征服
世界には三つの大国があった。
一つは活気に優れた黄色の国。一つは武力に優れた赤い国。一つは知力に優れた青い国。
それぞれは元々遠く離れており、干渉はほとんどなく、関わるようになってもそれぞれの国でしか取れない資源を公平に取引する関係だった。
しかし長く日が経つと黄色い国に不作が襲い、世界中で貧困が蔓延したのだった。よって赤の国と青の国にも黄色の国と同様の混乱は起こり、その結果として世界戦争になったのだった。
そんな時、青い国に一つの光の柱が現れる。これは伝承の通りであれば、万物の力を所有する世界王の誕生を意味する。
元々三国は古い信仰を捨ててはいなかった。むしろ、そこに意味を探していた。
いつか現れるであろう、世界王。その力は三国のどこにあるのか、すなわち、創造者が愛した能力とは活気や元気なのか、あるいは武力なのか、または知力なのか。
ただ答えはどうやら知力のようだ。戦争中という事もあり、黄色と赤は大きく絶望し、青は勢いついた。
これは不手際なのか、その数日後に赤い国にも光の柱が現れたのだった。すなわち、正解は一つではなかった。
そう、すでに答えは出ていたのだ。
だがそれがどうしたのだ。正しいからと貧困が止むことはなく、戦争は終わることはない。むしろここからが始まりだった――――どうやら人類が望む答えは一つらしい。
それから数年して戦争は一時的に休まったが、さらに十年経った頃に赤い国の突然の攻撃から再開した。
どちらが優れているのか、力をつけて大人となり、王となった二人が戦い始めた。
片方は単純な武器と暴力、もう片方は頭脳によって得られた技術と戦術。
激しい戦いが十年近く続いた。
青い王はその戦いの中で、なぜ人は争うのかを考えた。赤い王は逆に、どうしたら人を殺せるかを考えた。
ある程度分かっていたのだろう。相反する考えではあるが、その両方の行きつく先は終戦だった。永遠の眠りか、刹那の絶滅か。
決着のつかない戦いに勝負を決めようと、ついに青の王と赤の王が初めて戦場で顔を合わせた。
そこで赤の王は驚いた――――青の王と自分が瓜二つであることを。
青の王は赤の王のその様子から事の顛末を話すことにした。青の王はとっくに解明していたらしい、二人が双子であること――――赤子の弟が赤の国に誘拐されていたことを。
赤の王はさらに自国の歴史の裏を伝えられる。元々知る必要もなかったことを。
最初は信じれなかっただろう、しかしてそこにあるのは自分と同じ顔、見れば嘘でないことが分かったみたいだ。
この事実を知った赤の王は青の王に戦争の中断の交渉をした。青の王はもちろん、了承し、この長い戦いは終わったように見られた。
たが、赤の国の政治家及び民は不満を募らせていた。赤の国は長き戦争の中で、すでにギリギリの状態だったのだ。勝たなければ終わると理解していた。
内乱が起こり、赤の王を殺そうとするものが現れる。念密な暗殺計画、こうなったのは赤の王の傲慢だろうと。
そして暗殺者は赤の王の部屋に忍び込み、その首を狙おうとした――――そこには誰にもいなかった。
部屋には一つのテレビがある。映っているのは――――青の国にて、笑顔で握手をしていたその双子の姿だった。赤の王は国を裏切り、青についたのだった。
それからは酷いもので、すでにボロボロだった赤い国は一つとなった世界王によって壊滅、完全に支配下に置かれた。
さらにはそれほど関係のなかった黄色の国までもが支配されたのだった。
兄の頭脳、弟の力。合わさってまさしく逆らえるはずのないものだった。
二人は世界を征服すると、その平和を祈って酒を飲んだという。
ただやはり作り笑いもわかるようで、兄は弟の気持ちを分かっていた。ゆえに弟は兄に伝えた「なぜ黄色の国までも支配したのか?」
兄は「その答えは一つ」と返した。
その日からだろう、テレビに映る二人の顔がどうやら似つかなくなったのは。
だけれどもそう思うのも僕一人だけになってしまったようだ。
そして僕も明日にはわからなくなっているだろう。
きっと初めからこうするつもりなどなかった。
しかして兄は多くの争いの中で心を痛め、その頭脳よりも、自明の解よりも、憎しみが上回ってしまったのだろう。
ゆえに救われたのは結局、兄一人だった。されど、その世界は争いなど存在しないが、同じくして人間も、気持ちを分かち合える人もなし。
弟がいつか言っていた。
「最初から自分が正しいなどとは思っていなかった。周りが立てるから自分は洗脳された、いや、自分で洗脳した」
そうすれば楽になれるのかと。覚悟のない兄は、その首に巻こうとした手綱を捨て去り、自分に唱えたのだった。
これにて綻び、世界王は全てを終わらせた。
文話 ラッセルリッツ・リツ @ritu7869
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