第31話 夢の舞台へ

 朝起きて歯磨きしてシャワーを浴びて、最低限のスキンケアをして、その間10分。

 『戦法もどき』とも呼べる、戦法のなりそこないを駆使すれば、体感時間というか己の時間を引き伸ばしたり色々できるんだ。

 半年前位からまともに使えるようになった。

 瞑想しているうちに力が増したみたいだ。だけど、試合で使えるほど強くはない。

 

 日常生活で使うのがやっとだ。

 試合中に使うには単純に出力が足りないのと、滾っているから集中が『霧散』してしまう。


 解析班の分析によると、戦法に昇華するのは難しいという。

 いくら高レベルとはいえ、高校の部活での分析をどれだけ信用できるかという問題はあるが、わたしの中でもこのチカラは戦技においてはあまり使えないか、使えても最晩年に『トリックスター』とも呼ばれる役割になったときにようやくといったところだろう。

 それに、エース……いや、最低限二番手でいられなくなったら潔く引退するつもりだしね。


 まあそんな話はどうでもいい。

 この戦技においては弱くとも、かなり便利なチカラによって即効で些事を終えられた。


 ……あ、メッセージ来てる。

 恋人の三人から、友達から、仲間たちから。

 そして応援に来てくれている二軍三軍メンツから。


 ひとりひとりにメッセージを送る。


 そして最後に恋人三人が残った。

 どれも頑張ってね、大好きだよ、安心して、一緒に頑張りましょう、そんなものだった。

 マリーさんと梨花ちゃんにはすぐ会えるから、文章の上ではちょっとだけ軽めに返しておこう。



…………


 とは言っても、今日からセブンスセンス本戦が始まるから、ちょっとだけ長くなってしまったかもしれない。

 まあ、良いとしよう。


 夕陽には……かなりの長文を送ってしまった。

 無理やり学校休む覚悟でチケット取りにいったのに、一般席は抽選が外れてしまったようなので、テレビの前での観戦だからね。


 わたしはプロではないし、この大会は一応高校の全国大会でしかないから、わたしが席をプレゼントすることは難しい。


 しばらくすると、返事が帰ってきた。

 長いな。そして、とても重くて可愛らしかった。


 内容は……私の中にしまっておこう。

 ちょっと過激な愛の表現も含まれていたからね。そこがまた良いんだけど。


 それからいても経ってもいられなくなり、電話をしようかとも思ったが……それは我慢した。

 これは誓い(ゲッシュ)、一種のルーティンだ。

 己の中に誓いを立てて、それを遵守する難易度が高いほど強力な力や精神性を得られる。

 逆に破れば、弱体化する。


 実際にはそんなことはない。だけど、悪魔討伐隊の前身……というか、本来の役割を果たしていた頃に使われていたおまじないであり、選手の間では今でもポピュラーなルーティンだった。


 そんなことはないと言っても、まったくないというわけではない。気の持ちようという言葉もあるし、『戦法を使える選手』、『強力な選手』にとっては特に強く作用することも判明している。

 

 だから、電話するとしても、優勝したあとか、我慢できなくなっても決勝の前。


 それまではこのアプリで連絡を取ろう。


 ……あ、駄目だ。声が聞きたい。

 いやいや、我慢、我慢……無理を押してスマホに録音してもらった夕陽の音声を聞こう。


 スマホにイヤホンを接続し、言葉を聞く。わたしだけに向けられた愛情たっぷりの言葉だ。実に効く。

 

 ……落ち着いた。

  

「よし、行こう」


 準備を終え、食事を取って……セブンスドームへと移動した。


「……」


 控室で今行われている試合が映し出されたモニターを囲みながら、異様な雰囲気が流れていた。


「ふふ、みんな、緊張してるの?」


 みんな緊張を隠せないでいた。当然だろう。一生のうち最高の晴れ舞台なのだから。


「緊張してるの?って……エース様は緊張してないのかよ?」


「わたし?うん、してるよ。すごく緊張してる」


 緊張していないといえば嘘になる。

 心が強いとは言えないから。無理やり押し殺しているだけだ。


「なんだよ、そりゃ……ははは」


 このやり取りにより、みんなの緊張が幾分解けたようだった。


「さあ、もうすぐだよ。全国にわたしたちの強さを知らしめよう?できたらきっと、楽しいよ」


「ふふ、そうでございますね。アオちゃんとなら、きっと……優勝だってできるはずですから」


「うん。……あ、勝負がついたね。これから小休止が挟まれて、いよいよ試合だよ。……絶対に勝とう!」


「応!!!」


 檄を飛ばすと、みんなから声が返ってきた。

 やる気は十分みたいだ。


 よし……行こう、全国の舞台へ。

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