第2話
莉緒の病気は単心室症という。
ネットで調べたのだけど、心臓の中の右心室か左心室のどちらかが異常に小さくて、どちらか一つの心室に、三尖弁と僧帽弁の両方からの血流を受けている比較的稀な先天性の疾患だそうだ。
だからフォンタン手術というのを受けて、莉緒の場合は右心室の中に左心室を作り、血流を正常な人のように流動させている。
この手術を莉緒は2歳の時に受けた。
フォンタン手術をすると、しないよりも
生存率が69%上がるという。
フォンテン手術の成功率はかなり高く、
莉緒も成功したけれど、
経過観察で3ヶ月に一度は札幌の、心臓の名医のいる病院まで行かなければならない。
そして1週間ほど入院する。
それ以外にも、血流のせいで具合が悪くなり、学校を休むこともある。
だから勉強が遅れてしまっている。
僕は莉緒が20歳まで生きられないと、いろんな人から聞かされていた。
よく遊んでくれた近所のお兄さんや、口さがない商店街のおばさん、幼稚園で一緒だった友達のお母さん、それに僕の両親の口からも聞いたことがある。
みんなが、かわいそうな莉緒ちゃんと言った。
母は、
「莉緒ちゃんはかわいそうな子だから、親切にしてあげて。でも、好きになってはだめ。
つらいけど、亜土に好きになられたら、莉緒ちゃんはずっと亜土と一緒にいたいと思っても、それが出来ないから、もっとつらい思いをしてしまうの」
残酷だけれど、莉緒が死ぬ前提で話してる。
僕はその母の言葉が、心に突き刺さったまま、抜くことも出来ずに今日まで生きてきた。
僕が莉緒を好きになると、莉緒がつらい思いをする。僕よりも莉緒の方が、いっぱいいっぱいつらい思いをする。
それは子供の僕にとって衝撃的な言葉だった。
僕は莉緒にそんなつらい思いなんてさせたくない。
だからそれ以来、莉緒にはわからない程度に、距離を置くようになった。心と心の間に薄膜をはさむみたいに。
莉緒を絶対に好きになってはならない。
もうこれ以上、莉緒に心臓のこと以外の、つらい荷物を背負わせたくない。
でも僕は背負わせていたのだ。信じられないほど、重く、つらい荷物を。
莉緒の華奢なその体に。心に。
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