ベリング・タイプ
フォトンカノンでタワー外壁を破壊し、内部――ショッピングエリアへと侵入する。
この任務を受けたのは、惑星ロピコ制圧に投入されたアームシップ中隊に属する三機であった。
これは、小隊として区分される編成であり……。
いかに広いといえども、タワー内の一ブロックに過ぎないショッピングエリアで稼働可能な最大数である。
「ハワード船長も大げさだよな。
まさか、生身の相手一人に、ベリングを三機も投入するなんてよ」
内部へ乗り込んだアームシップの内、一機のパイロットがそうつぶやいた。
――ベリング・タイプ。
青の海賊団を引き継いだハワードが、心血を注いで開発したアームシップである。
特徴的なのは、単眼型の四角いカメラアイ……。
これは、コストを重視した結果であり、結果として本機は、いかにも簡素な……生産性を優先した面構えとなっていた。
実際のところ、簡易なのはデザイン面のみではなく、機体を構成する各パーツも、非常に広い品質基準で製造された粗悪品である。
ゆえに、隣へ立っているベリング同士でも、各部の性能は大幅に異なっていた。
はっきり言ってしまえば、兵器としても、工業製品としても、失格であるといってよい。
だが、青の海賊団に属する者たちの本機に対する評価は、極めて高かった。
銀河における力の象徴――アームシップ。
それが、ホテルに頼らず独自生産可能というのは、野心に燃えるはぐれ者たちにとって、極めて魅力的な話なのである。
また、通常の海賊団においては、かなりの才覚か、組織に対する高い貢献がなければ受領できないアームシップを、青においては比較的低いハードルで乗り回せるというのも、魅力的であった。
多少、性能が劣るくらいで、なんだというのか。
独自製造したアームシップがズラリと隊列を組む光景は、一海賊団による銀河統一というハワードの夢を、現実的なものとして感じさせたのである。
青の海賊団を象徴する存在であり、構成員にとっては――誇り。
それこそが、ベリング・タイプというアームシップなのだ。
だからこそ、たかが生身の侵入者相手にこれを三機も投入することについては、思うところがあるのであった。
「それだけ、歩兵連中が不甲斐ねえってことだろう。
知ってるか? 島の中に潜伏させた連中、タワー占拠に合わせて祝杯を上げようって話してたらしいぜ?」
「予備戦力っていう自覚がないんだろ?
だから、アームシップを渡されないんだ」
「違いない。
あいつら、青の一員っていう自覚が足らないんだよな」
僚機のパイロットたちと共に、せせら笑う。
いかなる組織においても、パイロットというのは選ばれたエリートであり……。
青の海賊団に属するパイロットたちは、とりわけその思考が強い。
他の構成員同様、彼らの前身は、ストリートチルドレンや辺境惑星の食いっぱぐれなどたちだ。
本来、高度な訓練や教育が必要となるアームシップのパイロットになど、なれないはずの者たちである。
それが、青の海賊団に加わった結果、戦場の花形であるパイロットの職を与えられた……。
組織に対する忠誠心と帰属心が高まるのは当然であり、それと比例する形で、他職の構成員に対する侮蔑心が強まっているのだ。
「仕方がねえ……。
連中の尻拭いを、してやるとしますか」
「そうだな……。
それで、どうする?
こう狭くちゃ、身動きが取りづらいぜ?」
仲間の一人が、そう言ったように……。
ショッピングエリアの天井は、ベリングの頭部が接するか否かというギリギリの高さであり、周囲は様々な店舗が存在する。
アームシップが三機まとまって行動するには、いかにも狭苦しいと思えた。
「バラけて動こうぜ。
どうせ、一機でも相手を見つけられれば、ひと息に仕留められるんだ」
「そうだな。
ただ、フォトンカノンは使うなよ?
ロピコが青の海賊団に加われば、ここはオレらの縄張りになるんだからよ」
「ま、そうだな……。
つっても、もう大穴開けちまったけどよ」
ベリングの頭部を巡らせてみれば……。
自機のフォトンカノンによる砲撃を受けて開いた穴が、ようやくセーフティシャッターによって閉じられつつある。
「確かに……。
でもまあ、これ以上は傷つけないようにしようってことで」
「おう」
「それじゃ、オレはこっちだ」
方針は、それで決まり……。
各機が、それぞれにショッピングエリア内へと散っていく。
即座のカバーが不可能となる散開は、相手の思い通りであることも知らずに……。
--
「へ……。
セレブ様たちが、びびった顔でオレを見上げてやがる。
悪くねえ、気分だな……」
ショッピングエリア内の中央部に存在する噴水広場……。
そこへ集められ、歩兵連中の手によって見張られている人質たちを見ながら、嗜虐的な笑みを浮かべた。
彼れらはいずれも、焦燥した顔をしており……。
ベリング・タイプを見上げる目は、恐怖に染まっていた。
無理もあるまい。
先の破壊による轟音……。
そして、それで生じたショッピングエリア内の暴風で、すっかり怯え上がっているのだ。
何しろ、自陣営であるはずの歩兵たちですら、少しばかり顔を引きつらせているのだから、人質たちが心身から震え上がるのも当然であるといえるだろう。
『お前たち、しっかりやれよ』
外部スピーカーを通じて、そう告げると、見張り役の兵たちが盛んに手を振ってくる。
「頼んだぜー!」
「間違って、こっちにフォトンカノンを撃ってくれたりするなよ!」
『へ、誰に言ってやがる!』
そこまで言って、方向を変えた。
もとより、兵や人質の目があるこの辺りに潜伏しているとは思っておらず……。
これは、役立たずな歩兵共に活を入れるための行動である。
「こうやって、ケツ叩いてやらねえとすぐにだらけるからな。
……と、バルーンか」
つぶやきながらベリングを歩かせていると、カメラが宙に浮かぶ大型のバルーンを捉えた。
確か、どこかのキッズブランドが採用しているマスコットキャラクターだったか?
二足歩行する猫をデフォルメした、愛嬌溢れるデザインだ。
「このブランドの服、バカみてえに高いって聞いたことがあるな……」
捜しているのは、侵入者であり、マスコットバルーンではない。
そのため、すぐにバルーンから目を逸らし、小規模な町とも呼べる規模の店舗群を注視していたのだが……。
まさに、それが命取りだったといえるだろう。
バルーンの後ろ……。
ベリングのカメラが捉える映像からは、完全な死角となっていた部分……。
そこへ、捜し求めていた侵入者が強靭な握力で張り付いていたのだから……。
そして、丁度真横を通ったベリングの胴体へ、侵入者は果敢に飛びついたのである。
生産性を重視し、簡略化されたベリングのセンサーがそれを感知することはなかった。
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