第26話 最強で無敵のアイドル

「どうやら、力は取り戻せた……いや、かつてより遥かに高まっているようだな。それでこそこの世代最大のスターだ」

 

 今日は練習試合の日だった。敵は……宿敵、王剣学園。

 結果としては一応こちらが勝った。ひとまず雪辱を果たした形となる。

 しかし、敵はベストメンバーではない……というか、エース以外は二軍メンバーという舐めプだったし、こちら側もまだまだ成長が期待できる。

 この結果がそのまま本戦で現れるとは思えない。

 向こうだって成長はするだろうし、特に敵のエース……今話している超然とした美貌の持ち主の金髪男は秋以降急成長を遂げている。

 

 かつての自分でも勝負になったあの頃のこの人ではない。

 

 そんな敵のエース……笹木アンダーソンは、試合が終わるなり俺に近づいて妙なことを言ってきた。

 アイルランド系のハーフらしい。

 

「えっと……ありがとうございます?」

 

「まあ、そうだろうな。私は中学時代まではそこまでの選手ではなかったゆえな。全国レベルの強豪ではあったが、お前と比べられる域にはなかった。いきなりこんなことを言われてもワケがわからぬだろう」

 

 ……参ったな、この人のことは良く知らない。

 あまりに気にしてなさそうなのが救いかな。

 

「私はかつてのお前に深い敬意と憧れを抱いていた。そこの国見殿ほどではないがな。もしかすると、恋とすら形容できるものだったかもしれぬ」

 

 ……この人、そういう趣味があったのか。

 『わたし』になってからというのならわかるが、『俺』だった頃にそこまで思っていたとか相当だな。

 いや、わたしが言えたことではないし時代的に許されるから別に咎める気もないけど……正直、かなり怖い。

 

 そこまで思われる事自体はまったく嫌な気しないけど……男はそういう目で見れないから、強さも相まって怖さが勝つ。

 

 後ろを見ると梨花ちゃんが威嚇していた。

 マリーさんも目が座っている。

 

「今では更に強い敬意と慕情を抱いているよ。そして、だからこそ……泣きたくなるほどなりたかったお前に力で上回っている今を、心の底から嬉しく思う」

 

「あなたほどの強者にそこまで言われるのは嬉しい。だけど、わたしの成長期は……今ではないから」

 

 今のわたしより上回っていたって大した自慢にはならない。全盛期はもっと先だから。

 その事実を告げて笑ってやると、アンダーソンはさらに楽しそうにしていた。

 

「そうか。奇遇だな。俺の成長期ももう少し先なのだ。プロの世界で高めあえたら嬉しく思うぞ」

 

 ……ふむ。わたしと似たような感じかな。

 今は成長期の前兆段階なのだろう。

 だけど、素の実力が高すぎるから、その程度の段階でも実力が一気に伸び始めた。

 しかし、もう少し先、ということは……曲線はでは勝っているかな。

 ……それならば、臆する必要もない。

 

「そうだね。プロで……ううん、アメリカリーグで頂点を狙い会えるほどに成長できたら良いね。だけど、今目指すのはそれじゃないでしょ?」

 

「セブンスセンスの頂……だな。負ける気はせんよ。単なる通過点だ」

 

「あなたにとってはそうなのかもしれないけど……わたしにとっては違うから。本気で取りに行くからね。……頂点の座は誰にも渡さない」

 

「……くく、くくく。かつて、そして今も強く憧れている者を見下ろす気分というものは実に爽快なものだ。全力で叩き潰してやる。この世代最高のスターはお前でなくてはならないが、最強の座は私のものだ!」

 

 アンダーソンはそう言い残すと去っていった。

 

「あの人を見ていると苛ついて仕方ありません……。なんだか少しだけ、昔の私に似ている感じで……。信仰心からでしょうね、アオちゃんを狙っている感じはなかったです。それは良いでしょう。しかし、それでも信者でありながら上から見下ろすのは許せません。追いかける立場でありながら見下ろすとは何事でしょうか……!」

 

「……信仰?」

 

「少し言葉に御幣はあるかもしれませんが、さして変わらないでしょう。アレはアオちゃんを信仰しています」

 

「……もしかして、わたしを信仰している人って多かったり?」

 

「……?知らなかったんですか?特に高校以下中学以上の戦技選手の間では、アオちゃんはかなり信仰されているんですよ?今では一般の方々にも広く信仰されていますし……お布施とか募ったら結構集まるかなぁと思います、よ?……どうしたんですか?」

 

 なんか頭が痛くなってきた。

 なーんか昔から、妙に憧れられることは多いと思っていたけどそんな妙なことになっていたとは思わなかった。

 

「わたしの知らないところで予祝とか広められたりしてないよね……?」

 

 そればかりはまずいから、やっていたら止めさせなければならない。

 

「予祝、ですか?うーん、良くわからないです。まあ、信仰と言ってもスポーツの大スターに対するファン感情と、アイドルに対する感情をかけ合わせたくらいのものですから。心配しなくてもいいと思いますよ?」

 

 それはそれで厄介なんだけど……。

 

「となると、わたしが女の子たちとどんどんくっついてったときとか、相当界隈が荒れたりしてたり?」

 

「まあ、はい。……フフフ。かくいう私もネットニュースで知った日からしばらくは寝込みましたから」

 

 ……収集着くのかなぁ。頭の痛い問題が出てきてしまった……。

 まあでも、信仰されるというのも嫌な気はしない。

 このままで、いいかな……?うん、きっとそうだ。

 この問題を放置することに決めた。

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