第192話 少しだけ引いた
世界最強の六肢動物の一種、
つまり、
レヴィンが生成した珀晶製の調理器具を用いて、刺身にしたり、塩を振って網焼きにしたり、胡椒醤油で味付けした血で炒めたり。
生肉や生き血の摂取は
だが、当人が目を血走らせて『食べさせてくれないと死ぬ』とまで言ったので、仲良く三人でご賞味である。
せめて食べやすいよう可能な限り細かく切ったため、刺身というより
人類種的な味覚では血炒めが最も美味しく感じられたが、レヴィンは血の滴る生肉塊を貪る方を気に入ったようだ。どちらにせよ血が絡んだ肉が美味しい。まだ二種しか賞味していないが、竜の血は単独よりも肉と合わせた方が美味しい傾向があるのかもしれない。
充分に味わったら残る死骸を丁寧に解体し、三者の〈冬眠胃袋〉に収納する。
しかし、カトレアは率直に言って半死半生。金肉も随分と減ってしまった。彼女の負担はなるべく少なくしたいところ。
冷蔵必須の部分は〈冬眠胃袋〉に収納しなければならないが、両肩の棘や
「……ふふ」
シルティは根本から切り離した肩棘を両手に持ち、
優美な弧を描く
さて、芯には脂肪質で薄赤色の骨髄が詰まっている。ここは腐るので取り除かなければならない。
ひょいと空中に放り投げ、〈
ただ捨てるのも勿体ない。レヴィンに器を生成して貰い、
塩と胡椒を振り、指先に付けて味見。
「んっ。美味しい」
脂肪が非常に多くて
「カトレア、
「う、ん」
「ん。ちょっと待っててね」
「……はぁぁ……」
骨髄を調理するシルティの横で、珀晶製ベッドに仰向けに寝たカトレアが万感の籠った息を吐いた。
ついに成し遂げた竜殺し。嬉しすぎる。めちゃくちゃ高価だった『空想顔料』の
今はただ、噛み締めよう。
目を閉じる。
フェリス姉妹が
陽光の透ける赤い瞼の裏に
視覚を土台として他の情報を上乗せする。匂い。味。香り。手触り。この身に許された全ての機能を使って獲得した全ての情報を全力で
自らの内側へ意識を向ける。
形と色のある想像上の
目を開ける。
日除けとして生成された珀晶を背景にして浮かぶ小さな
首を回し、先ほどまで己が倒れ伏していた場所へ視線を向ける。
生命力導通を失い、単なる液体金属として地面に広がる
おいでともお
「ふふ。うふッ。ふふ……」
肋骨が
最初の疑似
カトレアは
また、
今思えば、よくもまああんな完成度で竜の感覚を欺けるつもりだったものだ。思い上がりも甚だしい。
だが。
次は。
いける。
傍に寄ってきた
(……かわい)
以心伝心なフェリス姉妹の生活を連日眺めていたことで、カトレアには強い羨望の感情が芽生えていた。今まではあまり猟獣が欲しいとは思わなかったのだが、賢く可愛らしくそして強いレヴィンという存在はカトレアの意識を完全に刷新したのだ。
そして、これまでの生涯で最も死に近付いたこの瞬間、恍惚と羨望と確信が混ざり合った視界の中、自分と
疑似
「……シル、ティ」
「ん?」
「僕の荷物、もっと増やしても、いいよ。
「そ。……そう? じゃあ、もうちょっとだけね」
このヒトついに
たまに刃物に声をかけることもある自分を棚に上げて、シルティは少しだけ引いた。
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