第9話
僕ら5人の仲間に、美笛が加わった。
それで莉緒の家にみんなで集まることになった。
僕はこれも◯◯市に一軒しかない、駅から少し離れた所にあるマックに行って、人数分のドリンクとチーズバーガーとポテトを買った。
ここのマックは変わっていて、パイが置いてない。だからホットアップルパイや期間限定の美味しそうなパイを食べることが出来ない。
それがちょっと悲しい。
僕はマックの袋をぶら下げて、H町のはずれにある莉緒の家まで歩いて行った。
もうみんな莉緒の部屋に集まっていた。
「亜土遅いよ、俺がスケボーで行けば良かった」
翔人が笑いながら言った。
「スケボー乗って買って来たら、マックぐちゃぐちゃになりそう」紗奈も笑った。
「じゃあ、お金集めるよ、みんな」晴希が会計係のように言った。
「なんだ亜土のおごりじゃないんだ」莉緒が笑いながら言った。
「かわいそうだよ、それじゃあ」
晴希はみんなのまとめ役的な存在だ。
一人一人から代金を集めて僕に渡してくれた。
美笛は莉緒の右隣に座っていた。少し緊張してる表情だった。そして左隣には紗奈が座っている。
僕はいつも思うのだけれど、ソファーってあまり座って使わないのではないだろうか。
莉緒の部屋でも誰も座らずに、ソファーを背もたれにして、フローリングの床に敷いた大きなラグマットの上にクッションを置いて座っている。
僕もテーブルを挟んで美笛の真向かいに座る。
「今日は美笛ちゃんを紹介する会だから」と莉緒が言った。美笛は莉緒と駅で待ち合わせて一緒に行くと僕にLINEしていた。
「じゃあ、初参加の美笛ちゃんに乾杯しよう」
晴希がドリンクのカップを顔の辺りに上げると、
みんなで声を合わせて言った。
「乾杯!」
その後、翔人が、
「S中ってどんな感じ?」と美笛に聞いた。
「あ、えっ、M中と変わらないと思いますよ」
「うそー、S中の方がゼッタイに女子がかわいいし」
「うるせーよ」紗奈が怒った顔で言った。
「制服がかわいいんだよね、特に胸のリボンとチェックのスカート、いいよねー」莉緒が言った。
「うちらは地味な紺のスカートだし」紗奈が自虐気味に言った。
定番のうちの女子の制服うらやみ話が出た。
「いや、うちの中学の制服、悪くないと思うよ。紺のスカートって、ロリコンのおじさんが喜ぶと思うし。頬につけてスリスリしたりして」晴希が言った。
「ねえ、ケンカ売ってる?」紗奈が言った。
「冗談だよ、ロリコンのおじさんの気持ちなんてわからないし、わかったらキモいし」
「そうだね、わかりたくないね」莉緒が笑って言った。
僕らはいつもこんな感じだ。
男子3人がテキトーなことを言って、女子2人を怒らせるというパターン。
美笛も少しずつ馴染んできてるみたいで、笑顔を見せている。でもあの小首を傾げた笑顔や、おどけてペロッと舌をだすしぐさはしない。あれは僕のためだけのものだ。
晴希と翔人は歓迎ムードだ。でも紗奈はまだ美笛を警戒してる感じだった。親友を取られてしまうと思ってるのだろうか。
「今日はみんなにお願いがあるんだ」莉緒が真面目な顔で言った。
「なんだ、なんだ、どうした?」晴希が言った。
「私、また11月に検査入院するんだ」
「えっ、この前したばっかじゃん」翔人が言った。
「うん、お父さんがこの前、札幌の病院に呼ばれて、担当医に色々話を聞かされたみたい。怖いから教えないでって言ったんだけど。
でも、それで急に入院って、なくない? 私もうヤバいかもしれない」
「莉緒」紗奈が美笛の方をチラッと見て言った。
「美笛ちゃんは私の病気のこと知ってるから大丈夫だよ」
「はい」
「そうなんだ」紗奈はちょっと納得できないような表情をした。
「だから今度のハロウィンの日にパーティーしないかな。みんなとわちゃわちゃ出来るのも、最後かもしれないし」
「最後とか言うなよ」僕は思わず語気を強めてしまった。
「まあまあ。俺は大丈夫だよ。ハロウィンパーティーやろうよ」晴希が言った。
