SALLY(出撃)

 宇宙紀元U.E〇一七九年一月二十二日。

 地球連邦宇宙軍E.F.S.Fと、宇宙Space生活圏Life AreaTroopsの主力がにらみ合う、軌道エレベーター・オービタルリング外縁沖宙域。

 そのはるか上方の宙域を進むS.L.A.Tスラットの艦隊があった。

 巨大な円盤の上に、葉巻型の本体が乗っかっているような異彩。

 洋上艦を模した連邦艦とは一線を画した、奇妙な意匠の艦艇群である。

 S.L.A.Tの隠し玉、汎用人型機動兵器ガルガンチュアの運用を目的とした戦闘艦、アクトリス級強襲巡洋艦。

 弓型陣形で進む五隻のアクトリス級から成る艦隊、その先頭を駆ける艦隊旗艦『ポワチエ』

 艦長席キャプテンシートに座る、落ち着いた雰囲気を漂わせる、くすんだ金髪をきっちりとまとめた四十男が、艦内通信インターカムの通話機を手に取り一斉放送を始めた。

「『ポワチエ』の勇敢なる紳士淑女の諸君、艦長のリーガルだ。各々おのおの作業の手は止めずに聞いてくれたまえ」

 放送を案内するジングルが流れた後、甘いバリトンの美しい英国式発音が艦内に響き渡る。

 何事かと一瞬手を止めかけた者もいたが、リーガルの声に従って己が作業に戻っていく。

 低く唸りを上げる動力機関を調整する者たち、近接防御装備の作動テストをする者たち、格納庫に並ぶ人工の巨人の最終整備を施している者たち、目の前に表示される様々な数字のチェックに余念のない者たち、作戦の手順を確認していた者たち、様々だ。

「地球からの独立という、宇宙移民者百有余年の念願を叶える時がすぐそこまで来ている。武力行使という形は悲しいことだが、話し合いのテーブルにもつかない母なる星を振り向かせるには致しかたないと割り切ろう。……美女を口説くには、時に強引な手を使った方が良い場合もあるからね」

 リーガル特有の持って回った語り口に、またかと苦笑を浮かべるクルーたち。

 良い意味で、艦内の緊張がほぐれていく。

「電子戦術部隊がもたらした開戦の大勝によって、我々の本気を見せつけることが出来た。こちらのアプローチに美女もその気になってきているようだ。見たかね? あのお出迎えのゴージャスなことを、我が軍との圧倒的な物量差を」

 舌が回りだしたのか、口調に芝居がかるリーガル。

 作業を終えた様子の一部のクルーは、手を休め楽しそうに聞き入っている。

「戦いは数、真理だ。しかし、それだけで決まる訳ではない。歴史を紐解けばそんな例はいくつもある。そもそも、戦力差を言い出したら我々が地球に戦いを挑むなどバカげたことだ」

 リーガルの言葉に思い当たることがあるのか、同意するかのようにうなずく者がちらほら。

「だが、我々は戦う道を選んだ。なぜか? ――量をくつがえせる質を有しているからに他ならない。安寧な世界にまどろんでいた連邦軍に対し、我らS.L.A.Tの戦士たちが研鑽を怠った日はない!」

 艦長の声に、静かに熱がこもりだす。

「思い出したまえ、厳しかった訓練の日々を、耐え抜いてきた苦難の数々を。誇りたまえ、鍛えぬいた心と身体を、磨き上げた技量を。すべてを乗り越えて、今、諸君らはここにいる、為すべきことを為すために!」 

 耳を傾ける乗員たちにも、沸々と熱い思いが込みあがっていく。

「我らがけして弱者ではないことを、地球連邦かれらに知らしめよう。向き合う資格のある、対等の存在だと認めさせよう。そして、子は親から離れ大人になるものなのだと、わからせようではないか!」 

 意識せず艦長席から腰を上げ、熱弁をふるうリーガル。

「S.L.A.Tの勇者たちよ、戦おう。自分たちの明日のために。子や孫たちが束縛されず、自由に生きていける世界を渡すために! ……そして、誰ひとりとして欠けること無く凱旋しよう。諸君らの帰りを待ち侘びる愛する人たちのために。――私からは以上だ」

