第24話 マリーとの日常

「どうですか?おいしいですかっ!?」

 

 自宅のリビングで、マリーさんに栄養満点の料理をあーんされていた。

 

 今日はマリーさんが来るから……というわけではなく、友達の家に泊まるらしいからお姉ちゃんはいない。

 最近お姉ちゃんにやけに猛アプローチを掛けられるのだが、それはその友人のせいだとも聞く。

 理性が保ちそうにないのでやめて欲しい。いつかすり潰される気しかしない。

 

 今はそのことより、マリーさんの料理だ。

 

 内容はごく普通のカレーの付け合せのサラダなのだが……。

 

「おいしいっ!」

 

 本気で料理が上手だから、感動するほど美味しくなっている。

 カレーも、サラダも、さらには自作のドレッシングに至るまで。

 戦技選手だから信じられない量を食べなきゃ体重が減る一方だったり、わたしの場合はプロポーションは維持できるけど体調が悪くなったりする。

 だから、量もものすごいので飽きないような工夫も凝らされている。

 これで栄養も考えられてるとかプロの料理人になったほうが良いんじゃない?とも思ったけど口には出さない。

 それぞれの夢に口を出すのは恋人であっても駄目だろう。間違った方向に進もうとしているならともかく、マリーさんがこの道に進んだからこそ出会えたというのが真実なわけだし。

 

 こんな料理を毎日のように食べられるわたしは幸せものだ。

 

「ふふ……これ、いつかやってみたかったんですよね。ええ、とってもかわいかったですっ!」

 

「……」

 

 やっぱり可愛いって言われると恥ずかしい。

 それに、恋人に言われると特別嬉しい。

 

「照れてますね〜。眼福です!」

 

 ニヤニヤしながらそこまで言ってから、マリーさんはわざとらしくため息を吐いた。

 

「なんでよりにもよってあの子を攻略しちゃったんですかねぇ。敬語でキャラが丸かぶりじゃないですかっ!」

 

 冗談なのだろう。それはわかっている。

 だけどどうしても申し訳なく感じてしまう。

 

「えっとマリーさんはコメディチックな敬語で、あの子はお嬢様的な敬語だから……キャラ被りはあんまりしてないと思いますよ?」

 

 だから、申し訳ないという本心を押し殺して弄るようにニヤつく。

 謝るなんて望んでいないことくらいは、わかっていた。

 

「……コメディチックってなんですか!?酷くないですか?むう……こうなったら、あとで膝枕してあげます。そしたら私がコメディリリーフってわけじゃなくて、お色気担当だってわかってくれますよね?」

 

「あはは、飛躍しすぎですよ。でも……膝枕か。素晴らしいですね。ちょっとむっちりしたそのふとももに挟まれたいです……にへ」

 

 完全にセクハラ発言だが、恋人なので問題はない。

 

「むっちりとかいわないでください……!でも、ですけど?あなたに気に入ってもらえるなら悪くないかもしれませんね?……むふ。ですがそれはちょっとえっちすぎるので、高校卒業してからにしましょうね」

 

「残念ですが……はーい。でも、よくそういう行為を我慢できますね。もしかして、浮気とか……?」

 

 ありえないとわかっていても、考えるだけで背筋が凍る。

 わたしがするのは良くても、恋人にされるのは許せない。

 そんな傲慢さがわたしの心の一つだから……どうしても嫉妬心が湧き続けてしまう。

 思わず少し睨みつけそうになった。直前でそんな事できる立場ではないと取りやめたけど。

 

「ふふ、そんなんじゃありませんよ。葵さんのことしか見えてませんから」

 

「……っっ」

 

 面と向かってそう言われると、どうしても照れてしまう。

 ああ、愛しいなあ。

 

「ほら、私は他のあなたの恋人と違って、常にどこまでもついていけますから。まあ、国見さんはもし同じチームに入隊したとしたらほぼずっと一緒でしょうからそこは悔しいですが……それでも距離感はわたしのほうがずっと近いです。そして、私は老けません!つまり、将来的には私が一番チャンスがあるわけですよ。ここまで好条件が揃っているなら焦る必要もありませんし……あなたの裸を思い出して慰めるだけでも今は満足できてますから。性欲すら殆どなかったのに、あなたにあってからは色欲まみれの毎日なんですからね?責任、ちゃんと取ってくださいよ?」

 

「結婚は……この国では少なくとも重婚が出来ないからできませんけど、ちゃんと式は上げますし、永遠にわたしだけのものでいてもらうことはもう確定していますから。だいすき。ぜったいはなしません」

 

「うぅ、ドキドキが止まりませんよ……」

 

 その後、超スピードで……と言っても量が極端に多いので15分かけて食べ終わり、さらなるイチャイチャタイムへと突入した。

 

「……だきしめて?」

 

 こんなことは年上であるマリーさんにしか頼めない。

 そして、徐々に思考が女子としてのそれに侵食されてきたことを実感する。

 

 性自認は依然男のままだし、それはおそらく今後も変わらないと思う。

 だけど、自分の認識と実態が異なるなんてことはいくらでもあると思う。

 だから……もう既に半分以上は女性としての精神になってしまったのだと思う。

 男として生きてきた時の名残から来る思考回路は変わらないけど、ね。

 

「ぎゅー……っ。えへへ、とってもいい香りがしますね……シャンプーもそうですけど、素の体臭が甘くてすごく良い香りがするんでしょうね。……ふふっ、今だけは安心してくださいね。あなたを叩く雑音も、あなたを求める声援も、何も感じなくて良いんです。ただ、抱きしめられてください」

 

 マリーさんの抱擁は思わずすべてを預けてしまいたくなるような魅力があって……その虜になってしまっていた。

 

 もうわたしは駄目かもしれない。

 ……それは生まれてきた時点でそうだったね。

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