第12話
僕らはテーブルを囲んでラグマットの上のクッションに座った。
魔女とゾンビ2人とチョッパーと剣心とメイド。なんか笑える。
今日はみんなで好きな食べ物や飲み物を持ち寄った。
莉緒と紗奈はケンタのフライドチキンとポテト。
美笛はミスドのハロウィン限定のドーナツ。
僕はコンビニの肉まん、晴希はスーパーで買った中華のオードブル。エビチリやホイコーローなどが円形の容器に盛ってある。
そして翔人が持って来たのが、やっぱりスーパーで買ったポテチとポップコーンのパーティーサイズと、
「あと、これこれ」と出したのが、なんと缶ビールだった。
「何、翔人、酒買って来たの?」莉緒が咎めるように言った。
「ノンアルコールよ。気分だけでも味わいたいじゃない。いけずなこと言わないの」
「いけずじゃないよ、まったく」紗奈が呆れて言った。
「まあまあ、翔人の気持ちもわからないではないでござる。ノンアルなんだし、まあ本当はノンアルでも飲んじゃいけないでござるが、せっかくのハロウィンなんだから特別に良しとするでござる」晴希が浴衣の腕を組んで言った。
「私、ビールって口にするの初めて」美笛が言った。
「私も」紗奈が言った。
「私はお父さんのもらって飲んだことある。同じノンアルだけど」莉緒が言った。
「じゃあ、私が紗奈と美笛の初めてを奪っちゃうのね。やった!」翔人はずっと女の子口調だ。
「コンプライアンス!」紗奈が言った。
「美笛もなんか言ってやんなよ」莉緒が言った。
「地下TWICEさん、もう酔っ払ってるの?」
その言葉にみんな笑った。
「言うね、美笛ちゃんも」晴希が言った。
美笛が照れてうつむいた。
「何よ、地下TWICEって。地上TWICEよ、地上! それに酔ってない、酔ってない。酔ってるとしたら、美笛ちゃんのかわいさに酔ってる」
「キャバクラに来たセクハラおやじか」莉緒が言った。
翔人は話を切り上げて、
「じゃあ、みんなに回して回して」
ノンアルコールビールを1人1本ずつ回した。
「じゃあ乾杯しよ」莉緒が言った。
「うん。では素敵なハロウィンパーティーにチース!」晴希が缶を持って言った。
「チース!」みんなで声を合わせて言った。
「そうだ、全員で写真撮ろうよ」と莉緒が言うと、
「いいねえ」と紗奈が目を輝かせた。
莉緒が自撮り棒にスマホを付けて、「みんなビールはテーブルの下に隠して、寄って寄って」と言った。
女子3人が座って、男子3人が中腰で、莉緒の「はい撮るよー、3、2、1」の言葉に合わせてスマホの画面に向けてポーズを決めた。
僕はこめかみの辺りでピースサインをした。
撮った写真を見ると、ゾンビ2人と魔女の美笛は、それぞれが右手と左手で頬の所に半分ずつのハートを作っていた。示し合わせてるわけでもなく、3人とも同じポーズだった。
剣心は逆刃刀を振り上げ、メイドは唇をすぼめて投げキッスをするポーズをしていた。
なんか後々、同窓会や何かで会ったらこの写真を見て盛り上がれそうな、楽しい一瞬を切り取った写真になった。
「じゃあ食べよっかー」莉緒がフライドチキンを手に取った。
「うまそうでござる」晴希も手を伸ばした。その手が同じように伸ばした紗奈に触れて、「あっ」と同時に引っ込めた。
「失礼でござった」
紗奈はゾンビメイクをしてるのに、顔が真っ赤になっていた。
「なに、それー、もしかして恋する乙女なの?」翔人はめざとい。
「う、うるせえよ」紗奈がちょっとうろたえて言った。
「やめるでござる。恋愛をこのグループに持ち込むのほ御法度ってござる」
晴希が笑って言った。
その言葉を聞いて、紗奈の顔が少し悲しげになった気がした。
でも、それは一瞬で、
「な、わけねーじゃん。私が好きなのは莉緒なの」と言って、莉緒に抱きついた。
