第20話 萎縮

「『祓流――抜打一閃(ぬきうちいっせん)』」

 

「クソがっ!」

 

 断末魔を上げながら、最後の敵が離脱する。

 これで勝負あったか。

 

「ありがとうございました!」

 

 本日最後の対外の練習試合終了後に、礼をして終わる。なかなか良かったと思う。

 

 錬成会と呼ばれる、いろんな高校を集めた合同合宿は今日で最後だった。

 県内や周辺の県の強豪校が集まって練習試合をしまくるという合宿だったのだが……手応えはあった。

 

 バスに乗る前に一旦シャワーを浴びて、人心地着く。

 

「……ふぅ、さっぱりしたなぁ」

 

 今日の試合を振り返りながら、おそらくみんなもう支度を終えているであろうバスに乗り込もうとする。

 その途中……明らかに意気消沈したチームメイトたちが見つかった。

 

「……すまない。お前ばかりに負担を押し付けてすまない!」

 

 優馬と芦田と、一年のマネージャーの……なんだっけか。新入生は正直名前がまだ一致しないんだ。

 ともかくそのマネージャーの女の子。その三人が俺に謝ってきた。頭を大きく下げて。

 

「ちょ、ちょっと?いきなりどうしたの?」

 

 思い当たるフシがない訳では無いが、謝られるようなことでもないと思っているので、困惑するしかなかった。

 

「いや、ホラ、今回はエースさんに散々負担押し付けちまった試合が多かっただろ?最後の試合なんかがまさにそうだ。それが情けないっつーか、チームメイトとして申し訳ないと思ってよ」

 

 ……確かに、今回は私の武力によって無理やり解決した試合が多かったとは思う。

 特に最後の試合なんかは、味方が容易く各個撃破を決められて、1VS5で相手には一つ分陣効果が付与されているという絶望的な状況に追い込まれた。

 そこからなんとかしたというのは、スカウトの目にも止まっただろうから別に気にすることでもない。

 

 あんまりにも簡単にやられすぎたというのはあるが、それは拙い指揮をした監督の責任でもあるし、相手がなぜかわざわざ初見殺しの戦法を繰り出しまくってきたのも大きい。

 まあ、現場指揮官である優馬は責任を感じる必要はあるのかも知れないけど、今回の遠征では梨花ちゃんも試合には出ていなかったのであれを防ぐのはまあ無理だったろう。

 

「私達の作戦立案にも問題がありました……。すみません、すみません!」  

 

 マネージャーちゃんは泣きそうになりながら謝ってきた。

 二人も辛く重々しい表情をしていた。

 

 ここまで思い詰められると逆にこっちが申し訳なくなるよ。

 

「そうだね、力量差があまりにも離れすぎているとは思うよ。優馬や芦田くんはともかく、正直言って他の三人は全国レベルでは最低限の力しかないと思う。わたしとある程度でも伍する人材となれば、国見ちゃんくらいしかいないね」

 

 だが、だからこそバッサリ行く。

 ここで慰めを言ってもなんにもならない

 

「……悔しいが、そのとおりだ」

 

 優馬は悔しそうにそううつむいた。

 

「……でもさ、良く考えてみてよ。優馬はプロ入りが確実視されているくらいじゃん。芦田くんも伸びしろ的には大卒でドラフト上位になれるくらいの逸材だと思うよ。他のメンバーだって、セブンスセンス常連校の一軍メンバーになれるだけある逸材なんだよ?」

 

 二人はよくわからなそうな顔でこちらを見ていた。

 マネージャーちゃんは聞き逃すまいと食い入るように見つめている。

 

「……なんか、みんなわたしに萎縮してない?本気を出せばもっと上を目指せるはずなのに、わたしを見てしまったせいで自分に限界を設けてしまってると思うんだ。芦田くん、キミならわかるんじゃないかな?まだ、殻は破れてないんだよ」

 

 そうだ。みんなわたしの才能を見て萎縮してしまっている。

 己の才能を過小評価しすぎている。限界を決めてしまっている。

 だから、こんなにも弱い。

 たしかにわたしには届かない才能かもしれないけど……それでも、こんなところでとどまる才能ではないことは確かだ。

 

「……そうだな。あまりにエースさんに才能がありすぎて、俺自身の才能を見失っていた……そういうことかな」

 

「そうだと思うよ。はっきり言って……芦田くんに至っては、伸びしろで言えば以前のわたしを超えていると思ってる。なんであの程度の才能しかなかった頃のわたしを見て、そんなところで足踏みしているのか今でもわからないくらいだしね」

 

 そう言ってくすっと笑った。

 空気が弛緩した。

 

「今回の錬成会でよーくわかったけど、みんなはわたしに萎縮しすぎだよ。そのせいで実力を出せてない。わたしや国見ちゃんみたいな化け物がいてもさ。『それがどうした?この試合では俺がMVPだ!』っていう気概でみんなが挑めば……それが一番容易く強くなれる道なんじゃないかな?そしてそれが真のチームワークってもんじゃないかな?もっと小さい頃、狭い世界ではみんな己こそが最強だと思ってたでしょ?その時の気概があったからこそ、あのときはあんなに輝けたんだよ。……まあ、そうだね。自信をなくすくらいなら自分が最強だとむりやり盲信すれば良いんだよ、みんな」

 

 その言葉に笑い声が漏れ出した。そして、決意が伝わってきた。

 その後、チーム全体に私の言葉は伝わり……チームの底力が格段に上昇したのだった。

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