第28話 蹂躙し、見据えるは大敵

 選手行進が終わって一時間半後、ついに第一試合がはじまった。

 わたし達はドームの観客席で試合を眺めていた。

 

「……神奈川大会前年度準優勝校だ。貴様らにも馴染みはあるだろう?」

 

 前年、わたしがいなかった大会にて決勝で戦った高校が一回戦第一試合を戦っていた。

 ……レベルはかなり高い。

 昨年やその前の神奈川のレベルははっきり言って高くはなかった。

 だが、今年は見違えるように高かった。

 

 全体的なレベルが特別最も高い福岡大会ほどとは言わないが、そこでも十分戦っていけるほどの実力者たちだろう。

 

「どう思うね。勝てそうか?」

 

 監督がそう問うてきた。

 

「正直、負ける気はしませんね。エースサマと国見ちゃん抜きに考えても勝てると思います」

 

 答えたのは芦田だった。

 ああ、そうなんだ。負ける気がしない。負ける可能性が『ない』。

 わたしと国見ちゃんを抜きにしてようやく勝負になるレベル。

 それにしたって負けの目はほとんどない。

 

「そうか。よくぞそこまで育ってくれた。この世代はあまり俺の育成が嵌まらなかった。それゆえ最初は心配していたが……お前たちは勝手に育ってくれたな。それはそれで実に目出度いことだ。ここ半年ほどでいきなり強くなったので驚いたのだぞ」

 

 監督は実に楽しそうにくつくつと笑っていた。

 心配事は絶えなかっただろう。

 ……主にわたしのせいで。

 選手たちが育たなかったのはわたしが萎縮させてしまっていたからで、そのわたしも女になったことで一度はチカラを失った。

 

 本当に申し訳ないが、謝る気はない。わたしの『せい』であってもわたしが『悪い』わけでもないし、謝ってどうにかなることでもない。

 それに、結果的には育ったのだからこれで良い。

 

 それから試合を眺め続け……一日目が終わった。

 

 神奈川の各地で一試合目の試合が行われ、それぞれの勝敗が付いた。

 そして次は二回戦。この試合から闘うことになった。

 

 

 ……とはいっても。

 

『なんという強さ!これが天味の真の実力か!次々に対戦校をなぎ倒していきます!』

 

 相手になる高校がない。

 そしてそのまま決勝となり……。

 

「勝負あり!勝者、天味学園!」

 

 会場は大いに沸いていた。

 圧倒的な実力によって、前年度準優勝校を蹂躙してセブンスセンス本戦出場を決めたのだからこうもなるか。

 もっとドン引きされても仕方ないと思っていたんだけどな。

 

 ……神奈川県大会は余裕で優勝した。

 まあ、実力差からして、全国でも王剣以外は戦いにもならないところばかりだから当たり前だけど。

 

 嬉しいかと問われれば、まあ嬉しいよ。

 セブンスセンスの舞台にまた立てるのだから、嬉しくないわけがない。

 だけど、いささか強くなりすぎてしまった感があった。

 あまりにも傲慢な願いなんだけど、ある程度実力が拮抗しないとヒールにされるかもしれないから嫌なんだよね。

 

 それでも、もっと強くなりたいと言う願いは未だに消えない。

 アメリカのプロで今すぐ活躍できるレベルのチカラは流石にまだ持ってないから。

 わたしが目指す場所にはまだ足りなすぎる。

 

 閉会式やら、バス移動やらの諸々を済ませて自宅に帰る。

 スマホで他の大会の結果を覗く。

 

 ……大荒れとは行かなかった。

 どこもほとんど順当な高校が勝ち進んでいるようだ。

 もちろん、王剣も圧倒的な勝利を得ている。

 

 試合の内容を見たが、相手校とあまりにも差がありすぎて実力をちゃんと測れなかった。

 

 もっとも、向こうもこちらの分析はできていないだろうが……。

 

 他に気になる高校は……あるにはあったが、選手個人に気になるところがあるだけだったりして、全体的にみるとどこもうちには及ばない。

 やはり敵は王剣だけだった。

 

「……」

 

 スマホを置いて、ベッドの上であぐらをかいて目を瞑る。

 

 ……今度こそ、勝てるか?

 秋に負けたあの頃。その十倍は強い王剣に、勝てるか?

 

 心を律する。心が弱いわたしにそんな事はできるはずはない。心がグラグラと揺れている。

 怖くて仕方ない。負けるのが怖い。期待を失うのが怖い。……愛を失うのが怖い。

 個人の力量では王剣のエースの力はまた抜き返したはずだ。

 そのうえで梨花ちゃんもいる。

 

 だが、敵は全体的に凄まじい力を持っている。

 エースが飛び抜けているが、ただでさえ高い彼らの実力は、高校戦技に特化した指導を受けたことにより、セブンスセンスにおいては無敵の力を発揮する。

 

 勝利のみを思い描け。だが、全て都合良く考えたりはするな。

 

 息を吐く。吸って、吐く。

 

 二週間後から新幹線移動になる。弱いところは心の奥底に秘めておこう。

 

 ……おそらく天味は王剣に負けている。

 それは単なる実力差だけではなく、大舞台の経験だったり、高校戦技に特化した指導によるものであった。

 普遍的な実力だけで言えば、わたしと梨花ちゃんが平均値を大きく引き上げているせいで……やや勝っているのだろう。

 だがそれでも、セブンスセンスの王者は彼らだ。圧倒的な才能をこの大会に捧げた天魔たち。

 

 ならば、それを圧倒的な力でねじ伏せよう。

 

 ……王座を寄越せ、その座はわたしたちにこそ相応しい。

 

 決意を決めて、目を見開き……笑った。


――――――――

とても大きな地震がありましたが皆様大丈夫でしょうか?

私は他人にとやかく言えるような人間ではございませんが、それでも言わせてもらうと……予断を許さない状況が続いておりますのでとにかく命を大切になさってください。

どうにかお気をつけください。

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