第4話 クラスメイト

「おう、お前ら席に着くがいい。今日はちょっとした紹介がある。まあ知っている者も居るだろうが……よし、入って来るが良い」

 

 雑談していたクラスメイトが静かになったところで、俺は教室に入った。

 

「ど、どうも〜」

 

 瞬間、クラスが沸き立った。

 見た目のせいなのか……それとも性別が変わったという妙な出来事のせいなのか。

 前者の比重がだいぶ大きそうだ。

 

「病気のせいでなんか女になっちゃいました、平沢葵です。気持ち悪いとか思って避けないでくれると嬉しい……です」

 

 なんとか再びの自己紹介を終えて、元の席に戻っていく。

 

「……よっ、久しぶり」

 

「おっ、おう……」

 

 隣の席の……俺の次点で強かったチームメイト、黒木(くろき)優馬(ゆうま)が顔を真っ赤にして返してくる。

 ……いや、そういう反応は求めてないんだけど。

 

「ふふ、なに顔赤くしてるの?中身わたしだよ?その時点で普通は無理でしょ」

 

「いや……あ、いや、なんでもない……」

 

 うわぁお……この反応はガチっぽいぞ。

 でも流石に応えられないな……。

 切磋琢磨するライバルや親友にはなれても恋人は無理だ。

 女の子しかそういう目で見れない。

 

 それから少しの間ホームルームが続き、そこで俺の説明があった。

 

 それからしばらくは質問攻めだった。

 

 特に攻勢が強かったのは昼休みだったな。

 

「ほ、本当に葵くんなの?いや、元の面影はあるけどさ……女の子になるなんて流石に信じられないって!」

 

「わたしは本当に平沢葵だよ。信じられないってのもわかるけど……わたしも未だに信じたくないし、あはは……」

 

 女の子たちの中には肩をがっくりと落としている子達もいた。

 元の俺のファンだろう。

 元の俺の時点でかなりの人気者だったからな。

 全国区で有名になったスターという補正もあるだろうが……まあ、顔だけは元からめちゃんこ良かったし。

 

「それで、口調を変えたのはなんで?元の口調でも良くない?今の世の中なら許されると思うけど?」

 

「いや、オレっ子とか二次元でしか許されないんじゃないかな。現実でいたら普通に痛いと思うよ。違和感のないように合わせてるだけ。中身は元のわたしとあんまり変わらないよ」

 

 そう言うと、一人の女子が俺の体をひねって男子たちのグループの方に向けさせた。

 陽キャグループだな。

 

「……そう?でも、女の子になったんなら男の子が気になったりするんじゃない?アイツラの中なら誰が好み?」

 

 ……えぇ、誰が好みって、そういう趣味はないんだけどなぁ。

 

「そこら辺も変わってないよ。わたしは男の子をそういう目では見れないよ」

 

「またまたぁ〜。肉体に精神が引っ張られて、とかあるんじゃないのぉ?」

 

 しつこい子だな……。まあ、特殊な状況だからそうなるのかもしれないけど。

 

「まったくないとは言わないけど、性の対象についてはまったく、ぜんぜん、これっぽっちも変わってないよ」

 

「えー?もったいないなぁ」

 

 何が勿体ないのだろうか。特殊なタイプの腐女子とかだったりする?

 

「いや、本当無理なんだそこらへん……ごめんね?」

 

 渋々引き下がってくれた。

 

 しかし今度は陽キャグループの方から一人やってきた。

 サッカー部の……なんだったか。

 とにかくかなりすごいプレイヤーらしいし、実際にプレーを見たが高校生レベルとは思えなかったからリスペクトはしている。その割には名前も覚えてないけど。

 何しに来たんだろうか。

 

 ……ちょっと待て、圧がすごいんだけど。

 

「……っ」

 

 思わず椅子を引いて逃げてしまった。

 ……ここらへんだな、精神性が若干弱くなってしまった、というよりは闘争に向かなくなってしまった。

 剣を取れば元のように、いや、更に闘志をむき出しにして戦える自身はあるが、普段は前より穏やかになった気がする。

 

「その……なに?」

 

「お、俺と付き合わね?ほら、興味ない世界でも見てみれば変わるかもしれないってか……ほら、いいだろ?」

 

 周囲が沸き立った。囃し立てるような声まで聞こえる。

 俺は見逃していない。廊下からじっと幼馴染様が見つめていることを。

 それがなくても答えは変わらないけど。

 

「お断りします」

 

「う、なんで……」

 

 まあこいつも人気者なうえで顔はいいから断られるとはあまり思っていなかったんだろう。

 しかし、可哀想に。俺みたいなよくわからないやつに告白して、しかも振られたとなれば仲間内で笑われるのは確定だろう。

 

「さっきも言ったけど男の子をそういう目で見れないんだ。こればっかりは仕方ないと思って諦めて。……ごめんね?」

 

 サッカー部の男子はトボトボと元いたグループに帰っていった。

 ……しかし、これほどとは。

 元男と知っていて、なおかつ知り合いであっても魅了してしまうほどの美貌……それ自体は悪くはないな。

 ああ、素晴らしいぞ。

 優越感的なものは感じざるを得ないし、工夫すれば女の子にも届くレベルなのかもしれない。

 ……女の子を落とすためにちゃんと魅力を磨くべきか?

 いや、女の子が好きな女の子ってどんなのだ?

 

 よく合コンで女の子が連れてくる『可愛い女の子』はその女の子以下の顔面偏差値とかよく言われるみたいだが、それは女の子はお洒落さを可愛さだと思っているからであって他意はない。みたいな説もある。

 それに、男の側も中性的なタイプの美形をイケメンだとは思わず、ハンサムタイプの美形をイケメンだと感じる傾向にあるようだから……うん、性差って難しいな。

 女になって以降、ほんの少しずつ感性も変わっている気がするが、女の子の感性を完全に理解できる気はないな……。

 

「うっそ!勿体ないよ!私だったら絶対付き合ってるって!」

 

 その後も散々色々言われたが……割と苦痛な時間だった。

 露骨に嫉妬を向けてくる女子もいたし、反転アンチみたいになっている子もいた。

 逆(?)に以前より更にガンガン来る子もいたが……女社会の陰湿さの序章を知った気分だ。

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