 言い終えるとリーガルは通信装置を切り、艦内宇宙服ハードスーツのヘルメットを被り、シートに深く腰を下ろした。

 ブリッジにいたクルー全員が彼へと向き直り、一斉に敬礼をする。

 礼を返しながら、リーガルは苦々しさを感じていた。

 戦争殺し合いをやって犠牲者を出させないなど、綺麗事にすぎない自分の言葉に。

 ――しかし、それでも願ってしまう。

 この戦いに身を投じた若者たちが、ひとりでも多く生き残ることを。

 

    §     §     §


「……リーガル卿ロードもしんどいのぅ」

 英国没落貴族の末裔という経歴の持ち主であるスティーヴン・リーガル艦長は、旧知の者や部下たちから親しみを込め ロードと呼ばれていた。

 乗組員たちを鼓舞するためとはいえ、戦争当事者が口にするべきではない言葉を放ったロードの心境。

 それをくみ取り苦笑しつつこぼしたのは、堅肥り体型の坊主頭でヒゲ面、おまけに似合っているとは言えない黒縁伊達メガネをかけたヒスパニック系の中年男。

 彼がいるのは格納庫傍にあるブリーフィングルーム。

 目の前にはてんでバラバラに席についている、男女計八人のパイロットたち。

 皆、若い。ほとんどが二十代前半だろう。

 落ち着いた振りをしているが、さり気ない仕種などから、不安と緊張をぬぐい切れないのが見て取れた。

 無理もないと、ヒゲ男は思う。

 S.L.A.Tで実戦を経験した者など、自分を含めた一部の兵以外いないのだから。

 宇宙戦闘に関しては連邦軍も似たようなものなのが救いだが、あちらには地球という舞台で幾度となく繰り広げられてきた様々な戦いの歴史がある。

 それを軽視するのは、ただの愚か者だ。

「……作戦の概要はさっき話した通りじゃ。飛び込んでってしごぉしたらいぬる。みやしかろ?」

 わざとトーンを高くしたヒゲダルマのきついお国言葉が、先ほどまで聞いていたリーガル卿の美しい発音との差を生み、若いパイロットたちのほほを緩ませる。

「――気合は入れとけ、じゃが気負い過ぎちゃ~いけん。戦果を求めすぎんでまず生き残ることを考えぇ。生きとりゃあ何度でもやり直せるけぇの。艦長もゆうとったろ? 生きとりゃいつかええこともあるけぇ。ま、そう言うことじゃ」

