第5話 惚れられる

「こほん、どうも。元エースの平沢葵です。これからリハビリ頑張っていくのでよろしくお願いします。またエースの座を奪還出来るよう頑張ります!」

 

 一軍部室の中、全部員67名とマネージャー、そしてスコアラーやコーチなどの大人陣が集められていた。その中で挨拶をする。

 部員は事情を知っているので反応は若干落ち着いていた。

 だが、やはり顔を赤くしている者も多い。

 

 写真、ネットでだいぶ出回ってるんだけどなぁ。知らなかったのか?それともリアルで会うとぜんぜん違うとか?わからんな。

 

 ……ああそうか、ユニフォームに着替える時一緒になるからか。そんな妄想してるんか。まあするよな。……するかなぁ?俺、たしかにスーパー美少女だけど元男だぜ?

 そこら辺は対策してくれるようだったから良かった。

 いくら俺でも、今の実力だと大量に来られたら逃げるのも難しいからな。

 弱小校とかだったらこの人数で今の技量でも無双できるんだけどなぁ。

 なんなら、身体能力がそいつ等と同じだとしても知識量だけで勝てると思う。

 

 でも、流石に強豪校の生徒相手は厳しいよ。それに、こいつらに不名誉な罪を被せたくないしな。

 一時の気の迷いで変態扱いは可哀想だ。

 コイツラだって大切な仲間なわけだし。

 

 それからユニフォームに着替えることになった、のだが……。

 

「葵くんおっぱいでっか!何この格差……死にたくなるんだけど……」

 

 マネージャーたちが俺の着替えを覗く……というか見張っていた。

 今の部には女性はいない。

 三年には二人いたけど、夏の大会が終わって以降は大学受験に専念している。

 厳しい言い方だが、実力で大学推薦勝ち取れるレベルにはなかったから仕方ない。

 中学時代は二人共いい選手だったんだけどなぁ。

 身体能力の伸びが止まったり色々あったからなぁ。

 

「巨乳なんて邪魔なだけなんだけどね……他の子についていたら興奮するかもしれないけど、自分についていても、ねえ?」

 

「その発言は世の貧乳女子をバカにしてるよ!うわー、酷い!」

 

 マネージャーの一人、同学年の山名(やまな)聖奈(せいな)ちゃん。

 低身長で小さい胸、はたから見るとロリにも見える美少女なのだが、それがコンプレックスらしく俺の胸に露骨に嫉妬してきた。

 

「でも……本当にお肌綺麗だなぁ……。それになにより、お顔がありえないくらいカワイイし……」

 

「いや、聖奈ちゃんもすっごく可愛いと思うよ?というか、世の中って実は貧乳好きの男ってかなり多いんだよ?いうほど巨乳にアドバンテージってないんだと思うよ。わたしもその中のひとりですから」

 

 そう言って薄く微笑んだ。

 まあ、俺は貧乳が特別好きなだけで、巨乳も普通のおっぱいも好きだけどな。

 特に俺が他人だったら巨乳フェチに変更されていた可能性もある。

 下品にはならない程度に乳おばけ……そして美しい形をしている。最強だな。

 

「あ、うぅ……」

 

 発言してからセクハラだと気づいてヒヤッとした。聖奈ちゃんは顔を赤らめていた。

 

「ああいえ、ごめんなさい。いまのはセクハラだったよね。……気持ち悪かったよね、ごめんね?」

 

 そう言って、頭を下げた。

 

「気持ち悪くは……ない、よ?」

 

 あれ?なんか様子がおかしい。

 変な挙動のままになっちゃった。

 

「聖奈、お前……」

 

 先輩がちょっと引いたような、面白そうなものを見るような、複雑な視線を聖奈ちゃんに向けていた。

 

 気づけば、もう一人のマネージャーもそういった視線を向けていた。

 

 思わず小首をかしげる。

 

「み、見てられないから準備の方取り掛かってくるね!」

 

 どうしたんだろ……って、検討は付いてるんだけどね。

 惚れられちゃったかぁ……。女の子に。

 嬉しいよ、嬉しいんだけど……付き合うのは無理なんだろうなと思う。

 俺にとっていちばん大切なのはやっぱり夕陽で、そういった関係を恋人となる女の子が許容してくれない限り付き合えない。

 

 まあ、無理なんだろうなと確信している。

 いや待て、俺がいくら移り気、というかとんでもクソビッチとはいえ、許容してくれる女の子がいないならば、将来的に夕陽と籍入れちゃっていいんじゃないか?

 

 うーん、色々考えなきゃな。

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