第1話

 莉緒が札幌土産にくれたのは、ハートが半分に割れたのがぶら下がってるネックレスだった。


「なぜにこれ?」


 僕は莉緒の部屋の椅子に座って、そう言った。


 莉緒は検査入院で札幌に行っていた。


 僕は学校を休みがちな莉緒に、勉強を教えるというと偉そうだが、習った所を莉緒にノートを写させてあげながら、わからない部分を説明した。


 莉緒の父親が小遣いをくれるのが、目的なのだけれど。


 もう中三になった僕らが、部屋に2人きりで居ても、莉緒の両親は心配しない。

 

 莉緒と僕とは幼なじみだからだ。


 莉緒はふーとため息をつき、そんなこともわからないの、バカだね君は、といった顔をして、


「私の心臓は右心室と左心室が一緒だから。そんな人とは違う心臓を持ってる私の、つらさを半分、亜土(あど)が受け取ってくれたら、少しは気が楽になるかなと思って」


「俺が莉緒のつらさを半分受け取る?」

 かなり重たいことを言われている気がする。


「そうしてくれたら、うれしいってこと。このネックレス2つ合わせて1つのハートだから、One Heartって名付けたの。かっこ良くない?」


「そっかあ?」


 莉緒は首に掛けていた同じネックレスを見せながら、

「してくれるとうれしいな」と言った。


 僕は莉緒がくれた半分のハートのネックレスを首に掛けた。


「亜土、よく似合ってるよ。私たちって翼を片方失くした天使同士で、大事な片割れを探してるような、そんなファンタジーな感じよね」


「どんな感じだよ。ゲームかよ」

 僕は苦笑いをした。


「私は自分の未来が見えない。想像が湧かない。明日がどうなるかもわからない。でも亜土の未来なら想像が湧く。いくらでも泉のように湧く。


中学卒業したら、こんな高校生になって、そして大学生になって、就職して……みたいに。


そんな亜土に託したいんだ。私の、あるかどうかもわからない未来を。


確実に未来のある亜土に引っ張って行ってもらいたいんだ。この手を。落ち込んで、どうしようも無い泥沼に落ち込んだ日とかに」


「俺に出来るかな。そんなこと。ただの幼なじみだぜ」


「大丈夫。亜土なら出来るよ。昔の言葉で言えば腐れ縁? 私と出逢ってしまったことを、後悔させてあげる」


「もう充分、後悔してるから」

 僕は笑って言った。


「その亜土の笑顔が好きなんだ。見せてくれてありがとう」

「どう、いたしまして。なんのお構いもできませんで」

「おばちゃんか」莉緒も笑った。


 僕と莉緒は幼稚園の年長組から一緒で、同じ小学校で中学も同じだ。確かに腐れ縁かもしれない。何かあれば支えてあげたい、そう思ってる。


 でも僕はこのネックレスを莉緒の前でしか、することはないだろう。


 僕が莉緒に恋をすることはないからだ。

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