 いくらか緊張のほどけた皆の顔を見まわしてから、自身も凶悪ながら愛嬌ある笑みを浮かべ、

「じゃけぇ、自信と安心もって突っ込んでけ。ケツは隊長のワシと」

 言って右手親指で自分を指し、傍らに立つ頭ひとつ高い筋骨隆々とした黒人の大男を示して、

「副長のディーロン、ワシらダッドリーブラザースが持つ。帰り道後ろは気にせんでええ」

 隊長と同じような黒縁の伊達メガネをかけた、ディーロンと呼ばれた大男が、そっと十字を切って小さく天を仰いでから前に向きなおり、白い歯を見せ豪快な笑顔を見せる。

「送りオオカミの相手は頼みましたよ、ババ隊長殿?」

 余裕が出てきたのだろう若者のひとりがかけた気安い言葉に、

「任せぇ赤ずきん。安心してお使い行けぇや」

 同じ調子で応える、ババ・レイモンド・ダッドリー大尉。『ポワチエ』 ガルガンチュア隊々長。

「おばぁさんによろしゅうな?」

 続けた言葉に、どっと笑い声が上がる。

「――よっしゃ、話はこれで終わりじゃ。各自機体に搭乗、作戦開始まで待機。解散」

 ババの号令に一斉に起立し、敬礼するパイロットたち。

 彼らの顔に不安は、もう無い。

 若いパイロットたちが出て行ったブリーフィングルームで、ババは深いため息をつく。

「ああはゆぅたが、何人が帰ってこれるかのぅ……」

 軍司令部が見積もった作戦損耗率はおよそ三〇パーセント。

 単純に考えても『ポワチエ』 のガルガンチュアパイロット十人のうち三人は未帰還となりえるのである。

 この艦隊でも二艦が沈むかもしれないのだ。

「兄さん、天は自ら助くる者を助く。リーガル卿も言ってたろ? 己の為すべきことを為せって」

 見かけと口調のわりに繊細なババの肩に手のひらを乗せ、穏やかなまなざしでディーロンが言う。

「僕たちが一年かけて鍛えた連中だ。そう簡単にやられたりしないって」

 いかつい顔をしているが思慮深いディーロンの言葉に、ババの顔から険が消える。

「おまーにゆわれるとそぎゃあな気がしてくるんは、やっぱり徳かのぅクレリックお坊さん?」 

 照れくさそうに言うババに、

「悩める子羊あるならば、いつでも耳を傾けましょう」

 芝居じみた動作でいかにもな聖職者っぽいポーズをとる『ポワチエ』 ガルガンチュア隊副隊長、ディーロン・ダッドリー中尉。

 軍に入る以前神学校に通い、神職の資格を得ているという変わった経歴の持ち主である。

 必然的に従軍牧師の任に付き、艦長をはじめとする多くのクルーの相談相手を務めていた。

 それは異母兄ババが相手でも変わりはない。

「そん時ゃ、頼むわ。ま、互いに生き残ることが先じゃがの」

 自分の内で収まりがついたのだろう、苦笑を浮かべて言うババに、ディーロンは鷹揚にうなづく。

 少し遅れてブリーフィングルームから出てきたババたちを呼び止める、若い女の声。

「ババきょ、いえ、隊長。お願いがあります」

「――なんじゃ、ストラトス伍長?」

 搭乗待機を命じているのに、この場にいる部下へと怪訝な視線を向けるババ。

 邪魔にならないようにとまとめられた金髪、好奇心の強そうな猫目のキュートな顔立ち。

 トリッシュ・ストラトス伍長である。

 淡い山吹色を基調としたパイロットスーツに、鮮烈な赤い色がアクセントとして入っている。

 そのスーツの大きく開かれた胸元からは、こぼれんばかりの双丘と谷間が覗いていた。

 別に見せびらかしている訳ではない。

 コクピットという閉所での行動を妨げないようパイロットスーツは体型にフィットするよう伸縮素材で作られているが、結構タイトなのである。

 平時には前面ファスナーを開け拘束感を緩めるのは、パイロットのお約束なのだ。

 咎めるようなババの視線に反射的に退いてしまいそうになるのは、日頃の薫陶の賜物か?

