第8話 デート
「普段はお高いごはん屋さんには来ないので新鮮ですねぇ……」
「うちの部では監督がたまに連れてきてくれたりしますから役得だなぁと感じますね。流石にここまでの高級店ではないですけど、ガッツリ系な上にお高い店ばっかりですから。……お金、どこから湧いてくるんでしょうか。意外とどっかの令息だったりするんですかね?」
最近では無人駅やら無人走行やらの技術が発達して、なおかつエネルギー問題もほぼ解決した。
その結果、終電というものは存在しなくなった。
だから、四駅先の焼肉屋に来ていた。
かなりお高い店で、芸能人御用達だと聞いたことがある。
中学生の時に記者さんに連れてこられたから知っているんだ。
たしか……『未来を担うエース特集』だったかな?
悪魔討伐隊に入れるというのは既定路線みたいな扱いだった。
記者さんは30歳位のかなり綺麗なお姉さんだったけど……アレ、今思い返すと目がギラついていたな。
食う気マンマンだったわ。最終的に自制心が勝ったのか無事に返してくれたけど。
変態ショタコンかよあの人……。
……良かった。
あの人の未来を奪わなくて。
軽く注文して、雑談する。
内容は他愛のないものばかりだ。
しかし……。
「……んー、美味しいですっ」
マリーさんが美味しそうに食べる姿は、なんだかとても可愛らしい。
見た目だけは年下だから、庇護欲がそそられる。
実際には庇護されてるのはこっちのほうなんだけどね。
……かわいいなぁ。
「……かわいいなぁ」
「……んー?なにか言いましたか?」
「口に出ていましたか……ごめんなさい」
思わず口に出てしまっていたようだ。
「許します。ふっふー、もっとかわいいかわいい言っていいんですからね?」
お酒が回っているからか、それともこれが地なのか、普段より更に朗らかだ。
「そうですね。かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい!!!」
「そ、そんな連呼しなくていいじゃないですか……なんだか、遅れてきた青春を満喫している気分ですよ。甘酸っぱくて……なんだろう、キミといるとやっぱり楽しいです。今後生きていくうちずーっと嫉妬させられちゃうのが確定しているっていうのが玉に瑕ですけどね」
「……それはごめんなさい」
「いいんですよ。もう受け入れちゃったわけですし。あ、でも……えっちなことはあなたが卒業してから、ですからね?そういうことに興味があるのは……わかりますし……私も興味がありますけど……同級生や先輩後輩とするならお目溢ししてあげますが……うぅ、考えただけで嫉妬で狂いそう……」
やっぱり、ハーレム願望なんて最悪なやつの考えることなんだよな……。
俺は最低の男……じゃないな、女だ。
うん、それだけは常に自覚するようにしよう。
しかし……エッチなことはダメ、か。
どこまでならいいんだろう。
抜け道を探さねば……付き合ってるんだからキスくらいは良いよね?
「家まで送ってくれなくてもいいのに……一応、わたしのほうがずっと強いんですからね?痴漢ごとき500人いようが無双できますよ?」
「大人としての最低限の責務です。……あ、でも、あなたのお父様やお母様に顔を合わせる自信はないから……逃げさせてくれませんか?」
帰り道、家の前。
マリーさんは平身低頭で謝ってきた。
まあそう遅くないうちにスクープとして取り上げられるから知られるんで意味ない抵抗だけど、許そう。
……だってなぁ。
「わたしのほうがずっと酷いことする予定なんですから。女ったらしになって複数の女の子と同時に関係を持つ……それに比べたら未成年略取なんて犯罪ですらないですよ。それくらいは許します」
「あ、ありがとうございます……」
「じゃあ、お気をつけて。今日はとっても楽しかったですよ」
「それは私もです。ありがとうございました。ま、また明日〜」
最後は照れたようにはにかんでいた。
「……かわいいっ」
「あぅ……」
そうしてマリーさんは帰っていった。
「ただいまー」
そう言っても、返ってくる声はない。
だって両親は揃って海外出張だし。
お姉ちゃんくらいしか家にはいない。そしてそのお姉ちゃんも流石にもう寝てるだろう……と思ってたんだけど。
……リビングが明るい。お姉ちゃん、まだ起きてたのか。
いやまあ、女子高生が夜になっても帰ってこないとか犯罪臭凄いから身内としては不安だろうけどさ。
手を洗って歯を磨いて先に風呂に入ってからリビングに行ってみると、そこにはお姉ちゃんがいた。
「……遅い。それに、他の女の匂いがする」
お姉ちゃんはいつもどおりのクールそうな顔立ちから怨念を繰り出してきた。
お姉ちゃんはだいぶブラコン……今はシスコンな方なのだ。
身内びいき抜きにしてもお姉ちゃんは世の中の姉共と違って見た目も最高に可愛いし、なにより俺のこと大好きだから俺も大好きだけど、だいぶガチなのが困りものだ。
流石にお姉ちゃんと付き合う気にはなれない……。たしかにカワイイし、高身長な割におっぱいちっちゃくて裸を見せてくるたびにムラムラするし、粘着質な愛も大好きなんだけど……流石に姉は、常識のリミッターが外れてくれない。
ただ、俺的にはほぼ唯一の身内と認定しているから、夕陽に準ずるくらい大切な人ではある。
というか他の女の匂いって……さっきお風呂入ってきたばっかりだよ?焼肉食べたから念入りに洗ったし。
俺の素の体臭とシャンプーの匂いしかしないはずだ。
こわ……。
「ごめんね、ちょっとトレーニングが長引いちゃって……女の匂い?ああ、それは専属コーチの方の香りだと思うよ。マッサージしてもらったりするからそれでついたのかも」
「違う。これは発情した女の匂い。最近つけてる女の匂いと同じ……つまり、その専属コーチが……」
お姉ちゃんはそう言って迫ってくると、頭をぽふっと叩いた。
「がんばれ。お姉ちゃん応援してる」
アレ?意外に応援宣言してくれた?
「アオイが好きになった相手なら、応援する。でも、私は常にアオイを付け狙っていることは忘れないで……ね?」
ガチな目をして迫られる。怖いよ、ガチで怖い。でも大好きな人だし見た目くっそ可愛いからやっぱり興奮はあって……。
「……これは流石に冗談。でも、たまにでいいからキスとかぎゅーとかしてほしい。私はずっと独り身で居るから……」
あ、良かった。
でも、お姉ちゃんがキス待ちの態勢に入った。
キス、か……したいけどしたくないな。
文句なしにカワイイし、ろくでなしの両親の代わりに俺を育ててくれた恩人で好きだからしたいけど、姉だからしたくないし、恋人を作ったばっかりだ。
作ったその日くらいは大人しくしておくべきだろう。
「今日はだめ……いや、今後もだめ。ぎゅーならいいよ」
「……そう。じゃあ、ぎゅーっ」
俺のやや低い身長がお姉ちゃんに押しつぶされた。
お姉ちゃんの貧乳が俺の爆乳にあたって……その後に首筋の匂いも嗅がれまくって、正直姉相手だと言うのにドキドキが止まらない。
でも自制心をフル稼働させてなんとか引き剥がし、部屋に戻る。
あー、最後の難関が待ってるんだよなぁ、絶対。
ラスボスが……。
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