第9話 膝枕

 部屋に行ってみると……そこには我が幼馴染が正座でまっていた。

 もう深夜どころか早朝に近いというのに……申し訳ないな。

 

「言いたいことはあるけど……とりあえず、膝枕されて、ね?」

 

 今更遠慮する関係でもないので素直に膝枕される。

 うん……ちょっとだけ肉付きの良いふとももが最高すぎる……。いつものことだけど。

 

 それに、なんかいつもよりさらにいい匂いがするな……。

 

「もしかして、シャンプーとか変えたかな?」

 

「変えたけど……今はそれじゃないでしょ?」

 

「う……はい、浮気してゴメンナサイ」

 

 浮気と言っても本気なんだけど……この幼馴染様より優先するかと言われると、違うから。

 そんな表現になってしまった。うわぁ、俺って本当に最低だなぁ……。

 

「それは今更どうでもいいわ。元の体の頃からモテ散らかしてたけど、今の体になってからはもはや学校のアイドルみたいな扱いだもの。浮気症のアンタなら、いつかこうなるとは知っていたし、そもそも許すって言った以上許さざるを得ないもの。……だけどここからが本題」

 

 膝枕されながら怒気の滲んだその美しい声を聞く。

 思わず姿勢を正した。

 

「もしかしなくても、あのコーチさん以外にも手を出す気でしょう?」

 

 重たーい嫉妬を含んだ感情が溢れ出てくる。

 それと同時に頭を撫でられてしまい、心地よくもなってしまう。

 あたまおかしくなりそう。

 

「う、うん……夕陽とマリーさん……えっと、コーチの方を含めて五人か四人、堕とすつもり……」

 

「そこまでどうしようもない尻軽だったなんて、流石に思わなかったわ」

 

 ……どうしよう、呆れられた。

 見捨てられたりしないよな?……それはありえないとわかっていても、不安になる。

 

「ふふっ、そんな捨てられた子犬みたいな目をしないでよ。私は何があってもあなたを捨てないから。あなたに深く深く……どろっどろに依存してるから。それこそ、魂の原子に至るレベルで」

 

 重たい告白だったが、嬉しい。

 愛されてるとわかると、なんだか笑顔になりそうだった。

 説教されている手前、なんとか我慢したが。

 

「それはともかく、五人なんて管理しきれるの?私は……まあ、完璧にアンタに堕ちてるから今更だけど、他の四人の候補はそうじゃないでしょ?」

 

「そこら辺の好感度管理は……まあ、寂しくならないように考えてるよ。足りない分は、プレーで魅了するだけかな」

 

「釣った魚に餌をやらないとかはやめなさいよ。アンタじゃなくて相手の側が浮気するかもよ?」

 

「それはいやだなぁ……うん、肝に銘じとく」

  

 俺が浮気するのは良くても相手にされるのは絶対に嫌だ。

 狂気を振り切り、神域に至るほどの傲慢さと潔癖性……そんな大層なもんじゃないけど、俺はそこら辺傲慢なんだ。

 ワガママなんだよ。

 そのためにもWin-Winの関係でいなきゃなぁ。

 

「それにしても……実はあんまり嫉妬してないの?アドバイスまで送ってくれたけど……」

 

 そういった瞬間、夕陽の表情がサディスティックなそれになった。

 

「してないわけないじゃない。私だけのはずのアンタが、他の女どもに取られるなんて、本来なら許してあげないわ。だけど、アンタはさびしんぼだから、私だけじゃ満たせないのは知ってる。それはもう諦めた。……でも、嫉妬してないわけじゃないわ。……ふぅっ」

 

「ひぁっ……んんっ!?」

 

 耳元に急に息を吹きかけられて、嬌声を上げてしまった。

 こんな声を上げるとか、本気で恥ずかしいんだけど……。

 でも、気持ちよかった……。

 

「ふふん、気持ちよかった?」

 

「と、とても……」

 

「……かわいい。美味しく頂きたいなぁ。でも、昨日の今日でそういうのはアンタも嫌でしょ?尻軽だけど本当に最低限の義理だけは持ってるから……」

 

「うん……今日は流石にえっちなことはだめ……」

 

「なら仕方ない。久しぶりに私から耳かきされて、気持ちよくなって寝ちゃいなさいね。もう夜遅いから。競技者としては夜ふかしはあんまり良くないでしょ?プロや推薦組ならともかく、アンタはわざわざ一般入試で入ってきた変わり者だし、授業の半休免除もない。……だから、ぐっすり眠りなさい」

 

 普段は逆にこっちから耳かきをする側なのだが、今日は逆か……それもいいな。

 夕陽に耳かきをされていると、だんだん眠くなっていって……すぐに寝落ちた。

 いろいろと、幸せな一日だったな……。

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