 パイロット候補生時代よりダッドリーズから受けたは、正式に兵士となった今も身体と心の芯に刻み込まれている。

 乾いた口中から無理やり唾をかき集め、のどを潤して震える声で告げるトリッシュ。

「――ア、アタ……いえ、自分に先陣を切らせてほしいんですっ」

「――あ?」

 間髪入れず返ってくる、ババのドスの効いた低い声。

 意味するのは 「ふざけとんか、ワレ?」 である。

 決行されようとしている本作戦において、ガルガンチュア隊先陣には重大な役目がある。

 それは奇襲によって人型機動兵器の有効性を連邦軍に知らしめ、なおかつ初撃でダメージを与え混乱させるというものだ。

 故に実行する者には、それを担えるだけの十分な技量が要求される。

 ポワチエにおいては、ガルガンチュア運用初期からのパイロットであり、教官役もこなしてきたベテラン、ババ・レイモンド・ダッドリー大尉が任されることとなっていた。

 そこへトリッシュ新兵のこの発言である。ババの目が剣呑になるのも無理はない。

「……ストラトス伍長、ワレ自分が何ゆぅとるかわかっとるんか?」 

 抑えた、しかし重く冷たい響きのババの言葉に、

「わ、わかって言ってますっ。自分にやらせてくださいっ」

 ビビりながらも、ハッキリと自分の意思を伝えるトリッシュ。

 ババが何か怒鳴りかけたところへ、

「まぁまぁ兄さん、少し抑えて。――先陣をやりたい理由を聞こうか伍長?」

 やんわりと割って入るディーロン・ダッドリー副隊長。

 が、トリッシュを見る目には、真意を見極めようとする怖いものが浮かぶ。

 神職の資格を持つ人格者のディーロンではあるが、彼もダッドリーの名を持つ男。一度火が付けばその苛烈さは吹きすさぶ嵐の如し。

 ダッドリーズのふたりに一年余りも訓練を受けていたトリッシュだ、骨身に染みている。

「ただ手柄が欲しい、いいとこを見せたいとか……わかるね?」

 笑っていない視線を向け、処刑宣告にも似た言葉を放つディーロン。

 ガタガタと震えだしそうな脚をなんとか抑えこみ、ダッドリーズを見つめ返して口を開くトリッシュ。

「――っ、て、手柄が欲しくないとは言いません。いい恰好したいっていうのも、正直あります」

 ダッドリーズが放つ怒気が、爆発的に膨らみあがる。

「そ、それよりも、隊長の負担を少しでも減らしたいと思ったんですっ」

 怒気に当てられ顔を青くしながらも、自分の考えを言葉にしていくトリッシュ。

「さ、先ほど言われました、殿しんがりも務めると。先陣を切った上にアタシたち新兵のフォローまでって……。だったらせめて、どちらかに専念してもらいたいって」

 思いを言葉にしていくうちに落ち着いてきたのだろう。トリッシュの口調が滑らかになっていく。

「艦長も仰っていました、誰ひとり欠けること無くと。隊長と副隊長にはアタシら新兵が勝手に死んだりしないように見守っててほしいんです」

 そんな言葉に顔を見合わせるダッドリーブラザース。

「先陣切るのも大変な任務だってわかっています、でもやるのはポワチエ隊だけじゃありません。万が一失敗してもアタシひとりが欠けるだけで大した影響はありません。けど大仕事こなした後にアタシたちのお守りまでさせて隊長に何かあったりしたら……」

 トリッシュの言っていること、本人的には筋が通っているつもりなのだろうが、ガバガバだ。

 要は感情の問題で、ババに無理をさせたくないと言っているだけだった。

 頭ひとつ低いババの耳に、顔を近づけてディーロンが囁く。

「慕われてるねぇ、兄さん」

 からかい含みのそれに、

「……かもうな」

 つまらなさそうにあっちの方向を見て返すババである。

「――だから、ですねぇ」

「もうえぇ」

 すでに破綻している説明を続けようとするトリッシュに、ぴしゃりとババ。もうすっかり怒気は抜けている。

「ひとつだけ訊く。――やれるんか?」

 怒りはないが、性根を試すような強い視線を向けて問うババ。

「やります!」

 ババの視線をしっかりと受け止め、負けないくらいの力強さで返すトリッシュの透き通った碧い瞳。

 その返事にババは大きくうなづき、顔を上げ大きな声で告げた。

「トリッシュ・ストラトス伍長っ、先陣を命ず!」

 告げられた言葉に一瞬呆けるトリッシュへと、

「復唱はどうしたっ!?」

 姿勢を正した上官の声。

「ストラトス伍長、先陣を務めます!」

 背筋を伸ばし脚をそろえ、きっちりとした敬礼で復唱するトリッシュ。

「耐Gスーツに着替えて自機で待機。急げよ」

 つっけんどんに返すババに、

「ハイっ。――隊長、大好きっ」

 言い終えてから抱き着くトリッシュ。

「ふうが悪ぃわっ、さっさと行けぇ」

 迷惑そうに振り払って邪険にするババ。

 トリッシュは顔をほころばしたまま、傍らのディーロンに敬礼して、流れるように更衣室へと去っていった。 

「兄さん、顔赤いよ」

 微笑ましいものを見た顔でディーロン。

「――じゃかましい」 

 照れ臭さを振り払うように、通路備え付けの通話機を手にするババ。

「――スパークか? ワシじゃ。換装は……すんどらんか、ちょうどえぇ、変更じゃ。ストラトス機に先陣用装備を。あーえぇ、話はワシがするけぇ。――ほんじゃぁの」

 内容から察するに、ガルガンチュア整備班への連絡であろう。

 ババは一旦通話を終えると、即、別のコールボタンを押す。

「ババ・ダッドリーです。先陣担当の交代を報告します。自分からストラトス伍長に。――はい、それは大丈夫です。はい、はい責任は自分が……いえ、とんでもありません……、はい、ありがとうございます、艦長」

