第14話 頂は遥か遠く……
「……はぁ」
一人の少女が、ユニフォーム姿のままホテルの部屋の中でうなだれていた。
彼女は平沢葵。かつて天味学園のエースであった『少年』であり、今は力を新たに得ようとしている『少女』である。
彼女は二回戦を余裕で勝ち、続く三回戦も勝利した。しかし、四回戦で嘘のようにボロ負けした。
相手が『常勝軍団』と呼ばれる王剣学園であり、またその中でも『最強世代』と呼ばれるほどの世代であることもそうだが……負けたのは彼女の実力不足のせいでもあった。
「足りない。なんなんだろうね、このザマは……。チカラが足りないよ……」
少女は普段人前では見せないような……いや、一人でいるときにも見せないような、極大の憤怒と嘆きを抱きながらそう呟いた。
「以前のわたしなら、二、三回戦程度の敵なんて、戦法無しで、たとえ陣を一つ奪われていようとたった一人で圧倒できた。四回戦、王剣の選手が相手でも……エースが相手だとしても、十分に打ち合えたはず。それどころか成長も加味すれば、勝てていたでしょう!?それがあんなボロ負け……許せない。こんなんじゃ、みんなから嫌われちゃう……」
彼女は嫌われることを大きく恐れていた。
みんなとは誰を指しているのか?
恋人たちや、チームメイトのことでもある。今まで支えてくれた姉のことでもある。
そして、ファンとして応援している者たちのことでもある。
……誰にも嫌われたくなかった。そして、誰かから好かれたかった。
それを成すためには、勝ち続けるしかない。
「アイドル扱いなんてのは、別にされても困らない。それでスターになれるならそれで良かった。でも、実力が伴わないピエロとしてそういう扱いをされるのならば……死んでしまいたいよ。受け入れられない」
そこまで言って、彼女は己が泣いていることに気づいた。
「……どこまで言ってもわたしはわたし、か。性別が変わろうと、選手として弱くなろうと、この脆い精神性は変わらない……」
それを自覚すると、余計涙が止まらなくなった。
勝てなかったことに対する涙ではない。己の数少ない魅力である強さが陰っていることに対する苦しみの涙であった。
テレビでは五回戦が放送されているが、見る気にもなれなかった。
「(弱い心は、裡に秘めたままでいい。……強くなろう。もっと、ずっと、はるか先まで……フル代表のエースになれるほどにまで……!!!)」
葵は決意を固めた。とりあえずの目標を定めた。
そのためにもまずはプロにならなければならない。
今のままでもプロに指名はされるだろうが、それはあくまでも二軍三軍の客寄せパンダとしての指名だ。
チカラが圧倒的に足りない。
「……見たくないけど、掲示板見るかな。昨日の過去ログ……あった」
セブンスセンス秋大会三回戦二日目、Part12
96:名無しさんは今日も行く
平沢選手、明らかに実力落ちてませんか?
いくら最強世代の王剣相手とはいえ、ここまでボロカスにされるとか以前の平沢選手なら考えられないですね。
105:名無しさんは今日も行く
いや〜酷い蹂躙だった
来年の夏も王剣の圧勝で終わりかな
つまらんわこいつら
よその地域から有望な選手かき集めてさ
スタメンの経歴とんでもないことになってるし控えどころか三軍四軍ですらとんでもないメンツだぜ
こいつらがセブンスセンスをつまらなくしてる
107:名無しさんは今日も行く
たそ、泣きそうになってるじゃん…というか泣いてるじゃん…
(葵の泣き顔GIF)
113:名無しさんは今日も行く
正直めっちゃ興奮する
もっと屈辱に塗れさせたい
そして完全に心折れたとこで優しくしてドロッドロに依存させたい
115:名無しさんは今日も行く
まあ虐殺とはいっても黒木くんはプロ行けるレベルだと思う
高卒では無理だったとしても大学でさらに開花したら二位指名もいけると思うよ
でも俺らのたそにアピールしまくってるのはムカつくんでやめろ
117:名無しさんは今日も行く
>>105
育成ノウハウもちゃんとしてるからこそのここまでの無双なんだけど?
ちゃんと知らないくせにアンチすんなよ
まあ一軍に入れる確実な自信もなくここ行くくらいなら地方の強豪行ってお山の大将してる方がまだスカウトの目にも止まってプロ入りにも近づけそうだとは思う
そういう意味では乱獲は問題にも思えるけどお前の言っていることには共感できん
123:名無しさんは今日も行く
>>107
>>113ではないけどクるものはあるな
クッソかわいい
元男のくせに泣き顔が乙女すぎるんだよ
でも流石に>>113はキモすぎると思う
124:名無しさんは今日も行く
>>113
きっも
125:名無しさんは今日も行く
さすがにたそもここで終わりかな
以前の四分の一にも達してないだろアレ
たしかにガチ恋するくらいには可愛いけど可愛いだけ
選手としてはもう終わりだね
126:名無しさんは今日も行く
>>113
葵さんのことを一番わかってるのは私だから私が依存させる
葵さんこそが私の光であり葵さんにとっての光も私であるべきだ
有無は言わせない
異論は認めん 断じて認めん 私が教祖だ 黙して従え
133:名無しさんは今日も行く
>>126
国見練習しろ
135:名無しさんは今日も行く
国練
138:名無しさんは今日も行く
国見殿はあいも変わらず狂しておられる
141:名無しさんは今日も行く
梨花ちゃんも凄い美少女なのにな
たそのガチ勢過ぎてファンスレの信者の中でもやべーやつ扱いされてたのは笑った
というかたった一レスだけで完全に本人扱いされるのか…
153:名無しさんは今日も行く
さっきのは一割冗談として葵さんが目に見えて弱体化しているのは見てて本気で辛くなった
だけどこのまま葵さんが終わるわけないだろ
高校卒業までに女の子になる前の葵さんの五倍は強くなるのは確定してる
だから見とけよクソアンチども 絶対掌返すからなお前ら
「……ふふっ」
掲示板でぶっ叩かれているところを想像して身構えていたが、蓋を開けてみればかつてプレーで魅了した信者(ファン)が熱く語って流れを変えてくれていた。
ここまで熱く思われていると知ったから、たったこれだけの擁護で葵は梨花にそれなりに惹かれてしまっていた。
……思わず、笑顔が浮かんでいた。
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第一章はここまでです。更新が空いてしまってすみませんでした。
特に多忙というわけでもなく、坐骨神経痛がぶりかえしてきてマッハでヤバかったので痛みにより集中できず、なかなか書く気になれなかったのです。
だいぶマシになってきたので流石に次話はもっと早く投稿できると思います。
次話からは第二章です。
1900〜4000×80話くらいで完結させる予定なのでそんなに長くはならない予定です。
大まかな流れは高校編→プロ編という普通の流れですが、おそらくプロ編のほうが長くなると思われます。
書きたくなったらプロ編終了後にぶっ飛びとんでも展開からの新たな戦いが書かれるかもしれません。
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