「よしよし」莉緒が紗奈の頭を撫でてあげた。ゾンビがゾンビに抱きついて、頭をなでてもらってる。まるで世紀末の光景だ。
「でも、ノンアルでもビールって苦いでござるよ」
「まあ大人の階段上る、君はまだシンデレラだからよ、そうなのよきっと」翔人が言った。
「なによ、それ」紗奈がツッコむ。
「私のお父さんがいつもカラオケで歌う歌。思い出がいっぱいって曲のフレーズよ」
「翔人さあ、今日一日、ずっと女子の言葉で話すの?」莉緒が言った。
「そりゃ、そうでしょ。こんなにかわいいんだし、TWICEにいるし」
「いねえよ、TWICEに!」紗奈がまたツッコむ。
「でもうらやましいでござるな」ぽつりと晴希が言った。
「ん、なんで?」僕が言った。
「別に、なんでもない」
翔人の美形さがうらやましいのかな、その時はそう思った。
「て、いうかさあ、なんか頭がぼーっとしてきたんだけど。脳がぐるぐる回ってるって言うか」と莉緒が言った。
「どうした、大丈夫?」紗奈が言った。
「え、莉緒ちゃんも? 私もそう。なんか天井がぐるぐる回ってる感じ」美笛も言う。
「マジなの? なしたんだろう」翔人が心配顔になった。
すると莉緒が突然、コトンと床に倒れ込んだ。
僕らはあわてて莉緒のそばに行き、
「どうした、莉緒? 気分でも悪いのか?」と僕は言った。
「心臓は大丈夫?」紗奈も心配そうだ。
莉緒は小さく息を吐いて、
「いや、なんか目が回った感じ。美笛ちゃんが言ったみたいに天井が回ってるけど、悪い気分じゃない。心臓も大丈夫」と莉緒が言った。
「このビール、ほんとにノンアルか?」
晴希が言って、莉緒が飲んでたビールのラベルを見た。
「これアルコール入ってるよ。それも6パーも」
「マジで?」僕が言った。
僕は自分が飲んでたビールのラベルを見た。
「これはノンアルだぜ」
紗奈も自分のを見てみた。
「これもノンアルだ」
「うそだ、全部ノンアル買ったんだぜ」男言葉に戻った翔人も自分の飲んだビールのラベルを見た。
「これもノンアルだ」
「美笛のはどう?」僕は彩菜に言った。
美笛はふらついていたが、自分のビールを見て言った。
「入ってる。アルコール。6パー」そう言った。
「大丈夫?」僕は言った。
「うん、大丈夫。でもちょっとだけハイになってる」
「酔っ払ったんだ」僕が言うと、
「そうだね、生まれて初めて酔っ払った」
「ごめんな、俺のせいで」翔人が謝った。ロングヘアのカツラをかぶった頭でそのまま土下座した。
「ノンアルビールのロシアンルーレットだな。6分の2の確率でアルコール入りが当たる」晴希が言った。
「せめて男子に当たれば良かったのに」紗奈が咎めるように言う。
「多分、ノンアルの中に普通のビールが混ざってたんだと思う。レジのパートの人、一本ずつバーコードを読まずに、一本だけ読んで掛ける6で打ってたし」と翔人が言った。
「1本1本ちゃんとバーコードを読んでたら、こんなことにならなかったのに」晴希が言った。
「莉緒、本当に大丈夫?」紗奈が横になってる莉緒に顔を寄せた。
「うん。心臓はドキドキしてるけど、病気のとは違うってなんかわかるし。美笛ちゃんが言ったみたいにちょっとハイになってる」
横になったまま美笛が、
「ハイになってるからついでに、ちょっと発表してもいいですか?」
「何を発表するの?」と紗奈が訝しんだ。
「私、亜土くんと付き合ってるの」と美笛が言った。
「えっ」みんなが驚いた顔をした。
「私、亜土くんと付き合ってるの……」
美笛はもう一度言い、そのまま眠りに落ちてしまった……
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