 通話機を戻すと大きく息を吐くババ。

「ご苦労様」

 背中から異母兄の両肩に手を置き、揉み解しながら労うディーロン。

艦長ロードはなんて?」

「"君が任命したのなら間違いはないだろう。何かあったら全責任は艦長の私が持つ" じゃと。買いかぶられたもんじゃ」

 気持ちがくすぐったそうなババの肩を揉みつつ、

「――正当な評価だって」

 ディーロンが笑みを浮かべて言う。

 ババはなにも返さない。

「さ、僕たちも急がないと」

 ババの肩に手を置いたまま、ディーロンが押すようにして急かす。

「上官が遅れたら、下に示しがつかないからねぇ」

「じゃの、行くぞディーロン」

 電車ごっこ状態ダッドリートレインで通路を進んでいくふたり。

 抜けた先は格納庫。

 S.L.A.Tの秘密兵器、ガルガンチュアがその巨体を佇ませていた。

 

    §     §     §

 

 淡いグリーン系統で塗り分けられたボディに、アクセントで入る鮮やかな赤。

 重戦闘装甲服を着込んだ人間を、そのまま巨大化させたような姿。

 背部や両碗、両脚にオプションパーツを取り付けた威容。

 横になったまま吊り下げられて、格納庫から発進デッキへと運ばれていく。

 所定位置で固定兼用作業アームが動き、巨体をゆっくりと立たせる。

「ストラトス機、発進位置へ」

 ヘルメットの内蔵スピーカーから、発艦担当士官の指示が聞こえる。

 指示に従って滑走路ランウェイ電磁射出装置リニアカタパルトに自機を乗せるトリッシュ。

 ヘルメットの中で呼吸する音がこもる。

 特殊ゲルを内蔵した耐Gスーツの下で、心臓が早鐘を打つのがわかる。

 操縦稈を握る手が震える。足裏にあるはずのフットペダルの感触がわからない。

 冷や汗でインナーが染みる。意味もなく体を動かしてしまいそうになる。

 トリッシュはひどく緊張していることを自覚していた。

 落ち着こうとするのに、何かが滑って空回りしている。

 "大、丈夫。手順通りにすればいいだけ……手順ってどうするんだっけ? ええっと、えっと……"

「――ストラトス伍長、用意はええか?」

 突然耳朶に響く、太くたくましいドラ声。

 白いもやがかかっていたトリッシュの頭の中が、一瞬でクリアになる。

「やれる、ゆうたんじゃ。ちゃあんとやってみせぇよ?」

 この一年、いやになるほど聞いていた、ヒゲダルマの声に気持ちが安らぐ。

「――ババ隊長の名に懸けて!」

 知らずに声が弾む。

 先陣を任せてくれた隊長の信頼に応える。その思いがトリッシュから力みを抜いた。

「ストラトス機、発進!」

 ランウェイの先端にあるシグナルがグリーンに変わり、発艦担当士官からのコール!

「トリッシュ・ストラトス、行きまぁす!」

 リニアカタパルトが機体を加速し、艦外の宇宙空間へと送り出す。

 艦から離れると同時に、グッとフットペダルを踏みこみ操縦桿を前へ押し出すトリッシュ。

 ガルガンチュアの背と脚部に備え付けられた推進器が炎をあげ前へ進める。オプション装備の増速ブースターの推力も合わさり機体をさらに加速していく。

 トリッシュ機ははるか下方で展開されている、連邦宇宙軍艦隊へ向かって突っ込んでいった。


――次回へ続く――


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