第29話 選手行進

 あれから二週間ほどが経過し、新幹線で奈良まで移動した。

 そして、高校戦技の聖地にしてプロチーム『久佐(きゅうざ)レッドウェイブス』の本拠地であるセブンスドームへと足を踏み入れた。

 今日は選手行進の日だ。


 とは言っても、それらはすべて終わらせてきたんだけどね。


 今は、中継を録画で見ている。


『福岡の雄!全国トップレベルの選手が集う名門福岡天帝!今大会は三年となった天王寺選手の活躍によってどこまで勝ち進めるかが注目されております!』


『天王寺くんねぇ。彼は特別素晴らしいよね。天味の平沢さんや王剣の佐々木くんにも負けずとも劣らないすばらしい選手だと思うよ。なにより僕の母校だからね、最注目だよ、はっはっは』


『福岡天帝は名選手を数々輩出していますからね。それに、夏大会優勝回数も歴代一位ですからね。今大会も注目の的となるでしょう』


 天王寺、天王寺祐也か……。うん、素晴らしい選手だと思う。

 佐々木アンダーソンよりやや強くて、わたしよりは弱い。それくらいのとんでもない選手だ。


 成長曲線は本当に最強で、12〜40までずっと大幅な成長を見込める上に、怪我にも強いという神に愛されたような存在だろう。

 その上、実力では上回っていると言っても選手としての特徴的にタイマン張ったら……悔しいけど、わたしでは負ける可能性も高い。


 彼は技術で言えばトップレベルからするとさほどでもないのだが、208cmの長身と凄まじいまでの圧倒的暴力を体現した選手だ。

 身長は日本のプロにはこれ以上の者はいないし、パワーだけでいうなら既にプロでも上位層だ。


 いきなり一軍で通用するだろう。対策を練られてからが本番で、そこで手を変え品を変えと出来る器用さがあれば最強にもなれる。

 ……まあ、チカラも技術もまだまだもっとずっと成長するわけだから、そんなものなくてもいいんだろうけど。

 

 154cmという戦技選手としては致命的なまでに低い身長であるわたしでは、パワーの出力や技術では勝っていても、体格という一点の差だけで有利を覆されかねない。


 195cmくらいの相手までなら、正直体格差はどうとでもなる。

 200cm超えのスーパーマンであっても、技術やパワーの出力や戦法によって覆せる。いや、圧倒できる。


 でも彼は、私にやや及ばない程度の圧倒的な力を持っている上に、戦法も単純かつ強力かつ練り上げられた膂力強化だから、天敵と言えるタイプだろう。


 だけど、今大会では敵にはなり得ない。

 他の選手との差が酷い。


 いや、彼のチームメイトだって一流だ。


 だけど、高卒でいきなりプロになれるレベルの選手はいないし、王剣みたいに高校戦技特化というわけでもない。


 だから、総合力の差で叩き潰せる。


 そんな事を考えている間にも、入場は進んでいっていた。


『北海道代表の札幌流陣高校が入場してまいりました。今大会が初出場となるようですが、どう見ますか解説の丸山さん』


『……うん、エースの氷室くんを中心にまとまったチームだと思うよ。ぜひ台風の目になってほしいところだね』


 札幌流陣は正直、神奈川大会決勝で戦ったあのチームより一段弱いと思う。


 だけど、エースの氷室の戦闘スタイルはなかなかに独特だし、同じ氷の戦法を扱う者として彼の戦法の深度は驚愕に値する。


 地力が違いすぎるから、わたしの戦法の方がずっと強いけど、磨かれた練度で言えば彼のほうがずっと高い域にいると思う。


 もう一皮剥ければなぁ……と思わざるを得ない。

 プロに入ったら、いつか合同自主トレにでも誘ってみようかな?


『そして今大会優勝候補となっております、神奈川県代表、天味学園です!』


 そして、わたしたちの出番が来た。

 明らかに声援が多い。

 優勝候補筆頭であること、わたしと梨花ちゃんがいることが大きいのだろう。


『平沢ちゃんと国見ちゃんがねぇ。飛び抜けてるよね。他の選手ももちろん凄いよ。二人抜きに考えても全国トップクラスだと思うね。でも、この二人がねぇ。国見ちゃんは三年になったときが末恐ろしい上に、今の時点で凄まじい実力を持っているし……なにより、平沢ちゃんが、ねぇ?』


『平沢選手はTS病により、一時選手生命を断たれようとしておりましたが、完全復活どころかさらなる力を付けて戻ってきましたよね』


『あの強さであんなわけわからない可愛さしてるんだからね。やっぱり人気は出るよね。僕なんか現役時代スーパースター級の活躍をしていたのに、ブサイクだからってあんまり人気なかったからね。羨ましいよねぇ』


 解説者の方のその言葉には怨念が込められていた。

 彼は今でこそ普通のおじいちゃんといった感じなのだが、若い頃は極度の老け顔な上に顔立ち自体も……まあ、はっきり言って酷いものだった。

 だから、どれだけ活躍しても人気が出なかったんだ。


 今になって成績やスタッツが並外れていたことに注目されて、ネットを中心に大レジェンド扱いされているが、当時はひどい扱いだったとはよく聞く。


 顔立ちに恵まれるのも、スターの条件の一つ……か。

 こういう話を聞くと、この体になれてよかったと思わざるを得ない。

 元の顔でも全く活躍できなくても厄介な顔ファンが付くくらいには人気が出たと思うけど、今はそれ以上だから。


 実際、会場の歓声も一気にボルテージが上がっていた。


 ……何考えているんだろう、わたし。バカなことは考えないでおこうか。


『そして大トリを飾るのは、絶対王者・王剣学園!大阪大会を圧倒的な力で勝ち進んできました!』


『フフフ……彼らはとんでもない強さだよね、本当に。世間では彼らを叩く声もあるし、言いたいことはわかるんだけど……元競技者としてここまでの活躍ぶりを見せつけられたら楽しくて仕方ないよ。個人的には彼らの連覇を願っているかな』


『なるほど、特に注目の選手は?……やはり?』


『うん、もちろん佐々木くんだね。あの子の才能は本当凄まじいよ。だけど、真に注目すべきはセブンスセンスへ全てを捧げた指導方針じゃないかな。その指導のお陰で、彼らは総合力最強の天味よりもさらに強い。世間ではプロで大成する選手がいないとか言われてこの指導方針が叩かれているみたいだけどね、眼の前の勝利にすべてを捧げる……実に良いじゃないか』


 実を言うと、わたしはその指導方針は好きじゃなかったりする。

 だけど、敵にすると本当に厄介だから……見方も変わってしまった。


 ともかく、そんなこんなで選手行進が進行していき、終わった。


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間が非常に開いてしまい申し訳ありません。

他の小説のリメイクを書いていたりしていたら遅れてしまいました。

ここから高校編終了まではあまり休まずに更新し続けたいと思います。

これからもよろしくお願いします。

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