第三章 天命、在るか否か

第27話 晩餐

 明後日。いよいよ明後日。最後の夏の予選が始まる。

 はっきり言って、今大会は王剣以外は眼中にない。つまり、県大会は余裕で突破するつもりだ。

 そう言うと調子に乗りすぎだと批判されるかも知れないけど……負ける要素がなさすぎるんだよ。

 個人の能力で今の私を上回っている選手は、高校生以下という括りの中では一人もいない。

 世界を見回してようやく片手で数えられるだけの数現れるといったところだろうか。

 流石に海外の高校戦技は門外漢なのでなんとも言えないけど。

 

 流石に歴代の戦児を集めてきたら上の人達も多いだろうが……この世代においては誰も比するものはいない。

 

 そのうえでわたしとも比する化け物である梨花ちゃんがいて、優馬も芦田もプロ注の逸材。

 あとの二人……五田(いつだ)と師島(しじま)だって全国レベルでも十分高いレベルを誇っている。

 王剣以外には負ける要素なんて、一つもない。

 

「ラストスパート!行こう!」

 

 監督に言われるまでもなく、さらなるトレーニングの号令をかける。

 あんまり負荷をかけすぎるのも良くないけど、こういうのは自信が大事なんだ。

 『自分はこれだけのトレーニングを積んだから確実に強くなっている』という錯覚を与える。

 それが今の私の仕事だろう。

 

「応ッッ!!!」

 

 チームメイトたちは威勢よく声を上げて走り込みについてくる。

 


 

「良し!今日の練習は終わり!後は各々うまくやってね」

 

 全体練習が終わり、そう声をかける。

 だれも帰る気がないのはいつものことだけど、自主トレも普段より熱が入っている。

 明日からはバスで横浜に移動して、プロの本拠地を除くと県内最大のドームに行くことになるからなあ。

 私達はシードだから、実際に闘うのは明後日だけど……選手行進と初戦は明日だからね。

 他校の試合を見ることにもなるし。

 

 わたしはその様子を眺めながら刀で演舞を披露する。

 誰も見ていない。梨花ちゃんですら本気で負荷をかけに行っている。

 それだけ本気なのだろう。

 

 その様子を見て……少しだけ満足した。


 

 そしてその帰り。

 

「よう。あんまりにも凄まじい舞をしていたから、声かけるか迷ったんだぜ」

 

 優馬に声をかけられた。

 見てみると、一軍メンバー……ベンチメンバーを含めたフルメンバーが揃っていた。

 見れば、二軍メンバーも一部いた。

 マネージャーもだ。

 

「あっ、みんな。……どうしたの?」

 

「いや……なんだ?俺等の殆どはこれが最後だろ?っつーことで、最後になんか思い出づくりとして一緒にハンバーガーでも食ってみてえなあと思ってよ。ほら、俺らってかなりガチだったろ?だから群れてそういうこととかしてなかったじゃん?」

 

 芦田がおどけながらそう言う。

 たしかに……そういう思い出はあまりないなあ。

 

「……そうだね。うん、良いね。行こう!」

 

 栄養に関しては……一日くらいなら良いだろう。

 これが常態化すれば問題だけど。

 

 もう日も暮れた時間帯だから補導されないか、という心配はあるかもしれないけど……そこらは監督について来てもらうことでなんとかなった。

 ついでに監督の奢りらしい。

 ありがたいね。

 

 そして着いたはファストフード店。

 事前にスマホアプリで注文はされているらしく、着くなりすぐに届いた。

 

「あむ。……んぐ。ふう……こういうのもたまには悪くないかもねぇ。ふふっ」

 

 20人位いるから大所帯だが、この店舗はこの時間帯は比較的空いているらしい。

 それに安心しながらチキンバーガーを食べる。

 

 こういうジャンクなのもたまには悪くない。


「……不思議な味ですね」

 

 梨花ちゃんはよくわからなそうな顔をしながらハンバーガーを食べていた。

 戦技やっているから濃い味付けの食べ物は好きらしいけど、それでも育ちが良いからこういうのは食べないようなので……やっぱり難しいか。

 

「そうそう。たまには悪くねぇよな。あーポテト旨いわ」

 

 芦田はそう言ってポテトをひたすらに食らっていた。

 

「しかし、こうやっていられるのももう数えるほどか……一年の国見以外はそれぞれの進路に進むんだもんなあ」

 

「まあ、この席のメンツならいずれプロで再開できそうだけどね」

 

「……ははっ。プロ、かあ。そうだな。プロは……少なくとも今は意識できんな。だけど……大学でも続けたいな。いや、社会人でも続けたい。プロで食っていける気はしないが、戦技で飯を食いたいな」

 

 笑って言うと、優馬がなにか決意を固めたようにそう語った。

 

「……高校で辞めるつもりだったんだよね。それなら、応援するよ。いずれプロの舞台でまた会うことを願うだけ。陣を落とす才能にかけては、今の時点でもプロの一軍レベルでも上の方だと思ってるから……大学でさらに化けることを楽しみにしてる」

 

「ははは、そうなれれば良いんだがなあ。まあ、最初から諦めてちゃなんにもならんよな。最後のセブンスセンス……絶対勝とうぜ」

 

「目指しているのは優勝だけだもん。もちろん勝つつもりに決まってるよ」

 

 そうして、ニヤリと笑いあった。

 

「……それ以上は、駄目でございますからね?浮気とみなしますよ……?」

 

 隣の席に座っている梨花ちゃんが何やらジト目で見ているのが少し面白かった。

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