第13話 秋初戦は……
「おっと、随分衰えてるってのは俺でもわかるんですよ、大エースサマ。これでも以前のアンタには随分憧れていましたからね。それに、こちらの戦法もあまり知らないようで……抜かりましたねッッ!」
突っ込み、一太刀浴びせると同時に後ろから気配が湧いて出た。
「ッラァ!」
後方からの冴えた攻撃をなんとか防ぐ。
……これがそちらの戦法か。
……戦技をある程度収めたものは、戦法と呼ばれる必殺技のようなものを使うことが出来る。
これは悪魔と呼ばれる化け物が跋扈した時代の名残、ってのは今は関係ないな。
日常生活でも使えたり、普段は使用不可だったり色々あるが、これは転移系だろうな。
国から制限を受けつつも許可を得て、普段から使用できる類のもの。
戦技においてももちろん強力だ。特にこういう一発勝負において、初見殺しとして使う場合には。
そうでなくても、戦場を自在に駆け回るというのは脅威にほかならない。
向こうにこれの使い手が居るとは……ぬかったか。
流石に戦法の使い手が一人もいないとは思っていなかったが、転移系を使えるとは思わなかった。
しかもこれ、リキャスト時間が長かったり、試合前に決めた特定の場所にしか転移できないと言った制限が多い代わりにかなりの身体能力強化までついてくる……なんだったか、『陽炎』だったかな。
「たしかに、侮っていたことは認めます。あなた方は素晴らしい力の使い手のようです。……しかし、悲しいかな。素の実力が足りません。……全国レベルを舐めないでくださいよ?」
「なっ!」
刀を一振り。それだけで陣を守る敵は首を切られて『離脱』した。
本当に死んだわけではない。
この空間は一種のバーチャル空間のようなものであり、現実と仮想現実が入り混じっている。ずっと昔の悪魔討伐の時代に生まれた技術……だから死なない。
大怪我をする人はたまにいるみたいだけど、綺麗に首切られた程度では実際には怪我すらしない。
しかし、排除はできた。
「さあ、次はあなたでしょうか?今のわたしでは少々骨が折れますけど……足止めできるだけでも十分なんですよね。頭数は既に減らせましたし」
「知るかっ!あなたを倒して陣を守り、逆に奪ってやる!」
今の身体能力強化がかかったこの人を倒すのは、正直難しい。
以前の戦法は今の体では扱うのがまだ難しく、新たに得た戦法では練度不足。
相手にとっては効果のうちの一つにすぎない強化だけを見ても倍率で劣るだろう。
剣戟を交わす。
俺がやや不利であり、このままでは負けるかも知れない。
戦法を使っても、覆せないという可能性は低くない。
だが、負ける訳にはいかない。手札を切ろうか。今はまだ大したものじゃないし、隠す意味など意表を突く程度の効果しかないのだから。
どのみち、プロになったら隠すことなど不可能なわけだし……。
「ふぅ、やっぱりお強いですね。凄いですよ、こんな良い能力を発現させて。今の私なんかよりよっぽどチームの役に立てるんでしょうね。ですが……これならどうでしょう?『雪姫変生』」
戦法の名を唱えると同時に、俺の容姿が変化した。
髪色は黒から白に、ユニフォームも意匠の変化が見られる。
そして、振るう刀に冷気が纏わり付く。
敵は一瞬慄き、下がる。
以前の戦法が来るかと思ったのか?だけど、それには遥かに及ばない。戦法の名前すら違うというのに……それでもビビってくれたのは、ネームバリューのおかげかな?
「『……天地を裂き、海を割り、そして今全てを斬る。死よ。すべての征服者であった汝を斬り伏せてみせん――祓(はらえ)流・三散華(さざんか)』」
目をつむり、祝詞(のりと)を朗々と唱えながら刀を鞘に収め、神速の抜刀術を抜き放つ。これは大仰な儀式が必要なだけで一応戦法ではなく、ただの剣術だ。
俺が生み出した流派……その冴え、とくと身にしみてわからせてやろう。
「ぬ、ぐぐ……」
敵は身体能力が強化されているから、素の実力が全国レベルではないと言っても今の状態だと反射速度もそれなりに強化されている。
身体能力だけで言えば全国レベルでもかなり強いほうだろう。
だから、なんとか追いついて防がれた。
しかし、氷が体温を奪い、敵の動きを鈍らせる。もちろん敵もそのまま座して待つわけがないんだけど……。
なんとか優勢か。
それでも個人戦ならすぐにカタがつくほどのアドを取れたわけではないんだけど……。これ、チーム戦なんだよね。
「ぐはっ」
途中で俺の力が増し、敵を押し切って切り裂いた。
味方が陣を一つ奪ってくれたようだ。
そこからはみんなで暴れまわって勝利を決めた。
「やったね!」
「お、おう!」
今のチームの真のエースである優馬とハイタッチをする。
顔を赤らめていたが……いや、そろそろ諦めてほしいんだけどな。
だが、俺が囮を務めたことで優馬はマークされておらず、孤立した敵を早々に斬り伏せると陣をすぐさま奪っていった。
陣制圧がバチクソ上手いから……そこは本当、尊敬する。
他のチームメイトからもハイタッチを求められたので、してやる。
二人ほど、ハイタッチしたあとの手を見つめていたが……いや、身の危険を感じるからやめてくれ。
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