第12話 我が武、戦慄とともに知れ

 戦技というのは、プロもアマチュアもルールは変わらない。

 小学生とかだと簡易化されたりしているが、高校とプロなら変わらない。

 

 勝利条件は敵を全員戦闘不能にするか、フィールドにある9つの陣のうち7つを先に保有するかの二つ。

 そして、陣を保有するたびに自チームの身体能力があがり、相手の陣を奪うとバフとデバフを同時に行える……といった感じだ。

 両者が最初から保有している陣、本丸は陣二つ分の換算がされ、さらに奪うと相手にかなりのデバフを与えられる。

 

 個人戦だともっと違って、陣などの効果はない。

 ただの殴り合いだ。

 ただ、基本的に人気ルールの6対6のルールで闘うことになる。

 プロでもアマでも……エキシビションマッチや練習試合以外ではまずそのルールだ。

 

 俺は新たな自分の武器に定めた日本刀と、反動の少ないガンを腰に納めて対戦相手に礼をした。

 

 服装は普段の練習では着ない一軍用のユニフォーム。

 ユニフォームというものは戦技において個性の出しどころであり、小、中だと簡素な白黒ばっかりでせいぜい女子用の差分があるかないかだが、セブンスセンス出場狙えるような高校はみんな個性を出しているし、大学も東京八大学リーグや西強九州リーグなんかにはユニフォームが有名なところもある。

 プロだと特にデザインには気を使っている。……予算から出るセンスの差があるからアレだけど、大学のほうが自由度は高いかもしれないなぁ。

 あと、女子独立リーグなんかにはメッチャかわいいユニフォームなんかもある。

 着てみたい気も……いや、嘘だ嘘!そんなこと思うわけないっ!

 ……ただ、ほぼ全員が高卒大卒元プロな関係上、19歳以上の女性しかいない。

 主力は30代のチームだった気がする。だから彼女らにはもっと映えるデザインがあると思うのだが……いや、本人等も恥ずかしいだろアレ……。

 

 ちなみにうちの一軍ユニはギリシャ神話モチーフのややコスプレ感のあるユニフォームだ。

 とは言っても一流デザイナーに任せたらしく、出来は良い。

 また俺の場合はひっじょーに顔が整っているから、以前の姿でも今の姿でも美形さが引き立っているとは思う。

 俺は女子用のユニフォームで、神聖感がありながら可愛いらしいデザインだからやや恥ずかしい。

 でも、あのサキュバスコスプレよりずっとマシだ。

 

 悪魔っ子モチーフだったらしいけど、ゴーサイン出したあのテレビ局はどう考えても駄目だろ……。

 いや、元男だけどさ……自分のコスプレ姿を写真で保存しなかったとは言わないけどさ……一応女子高生だぜ?倫理観大丈夫か?逮捕者出たり、あのテレビ局が問題視されない?

 

 ……でもなぁ、いくらあのコスプレよりはマシと言っても、月桂冠はやっぱ嫌だなぁ。

 

「「よろしくお願いします!」」

 

 そうして礼を交わし、それぞれのチームの選手たちは各所に散っていく。


 

 フォーメーションとしては、俺は戦場の東から二番目の位置に突出している。

 戦場の真ん中辺りにある陣に俺が突撃する布陣だな。

 

 だけど実際のこれは俺をエース運用するふりをして囮にする起用法だ。

 プライドを傷つけないために明言はされなかったけど……中途半端に甘いな。

 こういうのが一番傷つく。

 態度では実力主義や傍若無人ぶっといて、名木田監督は甘い。甘すぎるほどに甘い。

 それが余計に俺を傷つける。

 

 だけど今の俺は全国大会レベルではそこそこ程度だ。いや、確実に下の方だろう。

 スタメン内でもそんなに強くない。

 五番目だな。最弱は免れた。

 だけど、俺は一番が好きなんだ。

 

 この大会でエースとして振る舞えないのは辛いが……ちゃんと、ピエロに徹しさせてもらおうか。

 

 敵さんは……ふむ、こっちの布陣を見ても驚かんか。

 未だに俺がエースだと勘違いしているんだろうな。

 

 まあ良い。相手は夏時点では三年だよりのチームだったらしい。まあ、普通はそんなチームだらけだけどさ。

 その中でも中核が育っていないチームだ。三年が抜けてかなり弱体化しているから、この人達相手なら……二人抜きくらいはいけるかな?

 

 そう思うと、なんだかニヤけてきた。敵を蹂躙するのは楽しい。

 己の力を誇示できるのが楽しい。

 己の価値を認めさせられるのが楽しい。

 ……その一時だけは己に価値があるのだと信じられるから楽しい。

 今は戦闘に移る前だから気が昂っている。

 ……不気味なのかな?近くにいる敵はブルッと震えた。

 

「戦う前から怯えるんですか……?」

 

「……」

 

 敵は恥じたようにうつむき、それから睨み返してきた。

 この様子も中継されているが、精神攻撃は基本だ。

 コンプライアンスに引っかからない程度でこの手の口撃はしても良いとされている。

 

 だけど、逆効果だったかな。

 まあいい。もう始まるか。

 

 ……来るか、来るか、来るか、来るか!

 

 開戦の号砲が鳴り響く。

 

「平沢葵が武、戦慄と共に知れ!」


 俺はそう言って、さっき気を取り戻した敵が守備する陣に切り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る