「でも俺たち、一応、受験生だし。学業第一だぜ」翔人がみんなを笑わせようとして言った。
「あんたの口から学業第一って言葉が出るとは思わなかった。彦摩呂が料理食べて、クソまずいって言うくらいありえないんだけど」莉緒が言った。
「そうだお前、受験しないで働けよ」紗奈が言った。
「冗談だよ、俺も参加するしかナイトプール、ポンポン!」
「それ、もう死語だから」莉緒が笑った。
「美笛ちゃんは大丈夫?」翔人が言った。
「私もいいんですか?」
晴希が美笛に「いいに決まってるし。あと美笛ちゃん、もう敬語はやめよう。俺たち仲間なんだし。ねっ」と言った。
「はい」
「はいじゃなくて、うん」
「あ、あ、うん」
「晴希、教育厳しい」莉緒が言った。
「Sだからね」
「そういう奴ほどM なんだよ、縛ってムチで叩いてやろうか。やけどするほどローソク垂らして」紗奈が笑って言った。
「それは勘弁して下さい。女王様」と言って土下座する晴希の背中に紗奈は足を乗せて、
「これがいいんだろ、ほらほら」
「ああ、女王様ぁっ!」
2人の小芝居にみんな大笑いした。莉緒は涙を流して笑ってた。
はひとしきり笑った後「でも仮装はどうする?」と僕が言った。
「誰が何するか決める? それとも当日のお楽しみにする?」紗奈は莉を見た。
「当日のお楽しみがいいな。なんかその方が楽しい
し」
「じゃあ、それで決まりね」晴希が言った。
莉緒が「もし当日までに何かあったら困るから、美笛ちゃん私達のグループLINE入って」
「はい、あ、うん」
莉緒が美笛を招待して、美笛は僕らのグループLINEに入った。
「何かあったらLINEして」
「うん」
僕らは8時ちょっと前に莉緒の家を出た。
「危ないから美笛ちゃんを送ってあげて」と莉緒に言われて、僕はみんなと別れて美笛と一緒に歩いていた。
「今日、どうだった?」僕は美笛に聞いた。
「うん、楽しかった。ちょっと緊張したけど」
「みんないい奴ばかりだよ。ちょっとクセが強いけど」
美笛がクスッと笑った。
「晴希くんだっけ、良い人だよね。色々、気を遣ってくれて」
「うん、あいつは俺たちのまとめ役だからね」
「あと翔人くんってモテそう」
「たしかに」スケボーやってるだけあって運動神経は良いし、顔も韓流アイドルみたいだった。
翔人のことを好きな女子を何人か知ってる。でも翔人は誰とも付き合ってなかった。今はスケボーに集中したいからだそうだ。
その時、車道で僕らのそばに横付けされた車があった。黒いワンボックスカー。
「あ、お父さんだ」美笛が言った。
パワーウィンドウが降りて、顔が見えた。スーツ姿のとても真面目そうな人だ。
「美笛お帰り。隣の人は?」
「同じ塾の人」
「今日は塾じゃなかったよね」
「あ、うん。そこで偶然会って」美笛は嘘をついた。
美笛のお父さんは、僕を弓道の的に見立てて射るような鋭い視線を向けた。ど真ん中を射抜かれそうだ。
「そうなんだ、ありがとう。でも、ここで大丈夫だよ。美笛は乗せて行くから。君も良かったら乗って行くかい? 家まで送るよ」
「あ、もう家近いから大丈夫です」
僕は思わずそう答えた。車の中で色々と聞かれて、美笛のついた嘘がバレてしまうのが怖かった。
「そっか、じゃあ美笛乗りなさい」
「うん」そう、うなずいた後、
「じゃあね」と美笛はお父さんに見えないように、胸の辺りで僕に小さく手を振った。僕も真似して手を振った。
車は静かに走り出した。何気なくナンバープレートを眺めてたら、その数字は美笛の誕生日だった。
偶然なのか? 美笛のためにこのナンバーにしたとしたら、よっぽど美笛を可愛がっているのだろう。
そう思うとちょっと怖くなった。美笛を溺愛しているなら、僕は的だ。やはり的にされて射抜かれても文句は言えない。
僕はお父さんとはあまり会わずに済みますようにと心で祈った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます