第7話
柏木と飲み終わり電車に揺られている時、1通のラインが入った。母からだ。
〈仕事みつかった?ちゃんと働きなよ。〉
盛大にため息が出る。
俺の両親は俺が仕事辞めた理由も、うつ病になったことも、前働いてたレストランに戻ったことも知っている。
まだ行ける日行けない日がある為、バイトという形で働かせてもらっているが、正社員に早くなれとうるさく言ってくる。
病気という事を理解していないのだろう。
つまり俺は親を全く頼れていない。
打ち明けた時も、病気になるのは簡単。そこで踏ん張って食らいついていかないと。折れるのは楽なんだから頑張ってないだけ。
と、散々に言われてしまった。それ以降親に気持ちを打ち明けることもないし、頼る気もない。
頼れるのは自分だけ。俺が我慢すれば全て終わる話。
ラインは返す気になれなかったので返さないことにした。
その日は気分が悪くなりすぎた。
光があれば影があるように何事もセットだと俺は思っている。
例えば辛い過去があるから楽しい今があるとか、平日頑張って仕事したから土日の休みがうれしく感じるなど。
何事もセットであるからこそ意味を成す。
毎日休みだと退屈になるだけだし、辛いことがないと成長がないから平凡になっていく。
その点俺は今どん底にいるから、そのうちいい事あると信じていたが、最近はもうそんなことはない、と思いつつある。
もうなにも楽しいとは思えない。
日は変わり日差しがとても眩しい日。実家に帰ることにしてみた。
金銭的に厳しいので食事代が浮く為、実家に帰ることにした。
親の小言も全てご飯のためと思うことにした。
「ただいま?」
実家に久しぶりに帰る時はただいまが正解なのか、お邪魔しますが正解なのかわからなくなって疑問形になってしまった。
「仕事は?」
「休み」
「働きなよ」
「働いてるでしょ」
多分俺のことをなんとも思っていない。お金稼いで恩返ししてくれる〈物〉だと思っている。
「未来は自分で明るくもできるし、暗くすることもできるんだよ。佐倉はどうなりたいの」
本を読んでいると、突拍子もなく声をかけてきたと思えばこれだ。
どうなりたいかなんてわからないし、どうなってもどうでもいい。そう思えるほど人生という物がどうでも良くなっていた。
故にこの言葉を聞き流す。
そして文字の羅列に目を戻した。
「聞いてる?都合の悪いことになるとすぐ無視するよね」
「うん」
聞く気がないから無視をしているんだがそれに気づくわけないし、半分正解な気がしたからなんとも言えない。
「どう考えてるの?これからどうするの?言ってくれなきゃなに考えてるかもわからないよ」
「そうかい」
「はあ」
盛大なため息が聞こえてきたがそれすらも聞かなかったことにする。
わかろうとしていないくせにわからないとか言われても何とも言えない。
わかろうとしてくるなら絶対にまず今のうつ病の状態を聞いてくるはずだ。
そしてどんな症状があるのか知らないならそういうことを尋ねてくればいいのに、そういう事は全く聞かないで仕事しろと口うるさく言ってくる。
これは帰ってきたのは失敗したか。
今頃後悔してもだいぶ遅いが後悔した。
食事だけしてそれ以外の時は外に出ていよう。
そう思い、本とタバコを持って外に出た。どこで本を読むか散歩しながら悩んでいると、小さい頃よく遊んでいた公園が目に入った。
今日は天気も良く、夏ほど暑くないし心地よい風も吹いている。
缶コーヒーを近くの自販機まで買いに行き、公園のベンチに腰を落とした。
そのまま風が頬を撫でていくのを感じながら読書をした。かなり有意義な時間を過ごしている実感を経て、1時間少したったあたりで物語から現実に戻ってきた。
辺りは暗くなり始めていて、夕焼けがとても綺麗だった。空が青とオレンジの境目の、何とも言えない美しさを感じながら、しばらく物思いに耽った。
家に帰りたくないな。
そう思いながらタバコに火をつけた時、ラインが来ていることに気がついた。姫からだ。
〈今どこにいる?カフェ行こうと思ってたんだけど、しろもどう?〉
〈今実家近くの公園で読者してたところ。そしたらお言葉に甘えてついていこうかな〉
〈了解!そしたらコンビニこれる?〉
〈行ける。着いたらまた連絡する〉
ちょうど暇潰させるタイミングで姫が連絡くれたのが、ものすごく嬉しかった。
姫にも会いたかったしちょうどいい。
姫から送ってもらったコンビニの位置情報を見て、歩き始める。
柏木との飲みの話もしたいし、家にいたくない事も相談したい。だけど相談しすぎても申し訳ないしな。気を使わせてるし、話のネタがなくなったら話す程度にしようと、色々考えていたら割とすぐコンビニに着いた。
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