第21話 成長ピーク

「これで、終わりです!!」

 

 梨花ちゃんが彼女固有の戦法である『ロッズ・フロム・ゴッド』、その使い方の一つである一点集中の極太の雷光砲撃、『トールハンマー』を使用して最後に残った敵大将を消し飛ばす。

 そんな姿をテレビの前で見ていた。

 

 ……先越されちゃったな。

 

「勝負あり!勝者、天味学園!」

 

『春のセブンスセンス!優勝は天味学園となりました!16年ぶりに春の優勝旗を神奈川へと持ち帰ります!』

 

 アナウンサーがテンションを高めてそう実況していた。

 

『いやあ、今季大会は国見選手が圧倒的やったね。いますぐプロに入っても一軍ベンチに入るくらいは確実にできるんじゃないかねぇ?』

 

 一昨年プロを引退して以来、解説として引っ張りだこらしいかつてのスターがそう総評する。

 ……やっぱり梨花ちゃんの力は凄まじい。

 彼女の力があって、仲間たちのレベルを全体的に高められれば……夏の優勝も夢じゃない。いや、王剣がいなければ容易いと呼べるレベルなのかもしれない

 

 春大会と秋大会は新人大会的なものも兼ねているので、三年生は出場できない。

 いつからかそうなった。

 夏大会の注目度が高すぎたから、春と秋の注目度を高めるためにいろいろ工夫をこらした結果こういう形に落ち着いた。

 

 今でも夏大会が注目度は圧倒的だ。

 しかし、春大会でもセブンスセンスの優勝校エースというのは凄まじい注目度を誇る。

 梨花ちゃんもすごく可愛いし、なにより彼女はわたしと違って生まれつきの時点で女だから……あの子のほうがテレビ的にも使いやすくて人気も出やすいと思う。

 わたしの人気はそれはもう国民的ヒロインと言った感じになりかけているが、やっぱり元男だからと敬遠する層もそれなりにいる。

 ……出番もだんだん取られるかも知れないな。

 

 ……プロだ。プロに入ってからは負けるつもりはない。

 高校戦技においては梨花ちゃんの才能は圧倒的だろう。わたし以上だ。プロでもまず間違いなくスター級の選手になれる。

 だけど、今後の伸びしろ的には……わたしのほうが上だ。

 梨花ちゃんの成長のピークは分析的には中学二年〜25歳くらいだ。そこからゆるやかな成長期が続き、34歳ほどでそれが終わる。そしてそこから衰退期が始まり……衰えにどれだけ抗えるかによっては、40歳くらいまで第一線で戦える可能性もある。

 それは素晴らしい成長曲線だと言えるだろう。

 現代の科学を用いても確実な成長曲線を知ることは出来ないが……これは理想の一つだと言える。

 若い頃のうちに爆発的に伸びて、その後も少しずつ伸びて衰えるまでが遅い。

 

 だが、わたしは『まだピークが来ていない』。

 その前段階のうちの前兆段階といえるところ。ここから飛び出すという時期だ。

 これが何を意味するか……。

 わたしはこの体になってから、身体能力や技術がガンガン伸びていった。

 しかしそれは、ピークの前段階にもかすってすらいなかったということだ。17〜21歳までが前段階となる。私の誕生日は2月8日だから……ここらへんから少しずつ成長しやすくなっていく。

 そしてわたしのピークは22〜42歳。そしてほんの僅かに伸びる時期が6年くらい続いて、そこから5年ほど身体能力が維持されて、そこからようやく落ち始める。

 その落ち方も一気にドン!ではなく緩やかなものだ。

 

 最も長く戦技を続けた日本記録……一軍出場記録の最高年齢が57歳で、よほど長続きするタイプの選手でも42にもなれば一軍にも上がれないのがほとんどだ。

 

 つまり、私の伸びしろはまだまだここからということなんだ!

 最終的には全盛期の梨花ちゃんをも超えて世界的なレジェンドになれると思う。

 日本の戦技リーグは世界四位の規模だが、世界一位の規模のリーグ、AUT(アメリカン・アルティメット・テクニカル)に移籍してそこでレジェンドになるという未来も現実的だと思える。

 梨花ちゃんもAUTでレジェンドレベルになれると思うが……わたしが目指すのは、世界一、歴代最強のプレイヤーだ。

  

 その座は、梨花ちゃんにも渡せない。そんな炎が、燃えてくる。

 

 ……好きになった女の子にこんな醜い嫉妬をするなんて、我ながら恥ずかしいな。

 だけど、これがわたしの性分だから。今更変わらない。

 

 後輩のハレの場を素直に喜べないなんて、最低な人間だよわたしは。

 

 まあ、こっちに帰ってきたら存分に褒めてあげよう。よくやった!と全身で示そう。

 抱きしめよう。

 

 校歌斉唱が終わり、監督インタビューも終わった。

 

 それからしばらく。梨花ちゃんがテレビカメラのインタビューを大量に受けていた。

 

 ……内容?正直あんまり言いたくない。

 わたしのことばっかり延々と楽しそうに喋っていて、恥ずかしくなったから。

 いや、テレビの前で褒めちぎられるのが恥ずかしいとかもそうだけど、あんなに自己弁護をするくらい嫉妬していたのにこんなに褒められては、流石に申し訳がなくて仕方ないよ。

 

 ――猛省。

 

 

 掲示板では梨花ちゃんの話が延々と話されていた。

 ドン引きするものや、『尊い…』などと言う者、ネタキャラとして笑う者。様々だったが……最後の勢力が一番大きかったと思う。

 いやまあ、仕方ない。わたしに関わりがなかったら大笑いしていた自信がある。

 

 後日、梨花ちゃん×わたしのゴニョゴニョな絵や小説が大量に生産されていることを知り……ナマモノだから訴えたらキミたち負けじゃない?と思いつつ、少しだけ現実のわたしたちに重ねてしまった。

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