第198話 投擲特化
琥珀豹と
数ある魔物の中でも上位に位置するであろう二種の戦いは、極めて静かに開幕した。
初手はレヴィンの『珀晶生成』。
だが、レヴィンの魔法は不発に終わった。一瞬、
レヴィンは怪訝そうに目の上の
レヴィンの魔法が不発に終わることはそう珍しいことではない。例えばシルティを同じように捕獲しようとすれば、彼女はどういう感覚によるものなのかそれを的確に察知して加速し、生成座標に身体を割り込ませて不発を引き起こす。
だが、今のように奇妙な痕跡が残ったことはない。姉とはまた別の手法で不発化させられたと考えるべきだろう。まあ、
姉と
レヴィンはすぐに思い至った。
生成済みの珀晶に
自分の魔法の特性も
レヴィンは自らの馬鹿さを呪いつつ、次なる手を打つために素早く獲物の形を把握する。
だが、レヴィンが二手目を打つより早く、
左腕のラウンドシールドを思い切りよく捨て、魔法『
先ほどと違って、肌や鎧下の露出がない。これでは体表に接するような窮屈な珀晶を生成することは不可能だ。
どうやら
一見すると威嚇のようにしか思えないが、これは彼女なりの称賛の表情である。
珀晶による拘束という手段を封じられたレヴィンは一瞬の沈身で力を蓄え、即座に跳び出した。地を這うような低空の疾走で一直線に獲物へと肉薄する。
だが、
シャランという涼しげな金属音と共に空気を引き裂くのは二十枚の大きな輪。直径は拳三つ分ほど、非常に薄く、見るからに鋭利。
十枚ずつ重ねて保持していたものを投擲したらしい。投擲時に互いに干渉したのだろう、適度にばらけ、水平方向に広がる。
シルティの飛鱗と違って空中を自在に泳ぎ回ることはないが、レヴィンの身体が大きいこともあって、チャクラム同士の隙間に身体を滑り込ませることは難しそうだ。
下がって距離を取るべきか。
姉譲りの嗜好が真正面からの突入を選択させた。
投げられたチャクラムは二十枚だが、自身に命中するのは五枚程度。重ねて投げられたため、全ての角度は揃っている。これならば掻き分けることは容易いだろう。
長く鋭い
よし。このまま肉薄する。
前肢で地面を掴み、脊椎を大きく屈曲。生産した莫大な力を後肢へ流そうとしたところで、レヴィンは相手を
透明な障壁の向こう。振り
馬鹿な。早すぎる。
レヴィンにとって
咄嗟に尻尾を振り回し、反動を獲得。流しかけた筋力の向きを変え、後肢を揃えて地面を蹴り、上方へ大きく跳躍する。追加で生成した足場を踏み付け、鉛直に空中を駆け昇った。間一髪、先ほどとは異なる角度で飛来したチャクラムが楔形障壁を食い破り、消滅させる。
さほど体積を費やした障壁ではなかったとはいえ、ああも簡単に。やはり、単純な強度であれを弾くのは難しそうだ。
陸上生物とは思えない軌道で回避した琥珀豹を追いかけ、さらに追加のチャクラムが投擲された。まるで駄々を捏ねる子供のように縦横無尽に振るわれる
レヴィンは死から逃れるために忙しなく空中を駆け回った。両の眼球が爛々と輝いている。見るからに大興奮のご様子だ。シルティの『
「おぉーっ、凄い。こんな
背後から呑気に観戦していたシルティは称賛混じりの感嘆の声を漏らした。
魔法『光耀焼結』は『珀晶生成』と違い、最初から完成品が出現するわけではない。最初に芯とでも呼ぶべき極小の基部が創出され、それが急速に成長して望みの形状を取る。
この
マルリルは
マルリルに才能がないというわけではないはずだ。これまで出会ってきた
つまり、単純にこの襲撃者の才能が飛び抜けているのだ。
「いいなぁ、楽しそう……」
自らの方へ飛んできたチャクラムの中央穴に〈永雪〉を
ここまで投擲攻撃に特化した相手などそうそう出会えるものではないのだ。
「レヴィンに譲るにはちょっと惜しい殺し合いだったかもなー……」
若干大人げないことを呟きながら、シルティは妹の雄姿を見守った。
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