第4話お年頃?
「もう風邪は治ったのか?」
本日は待ち合わせ場所に姿を現したエルフの魔法使いマリスを目にして頬が緩んだ。
「うん。もう平気だよ。風邪の間…暇だった」
「僕も暇だったな。変な奴に絡まれたりもしたし…」
「変な奴に絡まれたの?大丈夫だった?」
「ん?変な女性だから。問題ない」
「変な女性?」
「あぁ。自分が超能力者だとか意味のわからないことを言っていたな」
「なにそれ…?新手の詐欺か何か?」
「さぁな。千円札渡してお引取り願ったよ」
「え?お金渡したの?やっぱり詐欺じゃん」
「千円なら問題ないだろ」
「いやいや。ここから発展するのよ。もっと大金をせびられるようになるんだから…気を付けなさいよ」
「大丈夫だろ。妖怪の忍者に勝てる一般女性なんていないよ」
「そうだけど…」
目的地であるゲームセンターに向かいながら僕とマリスは足並みをそろえて歩いていく。
会話を繰り返しながら隣り合って歩いている僕らは傍から見たら仲の良いカップルに見えるかもしれない。
それは客観視する僕にも理解できることだった。
「そこのお兄さんお姉さん!本日カップル割引実施中ですよ!いかがですか!?」
ゲームセンターの直ぐ側にあるカラオケ店で声を掛けてくる店員に僕らは目を向ける。
「カラオケだって。どうする?予定変更する?」
何気なく問いかけた僕にマリスは顔を赤らめて否定の言葉を口にする。
「カップルじゃないんで!割引対象外です!失礼します!」
何故か耳まで赤くしたマリスは引き止めようとする店員の声を無視して先を急いだ。
「申し訳ないね。じゃあお仕事頑張ってください」
店員に別れの挨拶をするとマリスの後を追いかける。
彼女は足早に薄暗いゲームセンターの中に身を潜めていく。
「おい。待ってくれよ。どうしたんだ?急に?」
やっと追いついたマリスの背中に声をかけると彼女は振り返りもせずに口だけ開いた。
「何でも無いわよ。ただ事実を口にしただけだし…」
「まぁそうだけどさ。割引されるならお得だっただろ?」
「………。今日はゲームセンターの気分なの!」
ムキになっているマリスに軽く嘆息すると僕らはそこからメダルゲームやシューティングゲームをひたすらにプレイして過ごすのであった。
深夜になる頃までゲームセンターで遊び尽くすと24時間営業の牛丼屋へと向かう。
牛丼大盛りを頼んだ僕らはカウンター席に隣り合って座る。
「最後絶対にJP入ったと思ったんだけど」
マリスは少しだけ拗ねたような表情で唇を尖らせていた。
「設定やら何やらが悪い日だったんだろ?そんなに悔しいなら魔法で無理やり入れれば良かったじゃないか」
「そんなことしたらズルじゃん。実力でJP取りたかったの」
「変なところで真面目なんだな…」
「勝負は真剣じゃないと面白くないでしょ?」
「誰との勝負なんだよ」
「お店?台?何でも良いけど…とにかく真剣勝負だったの」
「そうか。お腹空いてるんじゃないか?」
「何で?空いてるけど…」
「イライラしてるんだろ。マリスが不機嫌になるなんて…普段そんなにないから」
「そうかな…ゲームセンターって時間を忘れてしまうから。夜ご飯食べていないことも気にならないほど熱中してた…」
「そうだな。今度行くときはちゃんと途中で食事休憩取ろうな」
「うん。また一緒に行ってくれるの?」
「ん?当然だが?」
「そう…なら良かった…」
僕とマリスの少しだけ噛み合わない会話が続いたところで店員が牛丼を持ってこちらにやってくる。
「牛丼大盛り二丁。おまたせしました」
カウンター席のテーブルの上に店員はそれを置いて去っていく。
「じゃあ食べるか」
「うん。お腹空いた」
「エルフって肉食えるのか?」
「ん?食べられるのは私だけじゃない?」
「そうか。じゃあ気にしないで良いな」
「何を?」
「いや、一緒に食事に行く時に食べられない物があると店を考えるだろ?」
「あぁ〜。私は元々何でも食べられるよ」
「そうか。じゃあ食べよ」
そうして僕らは牛丼大盛りを食すと会計へと向かった。
「牛丼大盛り二丁で1300円です…」
店員はそこまで言った所で僕らの様子を確認していた。
「あ…カップル割引していますよ。大盛りなら一杯150円引きなんで…1000円になります」
店員の空気の読めている様な、読めていない様な発言で再びマリスが不機嫌になると感じるのだが…。
今回、マリスは何も言わない。
ただ黙って出口に向けて歩いていくだけだった。
背中をこちらに向けているマリスに余計な言葉を投げかけるわけもなく。
僕は千円札を出して会計を済ませる。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
店員の言葉を背中に受けて僕らは店の外に出る。
「ありがとう。ごちそうさま」
「ん。じゃあ今日は解散するかぁ〜」
「ちょっと…」
マリスは僕の服の袖を軽く握って引っ張る。
「ん?どうした?」
「もう少し一緒に居たいんだけど…」
「良いけど。もう何処も遊べる場所は営業していないんじゃないか?」
「そうだけど…」
「何だよ?何処か行きたい場所があるなら言ってくれ」
そこまで言うとマリスはどうしようもない表情で仕方なく重たい口を開いた。
「じゃあ家に来ない?」
「え…」
「良いから。行こ」
マリスに手を引かれて僕は初めてマリスの家に行くことになるのであった。
次回。
マリスの家にて…
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