員で人差し指を立てて、声を上げた。
僕の首に掛かってるOne Heartが微かに揺れた。
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