第18話 信者を堕とそう

「せいっ!」

 

 『雪姫変生』を発動させ、一気に優馬を追い詰める。

 

「……ぐぅっ、クソっ!こんな一瞬で……」

 

 勝負はついた。新入生歓迎のための個人戦トーナメント、それはわたしの圧倒的優勝で終わった。

 優馬はわたし不在の時にはエース張れたりするし、間違いなく二番手を背負える逸材なんだけど、本領は敵と直接相対することじゃなくて陣を急襲して陥れることだからここまで落ち込むことはないと思う。

 わたしがエースなら、優馬はバッファーと呼ばれる役割で一番なんだ。

 そこの腕ではわたしでも勝ててはいない。

 身体能力に任せて無理やり似た活躍をすることはできても、なんというか本末転倒だったりするしヤツに任せておいたほうが間違いはない。

 

「……ぶいっ!」

 

 他人に見られることを意識するようになったからか、自然と新入生たちの方に向けてVサインが出ていた。しかもあざとい掛け声も添えて。

 我ながらこれはどうかと思う……けどまあ良い。

 

 ハートを射抜かれた選手はかなり多いようだが、その中に国見ちゃんもいたしね。

 

 それからは、練習に移った。

 

 

 

 

 

「……んくっ。ふぅ……」

 

 休憩時間……というか、全体練習終了後だね。

 国見ちゃんがスポドリを飲んでいたので話しかけることにした。

 

「大丈夫?疲れてない?天味の練習は強豪の中でもかなり苦しいほうだからね。新入生はみんなひいひい言うんだよ」

 

「え……?は、はい!れ、練習はたしかに大変ではありましたが、ぜんぜん大丈夫な範囲です!」

 

 国見ちゃんはわたしが話しかけると同時に背筋をぴんと伸ばしてそんな事を言っていた。

 ここまで憧れられていると、さすがに気恥ずかしいな。期待に答えられる先輩でありたいけど……不純な目的持ってるんだよね。

 しかし、やっぱり辛くないのかぁ。

 流石は中学ナンバーワンと呼ばれた剣術家だ。

 

 わたしでも入りたての頃は結構辛く感じたんだけどなぁ。

 

「国見ちゃん、とっても凄いね!わたしが入りたての頃はすっごい疲れちゃってたよ。自主練もする気力がなくなりかけてたもん」

 

「そんな……私などまだまだです。平沢先輩が月なら、私はせいぜい月見草ですから!」

 

「うん、わたしも一番強い選手であることを譲るつもりはないよ。でも、なるなら月より太陽だな。性分じゃないけど、国見ちゃんを照らせたみたいに、国中を……ううん、世界中を照らしたい」

 

「平沢先輩なら絶対できます!というかもう国中くらいならとっくに照らせてます!」

 

 純粋な好意とあこがれが伝わってくる。

 凄まじい情欲に満ちた目もこの子には向けられたりしたが、こういう目で見られるのも良いなぁ。

 ……でも、真に求めてるのはそっちじゃないんだよね。

 

「……で、なんだけどさ」

 

 そう言いながらわたしは国見ちゃんの背中を優しく撫でる。

 

「ひゃうっ!?……え、え?平沢、先輩。なにを?」

 

 手付きはややいやらしく。

 しかし、傍から見たらじゃれ合いで済まされる程度で。

 

「……いつだったかな。国見ちゃん、わたしの着替えを覗いてやるとか言ってたよね?」

 

「え?……あの書き込み、バレて、ましたか?」

 

 国見ちゃんは表情を真っ赤にしてそう小さく問うてきた。

 

「わたし、エゴサーチとかよくするほうだからね。だから、国見ちゃんからの私への情とかはある程度わかっているつもりなんだ」

 

「その、気持ち悪いとか……思われませんでしたか?」

 

「冗談じゃなくて本気なのは知っていたし、そう思わなかったわけじゃないけど、嬉しくもあるの。こんな可愛い女の子から凄まじい質量の愛を向けられて、絶対に嫌だと思うようなまともな神経はしてないから。国見ちゃんなら、理由、それなりにわかるんじゃないかな?」

 

「ほ、本当に良いんですね?私とそういう関係になりたいということで……良いんですよね?」

 

「うん。もっとも、国見ちゃんが本当は嫌だと思っていたら断ってくれても良いんだけどね。わたしは既に二股かけている尻軽ビッチで、今後別れて一途になる予定も一切ない最悪の女だしねぇ」

 

「あ、あぁぁ……さ、流石に恐れ多いです!嫌ではありません、まったくそんなことはありません!ですが、私にとってのカミサマとそんな関係になるなんて恐れ多すぎますよ……!!!」

 

 ……あれ?断られちゃった。

 ああ、これはむしろ好感度カンストしすぎて信仰の域にまで行ってるのか。

 まあそれでも良いや。

 

 もうちょっと段階踏む必要があるかも知れないけど、そうなれるというのはほぼ確定しているから。

 

「そう。ならもっと仲良くなってからにしようね。……とりあえず、しばらくは自主練に付き合うから、一緒に強くなろ?」

 

 この提案は別に距離を縮めたいってだけじゃない。

 国見ちゃんを強化することは、セブンスセンスで優勝することに直につながる。

 はっきり言って、今の時点で既に優馬を軽く越えたチカラは持っているんだよこの子。

 プロに入る頃には私以上に評価されているかもしれない。

 わたしの場合は極端に並外れた容姿があるから今の評価がある。

 国見ちゃんも特別可愛い美少女ではある。でも、わたしほど超越している美貌な訳では無い。

 それでも、とびっきりの美少女が戦隊に入隊するとなったら話題になるだろうし客寄せにもなるだろうから評価に上積みはあるだろうけど……伸び悩みがなかったり、わたしが特別な成長を遂げない限りは、互いの客寄せ的な評価も加味してもわたしと同格かそれ以上の逸材と評価されるだろうという想像がつく。

 

 だから、彼女を鍛え上げることでこの高校の戦力を底上げできるのだ。

 そして、彼女と一騎打ちを繰り返すことでわたしの側の戦闘技術の向上も狙える。

 格の近い味方が今はいなくなっていたから……そんな、打算もあった。

 

「一緒に自主練……!?」

 

 わたしの言葉に、国見ちゃんの表情がパーッと明るくなる。

 

「ぜひ!ぜひお願いします!……ああ、お慕いしている平沢先輩とこんなに距離を縮められるなんて。今日という日は最高すぎますよ……!なんですか、ここ!?天国ですか!?」

 

「ふふ、あの世じゃないよ。んじゃあ、同じ獲物使ってるからそこらのアドバイスからさせてもらおうかな」

 

 そうして、自主練へと移行していった……。

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