第177話 剣竜と鎚尾竜
「即答だね。いいの?」
「はい! 断る理由が一個もありません!」
「言うまでもないけどさ。死ぬかもしれないよ」
「竜に殺されるならそれでもいいです」
「……。狩り好きだとは聞いてたけど。筋金入りだなぁ」
「んふふ。竜に挑める機会なんて、お金払っても欲しいものですから」
かつて
「ふは。聞いてた通りだなあ」
カトレアは目の前の光景を感慨深く噛み締めていた。
これがシルティ・フェリス。いや、これでこそシルティ・フェリスだ。
当初、
切っ掛けは、
そう。カトレアは、竜が大好きなのだ。
父が
ありとあらゆる竜が好き。竜のことだったらなんでも知りたい。知らずにはいられない。
姿形も。生態や魔法も。そして、
「それで、なにを狙うんですか? やっぱり
「あー、いや。
カトレアが嘆息した。
誇張抜きで常に飛んでいる
つまり、狙って狩るのは不可能ということである。
空を見上げて竜が降ってくるのを何十年と待てるほど、
「私が狙っているのはこいつ」
カトレアは
「……ンクっ」
液体が形を成しているとは思えぬほど精巧に作られた模型を前にして、シルティは生唾を飲み込んだ。
「知ってる?」
「えー、と」
シルティは意識的に思考を切り替え、身を乗り出して触手を観察した。
一見してわかるような
体表の背面部には
なにより特徴的なのは、胴長と同程度の長さの尻尾か。
(んんーっと。……ちょっと
猪に似た樽形の胴体、背面を
興味を惹かれたのだろう、レヴィンも身体を起こして
カトレアの触手をじっと見つめながら
「初めて見る竜です。ノスブラ大陸に
「おっ! そうそう! この竜は
シルティの答えを聞き、カトレアは殊更に嬉しそうな声を上げた。
「
「えっ……知らなかった。あれ、こっちにも居るんですか」
「うん。まぁ僕も実際に見たことはないんだけど」
触手をもう一本生やし、そちらで
ミニチュアの
食事を終えた
もちろん実際には無音なのだが、幻聴が聞こえそうなほどに生き生きとした動きだ。
「おおー。凄い」
これだけで小銭を稼げそうな見事な芸である。
レヴィンは随分と熱心な様子で
珀晶はどうやっても動かせないので、動きを再現できる
「
「すぷ? サゴ、マ、え?」
なにやら耳慣れない単語がカトレアの唇から飛び出した。
「
「格好いいよね。学者さんが死骸で試したら、
シルティが人差し指を伸ばし、模型の
「初めて聞きました。
「現地では、たまーに見つかる死骸からこの棘を採取して、湾刀に加工するらしいよ」
「えっ!?」
大きな音を立て、シルティが勢いよく立ち上がった。その瞳は渇望でどろどろに溶けている。
「ノスブラじゃそんなことしてなっ……! がああッ! なにそれめっちゃ欲しい!!」
「はっは。がああッ、てなんだよ」
病的な刃物好きというのも本当らしいな、とカトレアは苦笑した。
「まぁ、手に入れるのは無理だと思うけどね。全部領主さんが持ってっちゃうらしいから。」
「えっ? はっ!? そんな、横暴な!!」
「僕にそんなこと言われても。ぶっちゃけ政治の道具なんだよね、その刀」
「せっ……。ああ……なる、ほど……」
背景を理解したシルティはがっくりと肩を落とした。
狩猟者たちが
六肢竜から作った湾刀なのだ。その価値はまさしく威光と称すべきものとなる。献上するにせよ
無論、充分な対価は支払われるだろうが、シルティにとって重要な
「少人数で狩ったなら、一本くらいちょろまかせるかもよ? ばれたら懲役だけど」
「いえ。私、刃物を手に入れるなら、
「そ……そっか」
血走った目が
「んンッ。今は
カトレアが咳払いをしつつ
「これは
「
「アルベニセの
「あ。
「おっ? そうそう、その辺。その草原のもっとずっと奥に生息してる竜なんだ。ずっと狩りたかったんだけど、竜狩りに乗り気になってくれるヒトがなかなか見つからなくてさ」
竜は世界最強である。人里近くに現れたため討伐しなければならない、というならともかく、自分から生息地に突っ込んで狩るような命知らずは、狩猟者でもそう多くはいないのだ。
幼い顔を嬉しそうに緩ませて、カトレアはお茶を飲み干した。
「
「んふ。楽しみです」
シルティもまたお茶を飲み干し、上唇に付いた雫をぺろりと舐めた。
「それじゃ、カトレアさ……カトレア。さっそく模擬戦しましょうか」
「……。え、模擬戦?」
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