最終話 忍者と魔法使い。時々、超能力者

薄く期待していたような展開は微塵もなく…。

僕らは何事もなく朝を迎えることになった。

「おはよう。良い朝だね」

マリスは朝から機嫌が良いようで美しい微笑みを携えながら僕に向き合った。

「おはよう。朝から機嫌がいいな」

相槌のように挨拶を交わすとベッドから這い出た。

「コーヒー入れるよ。飲めるでしょ?」

「もちろん。ありがとう」

二人揃ってマリスの部屋を出るとリビングへと向かう。

マリスはキッチンでコーヒーを入れており僕はリビングのソファで何気なくテレビを眺めていた。

「昨日…何もしてこなかったね…」

マリスはいきなり意味深な言葉を投げかけてくる。

当然のように頷いて返事をすると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「もしかして…試してたのか?」

僕の返事にマリスは気まずそうに頷くので呆れた様に息を吐いた。

「やめてくれよ。僕だから良かったものの…他の男性には絶対にしないほうが良いぞ?」

「他の男性を家に招くことはないから」

「そう…か」

少しだけ言葉に詰まったような返事をするとマリスはマグカップを二つ持ってこちらにやってくる。

「私はそんなに尻軽じゃないから」

「エルフだしそうだとは思っているが…」

「家に誘われたから期待した?」

「そうじゃないが…心配にはなったよ」

「心配?何目線よ」

「友達としてだろ。知り合って少ししか時間が経ってない男性を家に上げるのか…って一人で心配したぞ」

「なによそれ。私は大丈夫よ。信頼できる相手は分かるから」

「そうか…」

再びそこで言葉が途切れると気まずさからマグカップに手を伸ばした。

熱いコーヒーを口に含んだ所でマリスは続きの言葉を口にした。

「それで。私達…付き合わない?」

口の中に含まれている熱いコーヒーを吹き出しそうだったが、それをゴクリと飲み込んで喉を火傷しそうになっているとマリスは何がおかしいのかクスクスと笑う。

「そんなに驚くこと?こっちに来てしばらく一緒に過ごしたでしょ?たくさん遊びにも行った。何でかはわからないけれど気が合うと思ってるの。それならば付き合ってもいいかなって…あっちの世界では絶対に付き合うことが出来ない二人だし…何だか気分的に燃え上がらない?」

マリスは最後の方の言葉を言う間、挑戦的な笑みを浮かべていた。

僕は何と答えるのが正解か未だに理解できていない。

ただし自分の心に従うのが何よりも正解だと信じている。

「わかった。付き合おう。ただし別れが来たら…向こうの世界に帰ろう。こっちにいたらいつまでも未練が残ると思うんだ…」

「何言ってるの?付き合う前から別れるときの不安?変なの…」

「いや…決まりとしての提案なんだが…」

「だから。絶対に別れないって言ってるの」

「そう…か…。分かった。じゃあいつまでもよろしくな」

「こちらこそ」


こうして妖怪の忍者である僕とエルフの魔法使いであるマリスは交際に至る。

二人はいつまでも幸せに過ごすのだが…。


「世紀のイリュージョニストの登場です!」

いつだったか二人でテレビを眺めている時のことだった。

「あ…こいつだよ。昔、僕に詐欺まがいなことしてきたやつ」

「あぁ〜。なんかそんな話あったね。今ではテレビに引っ張りだこなんだ…報われてよかったねぇ〜」

「まぁそうだな。でもインチキ超能力者だろ?」

「そうじゃないかもよ?私達みたいに何処かの世界から来たのかも」

「そんなこと………無くもないのか?」

「そうだよ。そうだ。今日は何しようか?」

「ん?街にでも行くか。久しぶりに外でデートでもしよう」

「そうね。昔に戻ったみたいで新鮮な気持ちになるかも」

「だな。じゃあ行くか」

「えぇ」


忍者と魔法使い。時々、超能力者のお話でした。

            完

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忍者と魔法使い。時々、超能力者 ALC @AliceCarp

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